第10話 光り輝くライセンス
――数分後。
カルスト「あー……まだ頭がクラクラする。ステラちゃん……ごめん、お水ちょうだい」
ステラ「は、はい!」
フレア「大丈夫ですか?」
カルスト「あー……あぁ。大丈夫だよ~……」
膝をつきながら、虚ろな目で俺を見るカルスト。
受け取ったマグカップの水を一口飲む。
カルスト「大丈夫だけど、そうか……貴方が神か……」
「違います」
カルストは意気消沈しながら弱々しく話した。
驚きのあまり、気絶以後は萎縮してしまっている。
カルスト「ラズベルちゃん……キミは、この結果を知ってたの?」
ラズベル「シンは強い、ってそれくらいなら分かるわ。まさかアナタが気絶するほどとは思わなかったけど」
カルスト「冗談がマジできつい。ハイウィザードのキミが魔力400超えに対して、シンくんは……その、なんだ、測定不能だよ。それも、ほぼ全ての能力が……振り切れている……」
ラズベル「えっ!? ……測定不能って初めてじゃないかしら?」
さて、どうしたものか。彼はかなり疲労しているようだ。
俺は端的に言葉を選んだ。
「俺は敵じゃないから安心してください。王都へ行くためにはライセンスが必要で、ここに来たんです」
カルスト「ライセンス……ライセンス? あぁ。度々ごめんねステラちゃん、ライセンスカード1枚持ってきてくれる?」
ステラ「は、はい!」
「ギルドマスター自らこの場で作ってくれるんですか?」
カルスト「そうだよ~。結局最後の仕上げはいつも俺が魔力で情報を入力するからね。あと、俺のことはカルストって呼んでね。敬語もいらないよ。俺はシン様って呼ぶから」
「いえ、シンだけで」
少し休んで回復したのか、カルストはようやく立ち上がった。
カルスト「そっかぁ、じゃあシンって呼ぶよ! フレアちゃんも俺のことカルストって呼んでね! いっぱい呼んでね!」
フレア「え、えぇ。ありがとうございます(?)」
直ぐに、ライセンスカードを持つステラが戻ってきた。
ステラ「マスター、お願いします」
カルスト「ん、ありがとうね」
ライセンスカードは文字通りカードサイズで、見た限りではただの真っ白なカードだが、どうやらこれも魔法の力が加わっているようだ。
カルストはカードを手に取り、詠唱を始めた。
するとよくある五芒星の魔法陣が足元に浮かび上がり、風が下から吹き上げるようにカルストをなびかせた。
カルスト「――よーし、じゃあシンの冒険者ランクはSSSでいいよね」
ステラ「ダメです。規定だとランクEからです。それにランクSより上はありません」
カルストは馬鹿な! という驚愕した顔でステラを見た。
カルスト「それならさ、特別推薦ってことで俺の推しって入れるわ」
ニッと笑いながら高速詠唱を唱え終わると同時に、ライセンスカードが一瞬だけ輝いたように見えた。
この作業自体は捺印の儀式だったようだが、カルストは心身ともに磨り減ったように見受けられた。
そしてカードは宙を舞う。
カルスト「ほいっ」
「わっ!」
俺は冒険者ギルドのライセンスカードを手にした。
カードは金色の枠に変化し、俺の名前と年齢が記されていた……最初の登録書類にそこしか書けるところがなかったからな。
でもよく見ると横一直線に太い黒い線が入っている。
まじまじとカードを見ていたら、フレアとラズベルが覗き込んできた。
フレア「えっ、いきなりゴールド!?」
ラズベル「ワオ、ブラックベルト!」
「なんだ?」
どうやらこの黒い線がカルストの推しってことかな。
ステラ「ま、マスター! シンさんはゴールドカードのブラックベルトですか!? そっ、そんなの聞いたことありませんよ!?」
カルスト「そだよ」
「どういうことだ? なんか凄そうなのは分かるけどさ」
ステラがギルドカードについて細かく説明してくれた。まとめるとこうなる。
――《ライセンスカードについて》
