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いつもとおなじ いつもとちがう

作者: 西澤 瑠梨



彼女はいつも朝が弱い。アラームがなってもすぐ起きないし声をかけても起きない。いや、返事はするのだ。でもするのは返事だけ。たまにその返事もない。



そういう時は顔をもみくちゃにする。ちょっと怒られる。起きてはくれるけど機嫌の悪い彼女に、だって起きてくれないんだもん、と言い訳してみる。


彼女はこう言う。返事だけの時は起きてない。起き上がってないだけで起きてる。どっちやねん、と別に関西人ではないけど突っ込みたくなるのも仕方ない。そんなのどうやって判断するのかちっともわかりやしない。


そんな彼女を今朝も起こす。今日はちゃんと起きてもらわなければ。昨日の夜に、明日の朝はちゃんと起きようね、と言ってから寝たし、なんと言ってもこのホテルの朝食バイキングは美味しいらしくて楽しみにしているから。この美味しいものを食べるだけの旅行中に 、朝ごはんという一食分を逃すわけにはいかない。


たとえ、彼女がいつも朝ごはんを食べない人だとしても。


隣で寝ている彼女に抱きつく。腕まくらをすんなりさせてくれるのは今ちょっと起きた証拠。いつも気がつくと彼女はもう一回寝てしまっていて、つられて寝過ごすことが多くて困っている。


今日は寝過ごさないように気をつけなければ。腕の中に彼女をしっかり抱きしめて顔にスリスリした。目をつぶっているけどちょっと嫌そうな顔をする彼女は可愛い。



名前を呼んでみる。ん。とだけ返事をするけど目は開けてくれない。何回か呼んでいたら段々返事をしてくれなくなった。寝た。なんと。これはお仕置きをしなければ。

ほっぺや鼻をつまんでみたり、顔全体を撫でくりまわしたり。うっとおしそうな彼女の顔が面白い。ついに彼女が目を開けてこっちを向いた。すごく、機嫌が悪そうな顔だ。



何も言わず彼女が反対向きに寝返りをうった。ごめんね、こっち向いてよ、と彼女にすり寄る。怒らせたかったわけじゃないのだ。なに、かまって欲しいの、と彼女がそっぽを向いたまま言った。そう言われると少しいじけてしまう。そうだけどそうじゃない。


黙っていたら彼女はこっちを向いて、ほらぎゅってしよ、と腕を差し出してきた。そう、欲しかったのはこれ。抱きしめてくれた彼女の腕を何度も握り返していたら、して欲しいなら早く言えばいいのに、とちょっと怒られた。起こしたいわけじゃないのだ。


いつもは寝ていても、名前を呼んだらすぐ腕を伸ばしてくれるけど今日はそうしてくれなかっただけ。いじけていたら頭を撫でられて、離れていく手を無言で頭に引っ張るとそのまま撫でていてくれた。




また彼女につられて寝ていた。起きるつもりの時間のアラームが鳴っている。彼女の方を向いたら、薄く目が開いていた。やっぱりもう一度抱きついてぎゅっとして、起きる?と聞いたらうん、と返ってきたけど動く気配はない。


とりあえずもうちょっとダラダラする雰囲気が満載だ。起きて、と催促したら起きてる、と返ってくる。起きてない、これは。起きてるもん、と言われるけどどうだか。



起き上がる気配のない彼女を支えて起き上がらせる。ベッドで座っている彼女を置いて顔を洗いに行く。ついでに歯磨きもしてベッドに戻ると彼女は凄い体勢で突っ伏していた。もー、と言いながら彼女をまた起き上がらせて服を着替える。ようやく彼女は眠そうに洗面所に行った。



靴下を履いていると彼女が戻ってきた。洗面所から帰ってきた彼女はいつもシャキッとしている。さっきまであんなにグダグダだったのに。顔を洗って歯磨きをして、髪を整えてから戻ってくるからだと言っていたけど、面白い。じゃあ最初から起きようよ、と思う。それとこれは違うらしい。



彼女が服を着替える前にベッドに戻って、もう一度抱きしめる。あんまり長く抱きしめていたらまた彼女が寝てしまうから、寝てしまわないようにまた顔をもみくちゃにしてみたりする。嫌がられるけれど。一通り彼女で遊んで、着替えを再開した。



彼女も着替えようと起き上がって服を探し始める。何着よう、といつも悩ましそうだ。靴下一つですごく悩んでいたりする時もあって、たまに優柔不断がすぎる。そういう時は思わず口出ししてしまう。彼女はかわいいしきっと何を合わせてもおかしくないから。



彼女がようやく着替えているあいだに髪の毛を直す。いつも寝癖が酷い。彼女には髪の毛がピロピロしてると謎に笑われる。なんだピロピロって。そういう彼女の髪だって、寝起きは笑っちゃいそうだ。頑固な寝癖にドライヤーと櫛で格闘しながら彼女を覗くと、ベッドと荷物を片付けていた。寝癖はもう直らない。きっとこれでも大丈夫だ。


彼女の所に戻って準備できた?と聞く。まだこれからお化粧をするらしい。髪の毛どう?と聞く。寝癖はマシになったか。いいんじゃない?と言われたから大丈夫だ。彼女がお化粧をしている間枕を抱きしめてゴロゴロしていた。



やっと出る準備ができたみたいだ。忘れ物がないか確認する。どうせ朝ご飯の後にまた部屋に戻ってくる。朝食券とルームキーさえあれば大丈夫なのに、彼女は心配そうだ。



部屋を出る前にハグをする。これはお決まりだ。朝あれだけくっついていたのに、ちょっとだけまだ寂しいから。同時に出るし同じところに行くのに。やっとこれから朝ごはんだ。美味しいと話題だった朝食バイキング。楽しみだね、と彼女が言う。いつもは朝ごはんを食べないけれど、旅行は特別だね、と。




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