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【小説】月夜のうさぎ

連載小説月夜のうさぎのプロローグ部分を朗読用に改変してあります。

15分から20分かかる作品です。


Spoonユーザーの方は、こちらの台本をご自由にキャストやライブでご使用頂けます。報告も基本不要です。(個人的にCASTのシェアをいただいた方には、聞いた感想のコメントを残させていただきます。)


≪ライブ使用の場合≫

以下の紹介

作者名:夏凪ひまり ※必須


(余裕があれば↓)

作者プロフィール

関西在住、20代(女性)

日曜日の22時からたまひまらじお!というダブルDJの企画枠をしている。笑い足りてるぅ?


≪CAST使用の場合≫


※必須

タイトル欄

この作品のタイトル

ハッシュタグ欄

#夏凪ひまり


(できる人のみ↓)

サムネイル

タイトル、作者名を表記。

サムネイル作成希望者はTwitterのDMまでご連絡ください。






 ♪うーさぎ うさぎ


 なに見て跳ねる


 十五夜お月様 見て 跳ねる……────








 ────西暦2x15年4月15日。



 その伝説は、ある日現実のものとなる。



 永年(ながねん)の調査の結果、WASA(ワサ)世界宇宙航空共同研究開発局(せかいうちゅうこうくうきょうどうけんきゅうかいはつきょく)は、人類が本格的に月に移住できるとういう研究結果を発表した。


 このところ世界各地では異常気象や天変地異(てんぺんちい)が立て続けに起こり、暗闇の増していく世界に、危機を感じた人々は、新たなる住処(すみか)を求めて競うように宇宙開発に(いそ)しんでいた。


 そんな中舞い込んだこのニュースは、世界中の人々に大いなる夢と希望を与え、人々は新たに生まれた可能性に皆、歓喜(かんき)した。


 お祝いムードの中、各国から大々的な開発チームが続々と月に向けて送り込まれ、移住に向けた準備が進められた。





 これにより、人々は出会ってしまったのだ。


 月に隠れ住んでいた先住民族『兎人(うひと)』の存在に────。





 その先住民族は、大まかな見た目は地球人と変わりなかった。しかし、頭上にはうさぎのような長い耳、お尻にはふさふさの短い尻尾が生えていた。


 兎人と地球人は最初こそお互いに驚きはしたものの、次第に打ち解けあい、友好を深めていった。



 そんなある日、兎人(うひと)は地球人から「地球に来てみないか」という提案を受ける。


 聞くにあの青い星には、何十億もの数多(あまた)の命が存在し、この月では見たこともない高度な文明が(きず)かれているという。

「月を住みやすくする代わりに少しの間地球に移り住んで欲しい」

「君たち兎人を地球人は盛大に歓迎するだろう」

 そんな言葉を信じ、当時の兎人の族長は(こころよ)くその申し出に応じたのだった。


 そして、兎人の族長は、宇宙旅行に耐え得る体力が充分にあるものを大勢連れて地球に旅立った。


 地球にやってきた彼らは聞かされていた通りの大歓声の中迎えられる事となる。


 月から来たという世にも珍しい種族を一目見ようと世界中から人々が駆けつけたのだ。



 会場は豪華なレットカーペットが()かれ、一国の要人(ようじん)を迎える時以上の警備と報道陣に囲まれた中、彼らは地球に降り立った。



 ────その瞬間、人々は息を呑んだ。


 まるで世界中の人々が示し合わせたかのように、その場に数秒間の沈黙が流れたのだ。


 なぜなら、兎人(うひと)の姿は、人類の想像よりも(はるか)かに美しかったからである……────。



 すらりと伸びた手足に、透き通るような白い肌。夜空の輝きを閉じ込めたかのように輝く瞳は見つめ合えば吸い込まれそうだ。(つや)やかな髪は上質(じょうしつ)絹糸(きぬいと)のようで風になびくたびに月の光を浴びて輝いた。


