第26話 討伐と調査とイケメン聖騎士
竜。全種族の中で最も恐れられている存在。
果たして、俺の実力がどの程度のものなのかが分かる相手だとも言える。
トメリー「し、シン!? 竜人はともかく、竜は最強種と恐れられているんだからね!? たとえシンでもまともに闘ったら死んでしまうわっ!!」
「心配ありがとう。でも、竜の渓谷へ行くなら俺が適任だ」
くぅー、そこに行けば竜に会えるんだよな! ――実は見たいのが本音だけど。
大広間に集まった冒険者たち約100名は、既に複数人のパーティーを組んでいる。
各国の種族を調べる探索パーティーと、人間種の脅威となるモンスター討伐パーティーに分けられた。
アイザック「シン、私はモンスター討伐パーティーの総合責任者、リーダーになった。願わくば、竜の渓谷へ同行させてもらえないか?」
お、話し方が随分フランクになったじゃないか。そっちの方が良いね。だが――
「うーん、即決は出来ない。ちょっとその辺りのことについて話し合えないか?」
――【オリガミア城 二階 大会議室】
大広間にいた冒険者も全員移動していた。
それに首脳陣って言うのか? 各国のお偉いさん方も一緒だ。
もちろんフレアとラズベルは俺の傍にいる。
大会議室とはいえ、一階の大広間と変わらないくらい大部屋だ。
違いがあるとすれば天井の低さと大きなテーブルがいくつも並んでいるくらいか。
まるで結婚式場のような……いや、ライブ会場か?
とんでもない収容数。いったい何百人が入るのだろうか。
さっきアイザックが言っていた『四聖軍団長』が、彼を含めて4名。
そしてウェンディの言っていた『四聖軍師長』も、彼女を含めて4名がこの場にいた。
なるほど、確かに皆、屈強そうな顔をしている。闘っても強そうだ。
トメリー「シン、話の大筋は私が話してもいい?」
トメリーは若いながらもちゃんと言葉を使い分けられるようだな。
俺には友達のように。全体には聖王として。
トメリー「愛するシンの前で失礼なことしちゃうけどさ♡」
訂正。恋人のようにかよ。
「あぁ、まとめてくれるのは助かるよ」
ウフッと笑顔を見せると、トメリーは大会議室の奥、王座へちょこんと着座する。
どうみても子供の王女様なんだよなぁ。
俺たちは王座に近い席に固まって座った。
一呼吸置いて、聖王が皆に語りかける。
トメリー「話を始める。皆の者よ、まずは今後の流れについて我が説明する」
トントンッと小さくテーブルを叩く音の先を見ると、ウェンディが俺を見ていた。
ウェンディ「(――こう見えて、聖王様の統率力は凄いわよ)」
頬を触るように、手で小さな声を補助していた。
頷いて反応してみせると、ウェンディはニコニコした。
こっちも子供に見えるなぁ。
トメリー「――先ず、モンスター討伐パーティーは東西南北それぞれの地域に赴き、地域別にモンスターの討伐を行ってもらう。当然、我々が今把握しているただのモンスターだけではなく、その諸悪の根源も含む」
なるほど、ボスを倒せってことか。
トメリー「そして、近隣諸国で調査するのは、今回選抜した探索パーティー。各都市に赴き、国の脅威となる存在を確認してもらいたい」
彼女の言う内容は、つまりこうだ。
――モンスターと各種族は別扱いで、意思のある存在は種族、その中でも、ひたすら欲にまみれた破壊と蹂躙を行う存在をモンスターとしている。当然、意思のない存在もだ。
討伐パーティーはモンスターの実態を把握してボスの討伐。
探索パーティーは人間種に敵対する種族の調査という訳だ。
トメリー「――では、各国の連携を高めつつ、我が王都より選抜したメンバーをそれぞれ配備させてもらう。我からは以上だ。では次にアイザック」
アイザック「はっ!」
スッと席を立ち、トメリーの横に構えて俺たちを一望した。
アイザック「皆さん、改めまして、モンスター討伐パーティーの総合責任者を務めさせていただきます、四聖軍団長兼、王都オリガミア魔導士ギルドマスターのアイザック=フロスティーナと申します」
『氷炎の狂戦士』の二つ名も相まって、肩書の多い男だなぁ。
そんなことを考えていると、アイザックはフッと笑みを浮かべて紫に輝く髪をなびかせた。
アイザック「『魔水晶』を通じて、私共軍団長と軍師長は今後情報を共有していきます。東部は私アイザック、西部はムーン。南部はレイフォード。北部はマクセスが担当します」
魔水晶? 通信機器みたいなものか。
名前が覚えられなそうな俺の様子を感じ取ったのか、アイザックは俺を見てウインクした。
なんて男だ……モテそうだなこいつ。
