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第9話 見るなと言われりゃ見てしまう

 パッシブスキル【オートマッピング】の地図上で観た冒険者ギルドは、宿屋10棟分でも足りないくらいの広さで、立派な建造物だった。


 外壁は石で作られているのか、他の木造の建物と比べ頑丈そうだ。

 カーツロンド街の西部に位置する冒険者ギルドは、人の往来が絶えず、この街の要といっても過言ではなさそうだ。それだけ重要な場所なんだろう。


 屈強そうな人たちが出入りしているのが見えた。


ラズベル「さ、ワタシたちも入るわよ」



 ――《カーツロンド街 西部 冒険者ギルド》


 入り口を通過すると、そこはまるでオフィスビルの1階のように開けている造りになっていた。

 どうやら窓口も複数あるようだ。


 酒場を彷彿させるテーブルと椅子が乱立しているが、ゲームや漫画で観たことのある賑やかな雰囲気そのままだった。

 俺は少しワクワクしていた。


随分(ずいぶん)人が多いね。みんな冒険者かな?」


フレア「これからシンもそのうちの一人になるけどね。いつでもここは冒険者で(あふ)れてるよ」


ラズベル「シン、登録はこっちよ」


 俺はラズベルに手引きされ、受付の前に移動すると、向こうから声を掛けてくれた。


受付嬢「こんにちは。初めてみる方ですね、本日のご用件をお伺いします」


「こんにちは。冒険者の登録をお願いします。ギルドライセンスが必要で……」


 すると、ラズベルが会話に割って入ってきた。

 被っていたフードを(まく)り、明るい紫色の髪を()でる。


ラズベル「ハァイ、ステラ! 相変わらずキレイな手してるわね。カルストいる?」


 ステラと呼ばれた受付嬢は、驚いた様子でその場で立ち上がった。

 白い帽子が少しずれて、慌てて直すその仕草は可愛いく、表情はとても明るかった。


ステラ「あ、ラズベルさん! お久しぶりです! いつ王都から戻られたんですか?」


ラズベル「ちょっと忘れ物を取りに、ね。またすぐ戻るわよ? このシンを連れてね」


フレア「……私もいるんですけどぉ?」


 そう言ってラズベルは俺の胸に手を置いて、くっついてきた。フレアの視線が痛い。



ステラ「そうでしたか。マスターはいますが、今は息つく間もなく書類と向き合っていると思います」


ラズベル「そう。じゃあ、ワタシが来てるから今すぐ面談したいって伝えてくれるかしら?」


ステラ「了解しました!」


 ラズベルとここのギルドマスターは顔見知りだろうか。

 ステラは思い出したように俺のほうを見ると、勢いよく頭を下げた。


ステラ「あぁ、失礼しました! ではこちらの用紙に記入してお待ちください」


 俺に登録用紙を差し出し、ステラは奥の扉を開けて駆け足でギルドマスターの元へ向かった。

 俺は登録用紙に目を通すと、書ける項目に記入しようとした。


 名前、年齢、出身地、習得技術? 習得魔法系統……?


 ……書ける項目が少ないな。あと、俺の書く字は伝わるのか?


