第7話 誰がために金は成る
「説明してもらおうか」
ラズベルとその手下達に向かって俺は問いかける。
今のところ被害は無いが、こいつらが危険なことには変わりない。
レヴィン「姐さん、シンさんマジで怒ってません?」
バル「ラズベルさん……」
二人が不安そうにしているが、当の本人はもう完全に脱力しているようだった。
ラズベル「説明するから中でお茶しましょ? いい匂いがするのよね~」
そう言って、宿屋の前にいるフレアに近づいた。
ラズベル「お嬢ちゃん、紅茶をいただけるかしら? 少しだけお邪魔するわね」
フレア「うっ、なんなのこの人」
バル「お騒がせしてすいませんでした」
レヴィン「申し訳ないっす」
敵意が無いと分かると、ますます目的が気になってくる。
俺もため息をしながら宿屋に戻った。
――《カーツロンド街 南部 グリッツァーの宿屋》
チャックが紅茶と珈琲を運んできた。しかしその顔は不愉快そうにムッとしている。
チャック「おう、おめーら。シンに何かしたらただじゃおかねぇからな」
レヴィン「ひっ」
ラズベル「あら……ただじゃおかないって?」
ラズベルは挑発している。
チャック「料金3倍払いだ!」
チャックも挑発している。
「あのなぁ……」
ラズベル「何もしないわ。ちょっと話をするだけよ」
1階フロアの隅の席に俺たち五人は座っている。その中になぜかフレアもいる。
話が聴きたいようだった。
ラズベル「ワタシね、街の郊外に住んでるんだけど、昨日の夕方、とんでもない魔力を感じたのよ。この場所から……ね」
紅茶を一口飲み、話を続けた。
ラズベル「わかる? 数キロ離れたところまで届くレベルの魔力って並のことではないわ。それでちょっと気になって見に来たってわけ」
フレアは、シンによる雷晶石の強烈なフラッシュを思い出していた。
バル「俺たちはラズベルさんに召集されました。危険かもしれないから、と」
レヴィン「……っす」
「それで、なぜ様子見なのに襲ってくるんだよ」
ラズベルは楽しそうに、興奮しながら言った。
ラズベル「だって、ヤバいでしょ! ワタシより強力な魔力の持ち主が現れたのよ!? 強いに決まってるしこのコたちにも負けるはずがない!! 試したくなるでしょ!?」
え? そんな理由で人襲うの? 怖いな異世界。
レヴィン「姐さんはハイウィザードなんすよ」
バル「一般的なウィザードに比べ、遥かに高い魔力を操れるんです。それを上回る人物なんて世界に何人いるのか……」
ラズベル「ウィザードじゃないんでしょ? ワタシ…もっとボウヤのこと知りたいの」
フレアは俺の顔を覗いている。探られているようだった。
確かに感覚的に魔力があるってことしか俺には分からない。
俺は肯定も否定もせず、黙って珈琲を口にした。
ラズベルは何かを感じ取ったのか、話題を変えた。
ラズベル「王都では最近、強い冒険者に絞って大規模に募集しているわ。近いうちに何かあるってことね」
「戦争か?」
ラズベル「どうかしらね。世界情勢をみても人間種が不利なのは間違いないけれど」
種族間の紛争だろうか。というか、冒険者ってやっぱりいるんだな、この世界。
「俺はこの街に来たばかりで、世界のこともよく知らない。教えてくれるか?」
ラズベルはニヤっとした。
ラズベル「ワタシね、ボウヤに興味があるの。王都に行くのは用事があるからで、一緒に付いてきてくれるなら色々教えてあげるわ」
すると、慌てた素振りでフレアが割り込んできた。
フレア「あのっ、私! 私も王都に行く!」
俺はまだ行くとも行かないとも言ってないのに!?
