第27話 新生シン=タケガミ
――大会議が終わると、何やら凄い音を立てながら扉が開かれた。
『聖王様、お持ちしました』
複数の兵士が、何やら大きな袋を抱えて次々と運んでくる。
ソレは、人ひとり入るんじゃないかと思えるサイズで、何か金属的な音が擦れているようだ。
俺たちの目の前まで運ばれると、彼女はこう言った。
トメリー「今回の討伐・探索パーティーの活動資金、並びにギルドバンク創設資金だよ。これを、皆を代表してシンに運用してもらいたいのよ!」
「――うっ!!」
まてまてまて、これ全部ゴールドか!?
腰に備えられる小袋だって大金貨なら数百万ゴールドは入るんだぞ?
大きな袋の口が開くと、神々しい光が溢れ出した。
トメリー「ざっと3000億ゴールドはあると思うわ」
……致死量じゃねえか。
シン「わ、分かった、分かったから一旦袋を閉じてくれにゃ……」
丁度、花を摘みに行っていた二人が戻り、互いに顔を見合わせると、続けて俺の顔を覗く。
俺は兵士に促し、袋の口を閉じてもらうとしたがーー
フレア「シン、顔色が……」
ラズベル「あっ、ヤバイわね……」
とどめの一撃は彼女から発せられた。
トメリー「これぜーーんぶシンにあげるから!!!」
なるほど、直接見て、俺の所有物だと知覚してしまうと『アンゴールドラッシュ』のマイナス効果が発生するのか。これだけの量になると触れていなくても感じてしまう。
――ステータスの大幅な低下。
バタッ!!
俺は気絶した。間違いなく、死を感じた。
――【オリガミア城 聖王の部屋】
深い、暗闇。深淵の彼方へ来てしまったのか。
どこなんだここは。だが、どこか温もりを感じる。
「……?」
かつてないほどに鼻をくすぐる華の香り、あぁ、脳を刺激される。
甘美な香りは、俺の意識をゆっくり覚醒させる。
トメリー「――シン」
あぁ、近くで聖母のような声に呼ばれた気がする。
優しさに包まれるような、そんな癒しの声。
トメリー「シン、起きて」
あれ?
「……ハッ!!」
ガバッと顔を起こすと、俺はうつ伏せになっていたことに気が付いた。
「うおぉっ!? トメリー!?」
そう、彼女の膝の上に顔を乗せて。
トメリー「良かった……! 心配していたのよ。ここは私の部屋。今は二人だけ♡」
なんて姿勢でいたんだ俺は!!
トメリー「聖騎士団医療部隊の最高魔導士を呼んで、治癒の魔法を掛けてもらったの。でも、私のベッドに寝かせてからは脈も呼吸も安定しはじめたから、きっと大丈夫って分かったわ」
「は、恥ずかしいことをした。すまないトメリー」
トメリー「あら、謝らないで。私に出来ることをしたのだから、『ありがとう』の方が嬉しいわ」
改めて確認するが、彼女は聖王でこの国のトップ。
そんな存在に介抱してもらえるなんて、とんでもないことだ。
「……ありがとうな」
トメリー「私の方こそ、ごめんなさい。私にもっと大きなお胸があったら、シンを喜ば――」
「ストップ! ストーーップ!!」
末恐ろしい幼女、いや聖王。
「介抱ありがとう、トメリーの膝で十分元気になったよ」
やったぁ! と、喜ぶトメリー。
曲がりなりにも聖王であり子供なんだから、基本的には褒めてあげよう。
どうやら一旦ゴールドは元の鞘に収めたようで、俺が意識を失った後、割と直ぐにその場から移されたようだ。
フレアとラズベルが察して動いてくれたのかな?
ーーこれからの動きを確認したいが、一体どのくらい俺は気を失っていたのだろうか。
やらなければならないことはいくらでもある。
ギルドバンク創設、国家間の条約の取り決め、竜の渓谷へ行く――数え上げたらきりがない。
「トメリー。しばらくの間、王都に滞在して色々動きたいんだけど、良いかな?」
トメリー「もちろん! 私はシンのやることなすこと全てにおいて全力で応援するよっ!」
しばらくは、準備期間だ。
――【王都オリガミア 東 商業者ギルド】
フレア「――これで、ポーションの入荷手続きが完了したわ。あとは仕入れたポーションを持ってカーツロンドに戻るだけね」
「あぁ。道中、気を付けてな。しばらくは別行動だ」
ラズベル「寂しくなるわね、シンと一緒じゃないなんて」
――オリガミア城での大会議から一週間が経過していた。
討伐パーティーと探索パーティーは、一足早くそれぞれの地へと向かって活動している。
フレアが王都での用件を済ませていたこの一週間、俺はオリガミア城で聖騎士長シャルをはじめ、四聖軍団長や軍師長たちと入念に計画を立てた。
そして俺は、装備を一新。
オリガミア城の旗にも描かれている、頑丈そうな盾に優雅な鳥の絵(どうやら『聖なる盾』と『ファルコン』らしい)が刻まれた青色のマントが、動きやすい肩当てに付いている。
上下共に動きやすい皮製の旅人の服だが、黒のブーツが妙にカッコ良い。
王都の冒険者は機動性を重視した姿を好むようで、俺はそれを希望した。
「ギルドバンク運用の準備も着実に進んでいる。一度、カーツロンドへ向かおう」
――俺の新たな冒険が、始まろうとしている。
王都オリガミアの象徴【王家の紋章】《その他》
・オリガミア城の旗や、聖騎士が着用するマントに刻まれた紋章。服の襟章や、建物の看板など、多岐に渡り使用されている。
・大きな『聖なる盾』と重なるように、鳥の絵『ファルコン』が描かれている。カッコ良い。
シン専用防具【聖王のマント】《防具》
・DEF+20、REG+50。対象の放つ魔法攻撃、ブレス攻撃ダメージを一定の割合で軽減する。
・歴代聖王が代々身に着けていたという法具の一つ。青を基調としている点は聖騎士団が身に着けるマントと同様だが、こちらは金色の縁取りがある。何よりも目立つ『王家の紋章』が、このマントには大きく描かれている。肩当てとセットで装着する。
・トメリーに(無理やり)託されたこのマントだが、何気にシンは気に入っている。恐縮である。