 とりあえずペンを手に俺は用紙に名前を書こうとした。おぉ、なんだこの文字は。

 パッシブスキル【オールコミュニティ】が常時発動しているため、書こうとした文字がこの世界の文字に自動変換されて記入出来た。


 そう言えば、建物に掲示(けいじ)されていた文字も自然と読めたな。


フレア「……シン=タケガミ。18歳……シンって私の1個年上だったのね」


 横でフレアが手を後ろに組みながら楽しそうに覗いていた。

 俺はほとんど記入できないと分かると、ペンを置いた。


ラズベル「シン、この後の面談、アナタに着いてきてもらうわ。ワタシからカレに、シンについて話したいことがあるの」


「彼っていうとここのギルドマスターか。俺の何を話すんだ?」


ラズベル「いいえ、シンは何もしなくて良いの。ただ、冒険者の登録がこんな紙切れ1枚じゃ何も伝わらないから、せっかくならマスターを務めるカレに直接見てもらいたくて」


 ウキウキしているようだ。

 少しだけ嫌な予感がするが、どのみち登録するならギルドマスターに会っておくのも有りだろう。


フレア「ねぇラズベル。私も付いて行っていいの?」


ラズベル「えぇ、カレは女のコに目がないから喜んで会ってくれるわ」


フレア「そうなんだ、じゃあやっぱり会いたくないかも!」


 心底嫌そうだった。



 ――そうこうしているうちに、受付嬢ステラがまた駆け足で俺たちのもとへ戻ってきた。


ステラ「ハァ、ハァ、お待たせ、しました、ハァ」


「大丈夫ですか?」


 ギルドマスターの部屋は息切れするぐらい距離があるのだろうか。

 ステラは一度深呼吸し、落ち着きを取り戻した。


ステラ「ご心配ありがとうございます。マスターの承諾(しょうだく)を得ましたのでご案内します、こちらへどうぞ」


 ステラに案内されながら俺は周りを観察した。


 直線的な長い通路、左右に扉がいくつも並んでいるが、発達した文明のように感じる。

 扉にはドアノブがあり、床にはカーペットがあり、置かれたインテリアの花瓶はおそらく陶器だ。

 俺は俺のいた世界と似た技術があると推測していた。


 そして直線に飽きた頃、その最奥に冒険者ギルドマスターの部屋があった。

 ステラはコンコンと軽くノックし、入りますと声を掛けた。


 そして扉を開く。


ステラ「皆さんどうぞ、お入りください」



 ――《冒険者ギルド マスタールーム》



 大量の書類に埋もれて顔が見えないが、確かにそこに人はいる。


ステラ「マスター、お呼びしました」


カルスト「おー」


 感情のない返事をしながら、もの凄いスピードで書き散らしていた。

 ふぅーと息を吐きながらその手が止まると、顔を上げてこちらを一瞥(いちべつ)した。


カルスト「おー……おぉ!? ラズベルちゃんじゃないか!!」


ステラ「さっきそう言ったじゃないですか……」


 急にテンションを上げて、冒険者ギルドマスター《カルスト=バランダイン》は笑顔で俺たちのほうへと近づいてきた。


 黒い髪色はこの世界に来てから初めて見た。

 スラっとした背の高い男で、立派な襟章(えりしょう)の付いた黒い服に、派手な赤色のマントを羽織っている。中々にカッコいい。


ラズベル「ウフフ、元気そうね」


カルスト「いやぁ会いに来てくれて嬉しいよ! そちらのカワイイお嬢さんとイケメン青年は?」


 俺よりだいぶ年上のようだが、爽やかな風貌にそのハイテンションは年下のようにも見える。

 実際、声だけ聴くと、その高いトーンから若さを感じる。


フレア「フレア=グリッツァーです。この街の南にある宿屋で働いています」


「シン=タケガミです。旅をしています」


カルスト「ははは、よろしくね~! ギルドマスターのカルスト=バランダインです!」


 旅をしていますと言ったのは無難な選択だと思ったが、ノリの軽そうなギルドマスターの目はごまかせなかった。


カルスト「ふむ……シンくん、キミはちょっと他の冒険者とは雰囲気が違うねぇ。武器とかは持っていないのかい?」


 フレアは短剣、ラズベルは杖を持っている。

 しまった、武器も持たずに旅をする奴はいないか。


「えっと……」


カルスト「まぁ、何でもいいや~。スキルで覗いてみりゃ早そうだしね~」


ラズベル「ウフフ。ねぇカルスト、カレがどんな男のコか興味が沸くのは分かるけど、止めたほうが良いわよ」


 カルストはいま確かにスキルと言った。俺の持っているスキルとは違うスキルか。

 覗くって何をする気だろう……


カルスト「お? 何でだい? 一応確認しておくけど、シンくんは冒険者なんだよね?」


 はいっと手を挙げてステラが説明した。


ステラ「先ほど登録に来たばかりで、ライセンスの取得はまだですが……」


カルスト「まだ? うーん…………」


 肩を(すく)めるカルストに、ラズベルは笑みを浮かべながら話した。


ラズベル「言っておくけど、シンの魔力はワタシよりも格上よ」


カルスト「ははは、冗談はよしてくれっと……シンくん、そこを動かないでくれよ~」


 そう言うとカルストは少し距離を取り、右手を俺に向けて手を開いた。

 その手は(わず)かに輝いているようで、何らかの能力を使おうとする行為が肉眼で確認できる。魔法とは違うな。


「だ、大丈夫なのか、これ」


カルスト「ん、攻撃するわけじゃないから安心してね。俺のスキル【スコープ・サードアイ】は対象のステータス、身体能力を数値化して視認出来るんだ。要するにキミの身体を内側から視るってことだね。ど~れ――」



 バターーーーン!!!



 頭から前のめりに、豪快にカルストは倒れた。



「お、おい気絶してるぞこの人!」


フレア「ひえぇ!」


ステラ「ま、マスター!?」


 マスタールームは静寂(せいじゃく)に包まれた。






挿絵(By みてみん)

◆イラスト:黎 叉武

受付嬢【ステラ=サーティス】《人物》

・カーツロンド街にある冒険者ギルドの受付担当。19歳。女性。身長147cm。体重??kg。

・白の帽子がトレンドマークで、制服を気に入っている。綺麗好きで、爪の手入れは毎日している。茶髪。

・受付嬢とギルドマスターの秘書を兼任している。

・他にも多数の職員がいるが、特にラズベルのお気に入りらしい。シンに興味がある。


ギルドマスター【カルスト=バランダイン】《人物》

・カーツロンド街にある冒険者ギルドのトップ。男性。34歳。身長183cm。体重66kg。

・黒髪で、立派な襟章を付けた黒い服に、派手な赤色のマントを羽織っている。シン曰く、中々にカッコいい。

・スキルと魔法の両方を使いこなす超人。ギルドマスター級の人物は、何かしらのスキルを所有しているらしい。

・天真爛漫で、人懐っこい性格。実力はあるのに妙に残念な男、と巷で噂されている。シンに興味がある。


参照する第三の目【スコープ・サードアイ】《アクティブスキル》

・対象のステータス(身体能力)を参照し、数値化して認識可能。相手との実力を測るのに便利。

・シンがステータスを開いて視るのとほぼ同じように視える。カルストが使用可能。

・アクティブスキルとは、自身の操作で発動させるスキルのこと。

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