フレア「王都へは商業者ギルドの商業者として研究調査で行きたかったの。この街の薬はまだ質が低いものばかりだから……。私ね、この宿屋が好きだから、宿屋のために何かしたくて。それで、怪我してる人がいてもここで治療できたらいいなって思ってるの」
商業者ギルドなんてのもあるのか。
フレアの考えは面白いし、良いアイデアだ。経済的にも一役買える。
俺は一考した。
「……わかった。ただ、付いて行くには条件が2つある」
まぁ、偉そうに言える立場でもないが、立場をここで作るのは大事だ。
「1つ目は……ラズベル、ボウヤじゃなく俺のことはシンと呼んでもらう。シン=タケガミだ」
ラズベル「ウフフ、わかったわ、シン」
フレア「ラズベル、私も付いて行って良い?」
ラズベル「うーん、シンと二人きりが良いから――」
フレア「よ・ろ・し・く・ね!! フレア=グリッツァーよ!!」
意地でも来るようだ。
そして急にしょんぼりする。
フレア「……あぁ、でも、お店どうしよう。お父さんとお母さん二人だけじゃ大変……」
俺はフレアの肩にポンッと手を乗せ、安心させるように軽く微笑んだ。
「2つ目の条件だ」
注目が集まる。
「レヴィンとバル、だったな。二人とも、しばらくここで働いてくれ」
レヴィン&バル「はいぃ!?」
二人の顔がもの凄く引きつった。冷や汗までかいていた。
ラズベル「そうねぇ、お留守番しててくれる?」
「俺からチャックに話をつけてくるよ。少し待っていてくれ」
そう言って席を立つ。
もちろん彼らの顔はもう確認しない。
俺はチャックに話の内容を告げ、理解を得た。
ナイアも若い子は良く働いてくれそうと、歓迎してくれた。
そして――
チャック「フレア、出発は明日にして、今日はシンと王都へ行く準備をしてこい。残る二人の面倒は俺たちが見てやるから」
ナイア「期間は決めなくても良いけれど、気をつけて行ってらっしゃい。なるべく他人に迷惑掛けないようにね?」
ラズベル「……ステキな両親ね」
そう言って微笑んだ。
俺とフレアとラズベルの三人で、王都へ行くことが決定した。
残りの二人に拒否権は無かった。――が、流石にフォローは必要だな。
「念のため言っておくが、俺はラズベルを信用すると同時にレヴィンとバルのことも信用したんだ。二人はラズベルのことを慕っているんだろ?」
レヴィン「そりゃあもちろんっす」
バル「えぇ、慕っています」
「そんな二人だからこそ仕事を任せられると判断したんだ。ラズベルのためだけじゃない、経験を積む意味でも自分のために働いてみてくれ。大丈夫、チャックもナイアも優しいからきっと上手くいく」
二人は不安そうな顔から一転、互いの拳をぶつけ合い、やる気を見せてくれた。
「さて、王都へ行くための準備には何が必要なんだ?」
フレア「ギルドライセンスは必要かな。その土地の民になるなら別だけど今回は滞在資格としてね」
「じゃあ、さっそく商業者ギルドに行こう」
ラズベル「シン、あなたは冒険者ギルドよ。強さのランク付けはあったほうが良いわ」
冒険者にはランクがあり――って俺が知っている知識とほぼ同じだろう。
要は強いことの証明で、行動の幅が広がるということだ。
ラズベル「それと、武器屋にも行くわよ。王都への道中は必ずモンスターが出るわ。シンとフレアの装備を整えなくちゃ」
やることが一気に増えた。だがこの流れは悪くない。
経済状況を把握するにはきっと王都へ行くのが最適だろう。
スキル【オートマッピング】も活用したいと思っていたところだ。
でも、冒険者かぁ……なんで異世界ってみんな冒険したがるんだろう。
俺は商業者でも良かったんだけどなぁ。
そして、ここで改めて、述べておこう――
《フレアとラズベルが仲間になった!》
あぁ、あとこの二人もだ。
《レヴィンとバルが宿屋店員見習いになった!》
――こうして俺は、夢へまた一歩近づいた。
今俺に必要なもの、それは人脈だ。
人は財産と、ある著名人は言っていた。
人材ではなく『人財』。一人ひとりが財産なのだ。
誰のために金があり、成り立つのか。
秩序を保ち、生活力の源であり、競争による文明発展のために、金は金と成る。
そして、人のための金でなくては成立しない。
…………まだ全然稼いでないけど。
◆イラスト:黎 叉武
リラクゼーション【紅茶】《料理》
・チャックとナイアが試行錯誤して選んだ宿屋の紅茶。リラックス効果がある。
・ミルクやレモンを加えるとまた別の味になる。そりゃそうだ。