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僕の家族  作者: 蒼兎
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蒼葉

私は外の世界に興味がない。

俺は外の世界が好きや。いろんな世界を見てみたい。大体どのドアも半開きくらいやから完全に閉まってて木の扉やのに錆がついてるやつがめっちゃ目立って見えて、中がどうなってんのか気になったんや。それに他と違って木で出来てて色とかは綺麗なくせになボロボロですぐに壊せそうやったから、思い切って突き破ってみた。

扉は思ってたよりもずっと簡単に壊れて、勢いをつけすぎた俺はその世界に放り出される形になってしまった。

そこには何も無かった。

正しくはあるにはあったんやけど、何一つ機能するものが無かった。まるで飴細工のように歪み、鏡面が絵の具で厚く適当に塗られた、何も見ることの出来ない鏡。一般的に空がある場所には、黒い靄が掛かりその奥で何かがたまに光っていた。確かに光っているのに、それが何色なんかは俺には分からんかった。不思議な感覚で、例えるならば脳と目が繋がってないような、またあまりにも種類が多すぎて脳の処理が追いついていないような感覚やった。

あとは、扉とおんなじように木で出来てんのに何故か錆がついてる引き出しやら、元はおもちゃやったようにも見える得体の知れない残骸の山なんかがあった。

その奥に他のものと同じように、錆びれた気配を漂わせて、ただ上を見ている、見えているのかさえも分からないほど微動だにせず、顔を上に向けている何かがいた。

それは腰に鎖が何重にも巻かれていて、その先はさっきのガラクタの山に入り込んでいて、とても取れそうには見えんかった。

それは俺が話しかけると驚いたようにほんの少しだけ目を丸くして、こっちを向いた。聞こえてるみたいや。そう思ってとりあえず質問とか自分のことを話しまくった。聞こえてるみたいやけど、それが話そうとすることは無く、ただ俺の方を注視してる感じやった。

俺が一通り喋り終わって一息つくと、何かが聞こえてきた。金属を金属でなぞるような、か細く掠れた音。しばらくしてそれが、ここにいる何かの声だと分かった。何度かこんな感じの音を出したあと、段々と単語が聞き取れるようになってきた。

「ソレ…ナニ……ドコ…クル?」

ソレっていうのは多分俺のことかな。ナニやから俺が何かで、ドコ、クルはまんまどっからきたかっちゅうことやろ。

「俺は違う所の住人や。どっからきたかは詳しいことは分からんけど、あの扉の方からここに来てん。」俺は、すぐさっき自分が壊した扉の方を指差しながら答えた。

そしたらそいつはちょっとびっくりしたらしく、改めて俺と扉を交互に見てた。

俺はとりあえずゆっくりいろんなことを話して、教えた。

こいつは不思議なことに言葉を部分的にだけ理解してるんやと思う。一番初めの時も単語だけやったし。俺が話してる時とか質問してる時とかも半分も理解できてへんかったんかも知れへん。あ、やから喋ってくれへんかったんか。て、我ながら気づくの遅いなぁ。

まあそれは置いといて、その甲斐もあって段々言葉を思い出してきたらしい。最近一緒にゆっくりやけど会話ができるようになってん。やから、ずっとこいつとかあいつっていうのもなかなかめんどくさいし名前付けてん。

「蒼葉」って言う名前。

由来は、もちろん俺の名前「蒼太」から蒼をとって、葉はもっとしっかり明るいところで育ってほしいって言うのと、もっと言葉を話してほしいなって思ったからやねん。我ながら呼びやすいしいい名前やと思わへん?

蒼葉は自分の名前はもともとつけてもらってたらしいねんけど。まあ俺も一回そうなってたまたまその時お邪魔してた世界の人につけてもらったから、人のことは言えへんのやけどな。

 それで、段々蒼葉のことが分かってきた。あいつは自分のことをどっかで押し殺してるんかも知れへん。俺が聞いたら答えるし、雑談もゆっくりならできて、感情の表現もあるねんけどなんか嘘っぽく見える。

全部作り物みたいな綺麗さがあって、仮面を被ってるみたいに感じる。他にもおかしいところがあって、蒼葉は俺が逆に心配になるくらい何にも興味を持たへんねん。自分の腰に鎖が巻かれてる理由も前からこうやったからで終わってるし、この世界での生活や俺のことも知ろうと思ってないようで、なにに対しても

「いつものことやからこれが普通。」

で終わってんねん。

しかもこやつご飯も食べへんし、寝ることもせえへんねんで。おかしいやろ。俺はご飯食べへんかったらめっちゃお腹すいて動けへんくなるし、寝えへんかったら頭痛なんねんで。しかも蒼葉の話してることが真実やとしたらずっとおんなじ姿勢で座ってたらしいしな。三角座りで上を見上げんのってそれだけでも首と背中おかしくなりそうなもんやのにその姿勢で微動だにしてへんかってんからな。俺とはなんか違うやつみたいや。

あいつのとこだけ時間が止まってるみたいになってた。


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