第23話 視たい
聖王の謁見まで、まだ時間はあった。
大広間は広く、壁際に移動してから周囲に盗み聞きがないことを確認した。
さっそく俺は、自分がこの世界に来た経緯をアイザックとウェンディに説明する。
彼らもまた神の書『天啓』を知る人物で、更には世界情勢を知る立場である。
ギルドマスターという職を担ってはいるが、それもまた人間種という存在を守護するという大儀があった。
アイザックとウェンディの話では、およそ十日前、聖王より予言があったという。
“――聖王『トメリー=オリガミア』の名において人々に告ぐ。聖なる神の書『天啓』より予言す。アースライト歴2000年、世界は更なる混沌を極めんとす。さすれば、醜悪なる者共よりどう我が身を守護ろう。幾千年の時を超え、同年、我らを導く使者はこの地に現る。ガデュリナ界に平和と秩序を齎す使者。それすなわち天啓なり――”
近隣諸国を含め、どうやらこの『予言』を頼りにこれまで国を維持してきたらしい。
ある時は人間同士が、またある時は亜人種が、戦争を起こしてきたそうだ。
この千年以上もの間、幾度となく繰り返された。
しかし、平たく言えば、全ては予言が解決の糸口となった。
天災が起こるだの、武器を手に取り戦争だの、はたまた国家間で同盟を組めだの。
予言に従い、人間種は絶滅を免れてきた。
そして今、醜悪なモンスターの襲撃が世界各国で勃発しているそうだ。
俺が理解出来たのは、過去何度も人間種の窮地を救ったのが予言だったということ。
予言は人々にとって確実な未来である――そんなところだ。
「――それで、俺を『天啓に導かれし使者』だと断定して大丈夫なんでしょうか? 自分自身を証明することなんて俺には出来ません」
ウェンディ「確かに、キミの話に確証はないな!」
ウェンディさん、ちょっと声が大きい。
アイザック「シンさん。確認ですが、この世界に来てから何か得たスキルはありますか? 私も含め、ギルドマスター級の人物は何かしらのスキルを扱うことが多いのです」
強者の技術として浸透しているのだろうか。
少なくとも、俺にとってはこの世界の人間がみな魔力を持っていることのほうが不思議だが。
スキル……増えてたりしないかな。
「詳しくはよくわかりませんが、使えるスキルは段々増えています。一定の条件を満たした場合に習得すると思うのですが――スキルオープン!」
ヴゥンッ
アイザック「い、今なんと――」
今回増えていたスキルは無かったが、パッシブスキル5つ、アクティブスキル1つを覚えていた。
「今のところ6つのスキルが使えます。内5つは常時発動型ですね」
ウェンディ「どうぇええッ!!? 何それ!?」
フレア「う、ウェンディさん声が大きいですよ!」
シーッ! っとフレアが人差し指を口に当てた。
アイザック「シンさんまさか、スキルの詳細を視認出来るのですか!?」
俺は一通りスキルに目を通すと、アイザックの目を見て頷く。
ラズベル「兄さん、ワタシも驚きっぱなしなんだけど、ここへ来るまでの短期間にいくつも習得したみたいなの」
アイザック「とんでもないお方のようですね……。通常、スキルは『遺伝』だったり『覚醒』によるものだと把握しています。ギルドマスター級の達人でも1つ、多くても2つまでしか扱えないほど強力なものなんですが……」
聞いて聞いて、と手を上げてウェンディが可愛い仕草で話したがっている。
やっぱり子供みたいな人だなぁ。
ウェンディ「――二つ名って言ってね。まぁ通り名とも言うけど、そりゃもう有名なんだよスキル使いは。中にはその実力を隠している者もいるみたいだけどねーっ」
心当たりがあるのは、突然攻撃してきたあの道化師だ。
あいつもスキル使いだったな。実力者なのは間違いない。
フレア「シン、実際スキルを使って見せたら?」
それが俺の証明になれば良いが、まぁ何も見せないよりは良いだろう。
俺はフレアに同調し、唯一使えるアクティブスキルを使うことにした。
対象のステータスを確認するスキルだが、せっかくだしこの二人を覗いてみよう。
俺はわざとらしく右手を伸ばして見せたが、少々違和感がある。
「それじゃあ、少し失礼して……スキル『スコープ・スナイパーアイ』!」
ヴゥヴゥンッ!!