 まるで、この世の神が舞い降りたかのような光景に言葉を失っていた会場は、次の瞬間、割れんばかりの歓声で溢れかえった。



 それから数ヶ月間、国を上げて地球人は日夜(にちや)()わず月の人々を歓迎し、世界中がお祭り騒ぎだった。


 そして、その美しさに魅了された人々から、兎人(うひと)には多くの贈り物が寄せられていた。

 金銀財宝、至極(しごく)のグルメ、月では見たことのない道具の数々……果てにはこの地球の土地や身分に教育、そして自治権が与えられたのだ。


 兎人(うひと)達にとっては、目にするものが全て真新(まあたら)しく、なに不自由なく暮らせる楽しい世界に来れたという幸運に皆感謝した。


 手厚い待遇に感動した兎人(うひと)達は、自分たちにできることがあるならばと、月で暮らすための技術を地球人に惜しみなく教え、月の開発にも大いに貢献した。



 ただ一つ、誤算があったとすれば、兎人(うひと)たちは知らなかったのだ。人間が欲深い生き物であるということを────。





 兎人(うひと)が移住し、3年ほど経ったある日、事件は起こった。

 人間の学校に通わせていた兎人(うひと)の少女が、集団で行方不明になったのである。これまで数人が迷子になるなどということはよくあったのだが、まとめて行方不明になるなどということはなかった。


 兎人(うひと)の大人たちは必死で少女達を探し回った。しかし、唯一見つかった少女は、何者かに(ひど)凌辱(りょうじょく)され、瞳を見開いたまま冷たくなっていた。


 兎人(うひと)の族長は激しく怒り狂い、首謀者(しゅぼうしゃ)のアジトを突き止めると、腕の立つものを数人連れて復讐(ふくしゅう)せんと乗り込んだ。


 頭を叩けば全てが終わる。その戦いで姿を見せたのは、兎人(うひと)の自治区と人間の世界の橋渡しをしていた人物、この地球に来ないかと穏やかな笑顔で語っていた人物、その人であった。


 兎人(うひと)は最初から(だま)されていたのだ。失意(しつい)の中、精鋭(せいえい)達は奮闘(ふんとう)したが、数の暴力の前に頭に近づくことさえ出来ずに無念(むねん)のまま散っていった。




 時を同じくして、兎人(うひと)の中で奇妙(きみょう)(やまい)相次(あいつ)いでいた。兎人(うひと)の大人達が、突然血を吐いて倒れたのである。一定の年齢以上のものにだけ症状が現れ、時をおかずに皆亡くなってしまった。


 月から地球に生活環境が変わったことが原因とされているが、詳細のついては分からず仕舞いだった。


 この二つの事件のせいで、族長の息子はまだ若くして族長となり、子供ばかり残った兎人(うひと)一族の命運は、族長の子供である、わずか14歳の少年とその妹である9歳の少女に委ねられることとなったのである。


 冷たくなった大人達に泣きすがる子供達。突然突きつけられた悲しい現実を、兄妹は身を寄せ合いただ呆然(ぼうぜん)と見ている事しか出来なかった。






 月日は流れ、兎人が地球にやってきて10年が過ぎた────。



 まだ幼かった少年少女も、もう大人の仲間入りをする。兄は今年21歳、妹は16歳の高校生に成長していた。


 この10年で兎人(うひと)を取り巻く環境は大きく変わっていた。故郷の月は、最早(もはや)人間の独裁地区に変わっており、兎人(うひと)は月に帰ることも出来ずに、人に混じり社会の片隅にひっそりと生きていた。


 女も男も見つかれば、捕まり、奴隷(どれい)として金持ちに売られた。美しい兎人(うひと)はいつしか金と権力の象徴(しょうちょう)になっていた。


 兎人(うひと)の中には身体を売って生計を立てているものもおり、いつしか人々からは軽蔑の目で見られるようになっていた。



 そんなある日。兎人を所有していた金持ち達が突然、連続して不可解(ふかかい)な死を遂げる。この事件には兎人(うひと)が関わっていたと報道され、社会は兎人をさらに気味悪がり排除するような空気が流れた。


 そんな不名誉がささやかれる中、族長である兄は兎人(うひと)の社会的立場をなんとか回復しようと奔走(ほんそう)した。

 兄はその類稀(たぐいまれ)なる容姿を生かし、血を吐くような努力の末、美しすぎる俳優、モデル、タレントとして有名になり、まだ幼い子供が残る兎人一族の資金源を支えていた。


 一方、母の愛をろくに知らぬまま、母親と生き別れた族長の妹は、『月に帰りたい』と、ただ夜な夜な泣くばかりであった。


 族長の母親は、次の子供を身篭(みごも)っていた上に病弱であったため、地球へ来る事が出来なかったのである。


 妹は、いつか月に帰ることが出来る。それだけを信じ、この地獄とも思える日々をひたすら耐え続けているのだ。




 二人は生きていかなければない。


 本当の自分を隠し、(いつわ)りの仮面をかぶって。


 いつか、自分の望む幸せを手に入れるその時まで。




 この物語は、相対する夢を抱く、二人の族長の子供達のお話である。




 涙うさぎは満月を夢見て……

 強がりうさぎは満月に背を向けた…… 。


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