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僕が家に着くと、
母が夕飯を作っており、
兄は仕事から帰り、ウィスキーを飲んでいた。
「ヒロ、おまえも、1杯、やるか?」と言われ、
「宗教上の理由で、ちょっと…」と返すと、
兄が、それは、それは、驚いたので、
僕は、笑いながら、兄さん、ジョーダンだよ、ジョーダン!と兄と飲み始めた。
世間話も一通りして、自然と畑中のことを兄に話していた。
事細かく、話していた。
兄は、黙って聞いていた。
そして、言う。
「なぁ、美味いものを食べないと、美味いものは語れない、って、聞いたことないか?」
僕は、「それとなくは…。」と返すと、
兄は、頭をかきながら
「いやな、兄ちゃん、若いときに車にハマってな…おまえも知ってるが、乗りたい車に好きなだけ乗り換えて、カスタマイズも、やりたいだけやる……あるとき、貯金の大切さに気づいて今は、そういった車へのオカネの使い方はしていないが正直、それがあって現在まとまった金額の貯金が俺は無い…。」と述べ、ため息をついた。
兄は、続けた。
「ある男が、いる。
30歳で仕事を辞めて、貯めた300万円を全て遊びに使いに使う…瞬く間に、お金はなくなり、男は、最後に残った3000円で、宝くじ10枚を買う……
結果……」
「…結果?」
「とまぁ、即席なら、こんな兄でも創作話は出来て、その話の結末は、俺の意のままだってことだよ♪」
その時、母の、「鍋、出来たわよ♪」の声がした。
ちょうど父も帰ってきて、
秋が深まり冬が近づく気配がする、その晩、
僕の家では食卓を家族で囲み、
それは温かい温かい鍋を食べた…。