アイザック「各軍団長の元へ討伐パーティーを分配し、各々が力を発揮できるよう構築します。軍団長の挨拶はこの場では割愛するので、後ほど各軍団長の元で紹介し合ってください。私からは以上です」
華やかでスマートな印象を持った。なんだこいつ、凄く出来る男だな。
トメリー「ではウェンディ、頼む」
ウェンディ「はっ!」
ガタッと席を立つも、その低い身長だと座っているのと大して高さが変わらなかった。
この容姿で強くて立場あるとか彼女も凄いな。
ウェンディ「ウェンディ=ラフォースです。四聖軍師長兼、王都オリガミア商業者ギルドマスターを務めています。今回探索パーティーの総合責任者となりました」
ウェンディは『妖魔の破壊者』の二つ名だったか。
こちらはこちらで肩書が多いな。
ウェンディ「我々探索パーティーは、討伐パーティーとは別行動で、まずは各国に移動となります。風林のブリーズ国へは私ウェンディが、水華のスピカ国へはグリッチ、火魂のバルダン国へはミンウ、楽土のペルシア国へはアーシェスがそれぞれパーティーを引き連れて配備します」
うん、うん。メモ帳が欲しいところだが、もう手遅れだな。
段々に把握しよう。
ウェンディ「――最後に、中央都市である王都オリガミアの防衛に関しては、聖騎士長に一任していただきます。シャル、お願いね」
席に戻りながら「はー、疲れたー」と脱力するいつものウェンディの声が聞こえた。
全部で5つの国がある。
確かに、王都の戦力が一時的とはいえ各地に移るとなると、不安はここだな。
シャルと呼ばれた大柄な全身鎧の男がその場でヌッと立ち上がった。
彼の座したテーブルには、彼のものであろう立派な兜が置かれている。
シャル「名をシャルロット=エンヴィーと申します。この王都オリガミアを守護する聖騎士団の長ですが、今回集まっていない者も含め我々全団員が、皆の旅路の無事を心から祈っております」
中々な男前だ。顔に大きな切創痕のある逆立つ金髪がここまでカッコいいとは。
祈りを捧げるポーズをしているが、信心深いのだろう。嫌いではないな。
――と、思っていた矢先、背筋がゾッとする。
シャル「各国首脳陣の皆様方に一言だけお伝えします。ご理解いただいた通り、我が王都は一時的に戦力が分散されますが――」
こいつ……聖騎士長を名乗るだけのことはあるな。この圧は恐怖ではない。
シャル「わたくしがおりますので、どうぞ王都のご心配はなさらずに、我々の同志を受け入れていただけたら幸いです」
静清たる超威圧。各国の首脳陣が顔を歪めてのけぞっているのが分かる。
決して敵意を出さずに強さと警戒心を証明したようだ。
さっきから隣の席でフレアが震えているので、一応声を掛けておくか。
「フレア、大丈夫か」
フレアはギギギ……とロボットのように首を動かし、半泣きで俺の顔を見た。
フレア「……お、お手洗い行きたくなっちゃった」
うん、そりゃ緊張するよな。こんな威圧間近で受けたら。
まぁ、必要があっての警戒だから聖騎士長を責められないか。
「おいラズベル、なんとかしてくれないか」
ラズベル「しょうがないわね……行くわよフレア」
そういうラズベルは嫌がる素振りを見せない。大人だった。
トメリーが最後に締めの発言する。
トメリー「――では一同、各々の役目を担い、最善を尽くされよッッ!!」
『ハッッ!!』
流石の統率力だ。
俺は感心していると彼女が駆け寄ってくるのに気付いた。
トメリー「シン、どうだったどうだった? トメリー頑張ったよ! 褒めて!」
「あっ、うん。偉かったよトメリー」
聖王は偉い、当然である。
トメリー「やった! じゃあシンについて行くからね!」
ん?
トメリー「竜の渓谷に私も行くから! シン、ちゃんと守ってね!」
はぁ!?
世界通信【魔水晶】《道具》
・魔力を介して、同じ魔水晶同士で通信が可能なアイテム。特定の相手の魔力を検知出来なければただの綺麗な水晶。
・ランプやシャワー等に使われる各属性晶石の元であり、精製者の魔力操作で用途も変わるらしい。
・四聖軍団長と四聖軍師長はそれぞれの魔水晶を通じて連絡が可能。
・精製が割と難しいようで、一般には普及されていない。欲しい。
聖騎士団団長【シャルロット=エンヴィー】《人物》
・王都オリガミアを守護する聖騎士団の団長。男性。身長211cm。体重、うっすら脂肪を残し115kg。
・金髪の短髪逆毛でイケメン。恐怖ではない静清たる威圧で会議室にいた全員を圧倒した。
・好きな食べ物はチョコレート。大の甘党であることはなぜか秘密らしい。シンに興味がある。