第3話 アンゴールドラッシュ
――生まれて初めてモンスターと闘った。
目覚めてからいきなり命のやり取りになるなんて俺は微塵も思っていなかったが、異世界に来たってことはこれからもこんなことが続くのだろうか。
「ハァ、参ったな」
正直戦闘なんて体育の授業で柔道をした経験しかない。
書籍や映像で観た格闘の知識はあるが、自分がそれを駆使しなければならない状況になるだろう。
この世界に剣とか盾とかあるのかな?
気持ちを切り替え、俺は立ち上がる。さっきまでは慌ただしかったから気づかなかったが……
「俺のこの服、何? 靴も知らないやつだし」
どうやらノルンに飛ばされた後に勝手に着せ替えされたのだろう。
これがこの世界でポピュラーな服装なのか?
ダサくはないがカッコよくもない、せいぜい村人Aが着ている服ってとこだろう。
近くで川の流れる音が聞こえる。そうだな、一先ず喉を潤しに行こう。
――穏やかに流れる川辺は涼しく、なんとも心地良い気分になる。川は透き通っていて、浅い川底には丸い石が敷き詰められている。
魚でもいないかと、身を乗り出す。水面は日の光を浴びて輝いていた。
「あっ! んんっ!?」
ノルンめ、やりやがった。
水に反射し映し出された顔には違和感しかなく、服装だけではない、髪の色までも別人そのものだった。
「金髪爽やか青年風……ノルンの好み、じゃないよな」
いよいよ異世界じみてきた。
背丈格好まで現実世界の俺と異なるとは、これはもう転移じゃなくて転生じゃないのか?
ノルンとの会話からは、俺は死んではいないようだったが……
綺麗な川の水を手ですくって飲み、俺は喉の渇きを潤した。
ふと、あることを思いつく。
「そうだ、ステータス! スキルなんかも視れたりするんじゃないか?」
ここまで異世界してると妙な気分になる。現実でこんなこと言ったら頭おかしい奴だと思われるぞ。
「……ダメだ、何もイメージ出来ない。何かないか?」
立ったまま目を瞑り、思考を巡らす。
すると不思議なことに、それは勝手に口に出た。
「ステータス……オープン」
ヴゥンッ!
「な、何だ!?」
眼前に現れたそれは、もはやゲームでお馴染みのステータスウインドウだった。
《シン=タケガミ》LEVEL 5
STR(筋力)999---ATK(攻撃力)999
VIT(生命力)999---DEF(防御力)999
AGI(敏捷)999---EVA(回避率)999
DEX(器用さ)999---HIT(命中率)999
INT(知力)999---MAG(魔法攻撃力)999/RST(魔法抵抗力)999
LUK(運)1
「――ほう!」
これはアレだ、俗に言うチートってやつだ。間違いない、俺は既に改造されている。
「運が1ってのがすごい気になる。でもステータスがこうして視れるってことは、スキルもいけるか? スキルオープン!」
ヴゥンッ!
《シン=タケガミ》PASSIVE SKILL LV1
ファーストスキル【アンゴールドラッシュ】:ゴールドを保有していない場合、身体能力値が最大になる。ゴールドを保有していた場合、身体能力値に超マイナス補正、保有量に応じて自身に状態異常付与。
「……やってくれたなノルン……これはダメなやつじゃ?」
俺はノルンとの会話を思い出していた。
“汝に最初に与えられる新たな力の覚醒です”
“違う、逆だ!”
やってしまったのは恐らく俺のほうだろう。タイミングの悪さできっと効果が逆転したんだ、最悪だ。
俺の夢は、この世で一番の金持ちになることだが、あろうことか金を持つことすら許されない可能性が出てきた。
文脈を読んでいて気になる一文が『保有』、保有の範囲がわからない。
それにマイナス補正というのも、どの程度のものなのか。試したくはないけどいつか試す必要がありそうだ。
「――まてよ、夢からはほど遠いスキルに見えるが、考え方次第では好都合かもしれない。もしスキルが『ゴールドラッシュ』だったら俺はもの凄く弱い状態からスタートしていたことになる、そうなったら即ゲームオーバーだ」
意識が外に向くとウィンドウが勝手に閉じた。これはこれで便利なものである。
レベルの概念があるということは、運も上げられるかもしれないな。
ただHPとMPみたいな表記は見られなかった。これも色々調べる必要がありそうだ。
「ーーさて、と」
太陽が真上に位置している。昼だろうか。
俺の目的は夢に向かうとするが、今は問題だらけだ。
「腹、減ったな……」
腹の虫が鳴り響いていた。
◆イラスト:黎 叉武
転移覚醒の力【アンゴールドラッシュ】《パッシブスキル》
・ゴールドを保有していない場合、身体能力値が最大になる。ゴールドを保有していた場合、身体能力値に超マイナス補正、保有量に応じて自身に状態異常付与。
・シンが授けられた転移覚醒の力。本人もまだこのスキルの底がわからない。
・パッシブスキルとは常に発動する類のスキルを表す。
未知の力【ゴールドラッシュ】《パッシブスキル》
・ゴールドの保有量に応じて身体能力値が上昇。ゴールドの保有量が少ない場合、身体能力値に超マイナス補正。ゴールドを保有していない場合、追加で自身に状態異常付与。