あれ、同時!?
《アイザック=フロスティーナ》LEVEL 91
STR(筋力)63---ATK(攻撃力)115
VIT(生命力)70---DEF(防御力)121
AGI(敏捷)211---EVA(回避率)242
DEX(器用さ)255---HIT(命中率)365
INT(知力)688---MAG(魔法攻撃力)729/RST(魔法抵抗力)718
LUK(運)1
《ウェンディ=ラフォース》LEVEL 94
STR(筋力)181---ATK(攻撃力)219
VIT(生命力)65---DEF(防御力)115
AGI(敏捷)148---EVA(回避率)181
DEX(器用さ)411---HIT(命中率)461
INT(知力)209---MAG(魔法攻撃力)219/RST(魔法抵抗力)239
LUK(運)1
うーん。なるほど、分からんなこれは。
アイザック「み、視えているのですか? 我々の強さが……」
ウェンディ「緊張するなあ!」
どう言えば良いのか。強いのか弱いのか。
俺は合わせた標準を少しずらして、フレアとラズベルも視てみた。
ヴゥヴゥンッ!!
《ラズベル=フロスティーナ》LEVEL 84
STR(筋力)13---ATK(攻撃力)13
VIT(生命力)35---DEF(防御力)37
AGI(敏捷)63---EVA(回避率)83
DEX(器用さ)198---HIT(命中率)248
INT(知力)422---MAG(魔法攻撃力)492/RST(魔法抵抗力)432
LUK(運)1
《フレア=グリッツァー》LEVEL 6
STR(筋力)2---ATK(攻撃力)19
VIT(生命力)7---DEF(防御力)33
AGI(敏捷)3---EVA(回避率)5
DEX(器用さ)12---HIT(命中率)22
INT(知力)7---MAG(魔法攻撃力)27/RST(魔法抵抗力)27
LUK(運)1
あ、うん、強いわ!!
アイザックもウェンディも、ラズベルも超強いわ!!
むしろフレアを基準として、一般人としての身体能力値はこのくらいなんだろう。
「ええっと、すいません。お二人はサイクロプスという古の一つ目巨人をご存じですか?」
アイザックとウェンディの二人は一瞬顔を見合わせ、答えた。
ウェンディ「あんなの片手で一捻りかな!!」
アイザック「私の敵ではありませんね」
なんて頼もしい回答。
俺の異常さが逆に際立ってしまったじゃないか。
「せっかくなのでこの広間にいる人たちもこっそり視ておきます」
大広間には、冒険者――正確には剣士や魔道士、狩人など、実力自慢たちで構成されたメンバー『パーティー』を組んだ者が集まっている。
俺は若干調子に乗って、今現在100人近くに増えた冒険者を一気にスキャンした。
ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……ヴゥンッ――
「う、予想外だ……この場の全員が視れた」
あの背の高い筋肉ゴリラのSTR(筋力)は95。
こっちの変わった杖を持った魔導士のINT(魔力)は82か。
素手だけどあの武闘家風の男やるな、STR(筋力)とAGI(敏捷)が120とは。
他に目立つ奴はいないかな、と思ったその時。
二人だけ妙な存在が混ざっていることに気付いた。
DEX(敏捷)109の身軽そうな男。
盗賊とも思えるような腰巻に短剣を携帯したその姿は普通だが、こいつの筋力は一桁。ただINT(魔力)が異常に高い277だ。
もう一人は同じくDEX(敏捷)が高く111の剣士風の女。
サーベルのようなものを装備しているが、やはり筋力は一桁で、INT(魔力)245の高数値。
何が怪しいかというと、見た目と相反した職業の恰好をしているからだ。
