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トルネード  作者: みつ
9/10

【天使と悪魔】①

【終わっていて】【終わっている】現実だった。


昨今、己を色んな角度から鏡で見ると自身が明らかに老化しているのが見えていた。


僕の昔からの夢…。

僕は男性で、生涯を寄り添える、ただ一人の女性パートナーが欲しかった。

互いの歳は近いことがベストだった。

若いときの、お互いも知り尽くしている…。

二人が歳老いていくとき、

パートナーが、ふいに言う。

「貴方、歳をとりましたね…。」と。

僕は、それに対して微笑する。

「君も、そうだよ♪」とは、

決して言わずに、ただただ笑う…。


そんな、僕の夢は、もう叶わなくなってしまったというわけだ。

今、現在、独り身で淡々と生活を送る僕は、自宅から外に出て外界に触れ合うとき、見ず知らずの他人から、

「あの~、おっさん、どいてくれる?」

「おじさん、ありがと♪」と、いつ、言われるのではないかとドキドキして日々を過ごしていた。


僕が自他ともに、まちがいなく若いと認められていた25歳頃の時分に、一つの思い出が、ある。


当時、配送センターの仕事をしていた僕は、とある客から、介護用のベッドを家に設置してくれ、との依頼を承った。

当時、そのケースは、よくあることで、僕は、その配送を何度も経験していた。

今回も同じようにだ、と僕は会社の車に組立式の介護ベッドを積み込み、その御宅に着くと手慣れた手つき、で運搬、組立、設置を行い、無事、会社に帰社した。


翌日である。

会社の上司が昨日、搬入したベッドをそのまま、撤去してきてくれ、と僕に言った。

戸惑いながらも僕は言われたように。

撤去も難なく終え、帰社した僕は、その撤去理由を上司に尋ねた。


僕が搬入した介護ベッドの御宅は若い夫婦と、夫である父との三人暮らしが長く続いていた。

その父は、齢80で、大きく体調を崩した。しばらくの入院生活。

それが退院となった。

入院前、父は自宅において布団で寝起きをしていた。

若夫婦の父は病院生活で、ベッドからの起床が、とても楽だったと彼らに述べた。

それを聞いた若夫婦は、父の退院に合わせて、介護ベッドを用意した。

それを搬入したのが僕である。

自宅に帰った父は、

羽目を外した。

入院生活が窮屈で、キツかったのもあるのだろう。

帰宅した晩に、

今まで、絶っていた御酒と煙草を好きなだけ嗜み、介護ベッドで眠りに就いた…

そして、彼は翌日、天国に旅立ったのである…。


ハチミツを乳児に与えてはいけない、と聞いたことがある。

御酒や煙草は、この国では成人にしか、許されてはいない。

御酒は、ほどよい量なら、身体に良いという伝えがあるが、過度な飲酒で心身を悪くするケースは、巷には、ありふれていて、

煙草に関しては、

【百害あって、一利なし】とも言われている。


 僕の夢は、潰えた…。

今日(こんにち)、僕が、まだ生きて己の誇れることがあるとしたら、一切の飲酒、喫煙をしてはいないことだった。


 『懸賞』というのがあって、応募はハガキのみで締め切りは、8月31日までとあったとする。僕が応募する時、とかく早めにハガキを出す。

僕は、受け手に8月31日までに届けたいわけであるから、そうすることが僕はベターであると思うし、受け手側も必ず、どこかで締め切らないといけない…。



 【きっかけ】というのがあるとしたら、

それは、僕が人生で初めてインフルエンザにかかったことから始まる…。

いや、しかし、それは、もっと前からだったのであろうか……?


その時、僕は疲労感が半端なかった。色んな込み入ったことがあり、ろくに食事、睡眠も取らず、世話しなく外を出歩いていた。

その過程で人混みに入ることも少なくなく、

ある朝、目覚めると身体の調子が半端なく悪かった。医者に行き、インフルエンザと判明する。

僕は高熱にうなされ三日三晩、自室に缶詰だった。


そして、四日後、布団から、のそりと這い出た僕は、己の回復を感じながら、更に三日間、家に籠り生活していが、頭が常にボーッとしていた。

週が明けて、やっと本来の己の体調だと確信したとき、

男友達の伊勢から、電話があった。


僕も伊勢も、【東京】に住んでいた。

僕らは、その日の夕方、行きつけの喫茶店で会うことに、なった。


僕は15時くらいに喫茶店に入り、しばし、一人でコーヒーを楽しんでいた。

これを僕は、幸せだと感じていた。

御店に行き、優雅に美味いコーヒーを飲む…

これが、やりたくても、やれない…

また、それ以前に幼くして様々な理由で世を去ってしまう人達が、この世界には、どれだけいることか……。


僕は常に新聞、テレビ、ラジオ、雑誌、ネットにおいてアンテナを張り巡らしており、久しく、

それをしていなかったのが、

インフルエンザのせいにおいての、この一週間だった。


(なにか、雑誌や新聞でも見ようかな…)と、この喫茶店にある、それらが置いてある場所に赴こうとした時、

伊勢は、やってきた。

ボックス席にいる僕を見つけ、彼は僕の正面に座った。


伊勢とは幼馴染みで、僕は高卒で社会に出たが、伊勢は大学に進学した。

彼は苦学生だった。それでも大学を見事、卒業し、今はルポライターをしていた。


僕らが二十歳の時、僕は社会人二年目で、伊勢は大学二回生だった。

自動車免許を取り、マイカーを所有した僕は、ときおり助手席に伊勢を乗せて二人で遊びに行った。

その際、伊勢から食事をしようという提案は一切、出なかった。

僕が食事に誘うと、

いつも、「俺は、お金がない。」と返ってきて、

じゃあ、僕が奢る♪となった。

伊勢は飲食店にて、本当に好きなようにオーダーしていた。己が食べきれないくらいは注文しない。

でも、好きなものを好きなだけ食べていた。

僕は、そんな伊勢を好いていた。

若いときの僕と伊勢の外食は、いつも、そうだった。

それで、

僕は会社の上司に、例えば、ファミレスで、

「おごってやる、好きなの注文しろ♪」と言われ、

その際は、必ず安価な定食を頼むように、なった。

『人間の心』は、複雑なのだ。

昨今、伊勢とは、いつも割り勘だ。


店内に客は疎らで、大の男が二人、隅っこのボックス席で会話を始める。

伊勢もコーヒーを頼み、それが運ばれてきて二人で、しばし、談笑した。

ただ長年の付き合いで伊勢は何か僕に言いたいことがあるな…と僕は踏んでいて、

実際、その通りであった。


伊勢は会話が途切れた時、一冊の薄い本を彼のバックから机に出してきた。

『烈火のボクサー  タラヲ 作』という、その本を、

彼は、

「この本なんだけどさ、携帯小説から始まり、文庫になったんだけど……」


伊勢の声が聞こえてはいたが、その内容は、てんで僕の頭には入ってこなかった…。

僕は、動揺していたからだ。

なぜなら、『烈火のボクサー』の著者は何を隠そう、この僕だった。

いや、それを今まで誰にも言わずに隠している僕だった。

家族にすら内緒にしていた。

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