第21話 太陽に剣が突き刺さる
俺と道化師との距離は約3メートル。
相当数の観客もいたが、俺が声を掛けたことによって、奴との間に道が出来た。
フワッと大玉から降りる。
だが、空中にポイッポイッと投げ続けるナイフジャグリングの手は止まらない。
攻撃の意思を感じるが、相変わらず表情が読めない。
見た目は中肉中背の男で、顔面白塗りに偽の赤鼻。
頬に星型のペイントを施し、典型的な道化師の姿をしていた。
そして、分厚く見せるその口は常に笑っている。
男「なんだぁ?」
子供「おかあさん、ピエロさん、おわり?」
観客がざわめきだしたその一瞬で間を詰められる。
「――ッ!!」
開幕、ナイフの連続突き。
俺が襲われる理由なんて浮かばなかったが、咄嗟に上半身の動きだけで避ける。
腰を低く落とし、突き出すと同時にナイフを宙に投げ、浮いた他のナイフをまたキャッチして突く。それを左右交互に繰り出していた。
まるで円を描くようなナイフの高速突き。その数実に八本。
恐ろしく、尋常じゃないテクニックだが――
シャシャシャシャシャシャシャッ――
ババババババババッッッ――
視える。そこまで脅威に感じない。
だが次の瞬間、道化師の身体が薄っすらと白く発光した。
道化師「――超速『スピードスター』」
シシシシシシシシッッッッ――
「クッ――」
速い……! 描かれた円は更に小さく、速くなった。
正面から突かれているのに、上下左右から奴の腕とナイフが視える。
こいつ、スキル使いか! 激しく繰り出されるナイフを避けるので精一杯だ!
如何せん、これだけ多くの観客がいる。
俺はひたすら避けながら思考する。
ここまま戦闘を続けたら、間違いなく観客に被害が出るだろう。
――その時だった。
女性「す、すっごぉい!」
男性「おぉ、やるなぁ兄ちゃん!!」
ピュー! ピュー!
大きな拍手と声援が観客から沸き上がった。
ちょっと待って、芸じゃないよ!?
こいつに殺されそうになってるんだけど!?
ババババババババッッッ――
シシシシシシシシッッッ――
何秒経ったか分からないが、いつまで避けていても仕方ない。
俺は眼に集中し、奴の腕とナイフの動きを予測、高速演算を開始。
シシシシシシシシッッッ――
シュピピピピピピピピッッッ!!
観客「『うおぉぉー!!!』」
右手と左手、それぞれの指の間にナイフをきっちり挟んで奪い取った。
結果、八本のナイフは、腕をクロスさせた俺の手に収まった。
大歓声と共に観客は俄然盛り上がる。
どうすんだこれ。
すると、後ろに数歩下がって道化師は、観客の方を向いて深く一礼した。
そして拍手に見送られるように、空の木箱を持って俺に近づいてくる。
ナイフを返せってことか。殺意も消えていた。
捕えようとも思うが、いま騒ぎを起こすのは無粋かもしれない。
道化師「…………」
ガラガラと音を立てて、木箱の中にナイフを入れた。
「お前、何者だ?」
表情は相変わらず分からない。
道化師「…………」
何も言わず、スッと何かメモ用紙のような小さな紙を渡された。
そして俺に向かって深い一礼をする。
――後ろで見守っていたラズベルが近寄ってきた。
ラズベル「シン、なんなのこいつ……」
「さぁ、俺もよくわからない」
ラズベルは杖を構えた。
ラズベル「どうする? いきなり攻撃してくる奴なんて裏があるに決まってるわ。ここで捕らえた方が良いと思うの」
道化師は動かない。
観客は次のパフォーマンスを期待しているのか待っていた。
俺はため息をついた。
「――やめておこう。子供も見ていることだしな」
一応、念押しはしておこうか。
「おい、もし次黙って襲ってきたら、容赦はしない。覚悟は出来てるんだろうな」
しかし、沈黙を貫く道化師は踵を返し、再び観客の前で芸を始めた。
「はぁ、厄介なことにならなきゃいいんだけどな」
俺は受け取った紙を開いて、ラズベルと一緒に内容を確認した。
ラズベル「……このマーク、何?」
――太陽に一本の剣が刺さっている絵だった。文字は一切書かれていない。
「……何か意味があるんだろうな。暗号というよりは表明、組織だと言っている気がする」
ラズベル「一応持っておきましょう。警戒する必要があるけど……とにかく、あのピエロは絶対に許さないわ」
あれっ、ラズベル?
ラズベル「ワタシのダーリンに手を出したこと、いつか後悔させてやるわ」
「誰がダーリンだ」
もうこの突っ込みも飽きたな。好きに言ってくれ。
俺たちはこの場を離れ、フレアのいる商業者ギルドへ向かった。
――《王都オリガミア ??????の一室》
暗がりの部屋。
本に囲まれたその部屋の奥に、一人の女が立っていた。
???「――はい、失敗に終わりました」
水晶玉を手にした女は、それを介して誰かと通信しているようだった。
ぼやけた音声は、低くドスの効いた男の声。
???「――そうか。して、コリィは死んだのか」
女が回答する。
???「――いえ、どうやら殺されてはいないようです」
ふむ、と男は考えている。
女は緊張することなく、言葉を続けた。
???「――ただ、彼からそのシンに、例の紋章は手渡せたようです」
太陽に剣が突き刺さった紋章。
???「――良いだろう、チャンスは幾らでもある。しばらくシンの様子を見ておけ」
???「――かしこまりました」
そして、深淵から迫るような声で、男は言った。
???「――抜かるなよ、ジュシー」
――口の端だけを上げ、女が笑みを浮かべると同時に、通信が途切れた。
流星の超速【スピードスター】《アクティブスキル》
・使用者のAGI(敏捷)を大幅に上昇させ、目にも止まらぬ速さで行動出来る。
・超速となると攻撃するにはかなりのテクニックが必要となる。
・尚、シンのいた世界にある将棋の戦法にある超速は、ゴキゲン中飛車対策として有名である。
圧倒的歓声【観客】《人物》
・老若男女を問わず、人が集まれば大きな力となり、場を沸かすことが出来る。
・広い会場で、誰かが拍手をすると思わず自分も拍手したくなる。そういうもの。