たとえ職業が魔導士だろうが、盗賊風に剣士風は何かを隠しているようにしか見えない。
更には二人とも離れた位置で、それぞれ別のパーティーを組んでた。流石に知らない名前は表示されないようだが、疑うには十分だ。
いつの間にかラズベルが近くにいた。
ラズベル「ねぇ、そのシンが視えてるのってワタシらは視えないのかしら」
「ん? その位置から何も視えないならそうなんじゃないか」
ラズベルは俺に顔をぴったりくっつけるように覗き込んだ。
シンの肌とラズベルの肌が触れる。
すると意外な答えが飛んできた。
ラズベル「な、何これ凄い……言葉が出ないわ」
「視えるのか!?」
どうやら俺に触れている間は他人にもウインドウが視えるらしい。
ラズベル「に、兄さんの魔力が異常に高すぎて眩暈がするわ……ウェンディさんの器用さも……」
アイザック&ウェンディ「「視たいッッ!!!!!」」
――しばらく揉みくちゃにされた。
俺は生まれて初めて、バーゲンタイムセールの商品の気持ちを知った。
フレア「えっと、おつかれさま」
気遣ってくれた。体力は減っていないが、気持ちが擦り減った気分だ。
何かを悟ったアイザックとウェンディ。
二人が何かを話しているのは分かったが、内容までは聞き取れなかった。
アイザック「――シンさん、大変申し訳ありません、差し出がましいのは重々承知しておりますが、我ら二人にシンさんのステータスを教えていただけませんでしょうか」
ウェンディ「お願いシンくん、頼むよ!」
正直あまり気乗りしないが、拒む理由もない。
俺は二人にそっと耳打ちする。
――そして二人は青ざめた直後、覚悟を決めたような真面目な顔つきに変わった。
アイザックは俺に向かって跪く。
アイザック「改めまして、四聖軍団長が一人、『氷炎の狂戦士』アイザック=フロスティーナと申します。氷、炎、全身鎧に特化したスキルを習得しています」
続けてウェンディも跪く。
ウェンディ「四聖軍師長が一人、『妖魔の破壊者』ウェンディ=ラフォースと申します。状態異常、誘導弾に特化したスキルを扱います」
その敬意を払う姿は、俺に感動を与えた。
頭の位置は違えど、美しい二人の姿に、また俺は勇気を貰った。
アイザック「――シン様、聖王の予言は、よもや神の啓示と同等です。一つ、この場ではありますが、お誓いさせていただきます。聖王に仕える立場ではありますが、この先いかなる時もシン様に忠誠を捧げます」
ウェンディ「――シン様、どうぞ我らを手駒としてお使いください。運命に抗うためのお役に立てると、そう信じています」
困る。
「お二人とも、頭を上げてください。俺は少し女神に気に入られただけの、ただの人間ですよ。敬語はむしろ俺が使うべきですし、もっと気楽に話したい。気持ちは十分に分かりましたから……」
パァッとした顔でウェンディが前を向く。
ウェンディ「やったー! シンがうちらのボスになったー! これで勝てる!」
何に!?
アイザック「フ……今日という日に感謝しよう、神よ」
あなたの神はどなた!?
ラズベル「ウフフ、やったわね。ギルドマスターが二人もシンの味方になるって凄いわぁ♡」
フレア「なんか私だけがずっと場違いなんだけど、あはは……」
――結局、この二人に対して何をすれば良いのか、直ぐには浮かばなかった。
共通目的の集団【パーティー】《その他》
・数人で一つのチームを組み、それぞれの役割を持って目標達成のために力を合わせる集団。
・パーティーと聞くとテンションが上がる人が多いが、今回の意味合いとしてはグループ。
・社交のための集まりもパーティーと言う。カクテルパーティー、誕生日パーティー等。色んな使われ方をする。れっつぱーりないっ。