第2話 魔狼襲撃
最初に視界に入ったのは花だった。
きっと図鑑には載っていないであろうその花はとても美しく、キラキラと輝いているようだ。
よく目を凝らすと、辺りには色とりどりの様々な種類の花が咲いている。
「……漫画とかアニメで観たことあるけど、どう考えてもあの女神、俺を転移させたよな」
ゆっくりと身体を起こし、天を仰ぎ見る。
空。穏やかな雲の流れが緊張を解きほぐし、ようやく頭の中で整理がついた。
異世界。それも何の準備もなく見知らぬ世界に飛ばされた。
あぁ、そうか、異世界に飛ばされた主人公ってこんな気持ちなのか。
「説明書とか無いのかな」
案外冷静だった。多少虚しさはある。
しかし、現実から非現実な世界へ来たとなったら相応の覚悟が必要だろう。
生き抜くための。生き残るための?
いや、なんか違うな。現実世界に帰るための? それも違う。
夢を叶える、達成するための覚悟だ。この世界での経験を俺は必ず活かしてみせる。
あわよくば帰りたい。
運命を司る女神ノルンが言っていたファーストスキルっていうのも重要だろう。
確か――
「ゴールドラッシュ?」
ゴールドラッシュは、一攫千金を狙って金脈を探し当てるために採掘者が殺到することを意味する。
世界のマネーサプライを急増させたゴールドラッシュか。うーん。
ノルンはスキルと言っていたからもう少しゲーム的に考えるとゴールド・ラッシュの二語かな。
「って、結局なんなんだそれは!?」
ガサガサッ!!
しまった、大声を出してしまった! あぁ、セオリーというかもはやテンプレじゃないか。
異世界について最初の地が、ただの野原だとしたら。
???「ガアアァァァ!!!」
やっぱりいるんだよな、モンスター。
「おぉ、待て。マテ、分かる? わかんないよなぁ……」
狼のような四足動物が茂みの奥から現れた。
勝つとか負けるとかじゃない、飛びつかれたら喰われるぞこれ!
頭をフル回転。まぁその辺りに落ちてる木の棒とかで闘う術はあるかもしれないが、モンスターって動物じゃないよな? 平たく言うと魔物だよな?
案外ペットみたいに懐く可能性もあるか?
あれこれ考えていると、モンスターの口の中で火球が大きくなっていくのが観えた。やっぱ魔物だわ!
「逃げるしかないか!?」
俺はモンスターに背を向けて地を蹴り、走った。
――そしてすぐに立ち止まった。何かがおかしい。
「は、速すぎる!!」
100メートル走ではそこそこのタイムだったはずの俺が、ほぼ一瞬で、いや一歩が大きすぎて100メートルくらい進んでしまった。
効果音で言うとギャンッ! ――と、いう感じだった。
後ろを振り返るとさっきのモンスターが小さく見える。
「脚の感覚が普通じゃない。脚だけじゃなく身体全体が……?」
改めて周囲を見渡すと、近くに丁度良いサイズの太い木の棒が落ちていた。
モンスターから視線を外さないように拾い上げると、俺は覚悟を決める。
「記念すべき最初の相手だ、やれるかわからないが一発入れさせてもらうぞ」
モンスターが火球を今にも放ちそうだが、距離を詰めるべく突進してくる。
こうなったらこっちも突進&バッティングだ。
脚と腕に力を込め、俺はモンスターに向かって地を蹴る。
カキイィィィィィーーーーン!!!!
「うーわー……」
特大のホームランを打ってしまった。モンスターは星になったのだ。
「こ、これは、やり過ぎだろう。これが俺に与えられた能力……脳筋なの?」
考えることは山ほどあるが、モンスターを撃退できたということで一先ず安心しよう。
俺はドカッと地べたに座り込んだ。
ゴールドラッシュが俺の身体を強化するスキルなら、モンスター相手でもすぐに危険には曝されないだろう。
――この時、俺はまだ、スキルの効果を全く把握出来ていなかった。
決して望むことはない最強最悪のスキルだということを……
◆イラスト:黎 叉武
鈍器【丁度良いサイズの太い木の棒】《武器》
・ATK(攻撃力)+3。都合よく落ちている場合がある。
魔狼【ダイアウルフ】《モンスター》
・火球を放つ四足魔獣。魔力により、舌をヤケドすることはない。
・野原、平原、渓谷などに生息。群れを成していることが多いが、今回は都合よく単体で出現。