まず、カードの枠色は身体能力や魔法などを参照し、その人の強さの基準を示唆している。
ブルー・イエロー・レッド・ゴールドの順に強く、4段階ある。
記載されているランクは冒険者としての貢献度を示唆し、ギルドからの依頼を達成したり、何か公に活躍することでランクが上がっていく。
E級から始まり、D級・C級・B級・A級・S級の6段階ある。
帯は特別で、それが付いてるだけで《ギルドマスター推薦者》として直接実力を認められた扱いになる。帯色は枠色と同じく、本来は4種類あるのだが――
「それで、黒い帯ってどういう扱いになるんだ?」
カルスト「……ブラックベルトは未知の黒。俺が認めたけどその実力は未知数ってことだよ、シン」
なるほどね。
例えば俺のいた世界でいうスポーツの柔道では、黒帯は実力者(有段者)ってだけだが、この世界だと未知の実力者となるわけか。
ステラ「それだけじゃありません。帯付きは武器を持たなくても本人の能力のみで闘える、それはイコールその人物の危険度でもあります。シンさんは……」
言いかけて頭をうなだれ、ステラは黙ってしまった。
ラズベル「存在自体が凶器ってことね。ウフフ、怖いわぁ~」
何その怖すぎる表現。
カルスト「ブラックカードじゃ、ぱっと見て分かりづらいからね! 帯だけにしておいたよ」
闘ったわけでも魔法を使ったわけでもないのに、本当にその評価で良いのだろうか?
いや、それだけスキル【アンゴールドラッシュ】は俺が思っている以上に強力なのかもしれない。
カルストはそれを実力と捉えたのだろう。
そう思っていたら、カルストが熱い眼差しで俺を見ていたことに気付いた。
そして両手を両手で握ってきた。顔が近い。
カルスト「いいかい? もしキミがこの先何か困ったことがあったら、俺の名前をどこでも使って良いし、俺を直接頼ってくれても良い。きっと力になれると思うよ。魔力じゃラズベルちゃんには劣るけどね!」
そこまで言わせてしまう自分がちょっと怖かった。
カルストは言い終わると満足そうに目を瞑り、何もない天井を見つめては、勝手に全身をキラキラさせていた。
ギルドマスターって光るのかぁ。
彼が彼の世界にいるので、お礼は心の中で言わせてもらおう。
ありがとうカルスト。また会おうカルスト。
カルスト「そうだ、発行手数料についてなんだけどさ」
おっと、すっかり忘れてた。
大概こういう発行するものってお金が必要になるよな。
カルスト「通常、カードを発行するだけなら銀貨1枚なんだけど、ゴールドカードとなると大金貨10枚が規定なんだ」
そういえば硬貨だったりゴールドだったり、通貨の単位とかが分からないな。
あとでフレアに教えてもらおう。
カルスト「で、シンは今回は0ゴールドで良いからね! ギルドマスターの俺が認めたんだからさ! ……そ、それでも問題ないよね、ステラちゃん?」
ステラは今日一番の笑顔で答えた。
ステラ「問題ありませんよ? マスターのお給料から天引きさせていただきますので」
カルスト「!?!!?!?」
ありがたい、この恩もまたしっかり返していこう。
カルストの表情と共に、俺はこの想いを胸に刻んだ。
「ところで、ラズベルのライセンスカードは何色なんだ?」
そう質問すると、ラズベルは自分の胸の谷間に手を入れ始めた。え、そんなところにしまってるの?
ラズベル「これよ」
フレア「……レッドカードのレッドベルトにランクAって、あんたも十分怖いよ!?」
ラズベル「でも、ワタシのカードは魔導士ギルドのライセンスカードだから」
いま知った情報だと、ラズベルは相当な実力者ってことになる。ほぼ最高位じゃないか。
「本当だ、カードに記載されてるな。俺のは冒険者ギルドランクEって書かれている。良かったらフレアのも見せてくれる?」
ラズベルは満足そうに、人肌で温まったカードをまた元の場所に戻した。凄い谷だな。
フレア「私のは商業者ギルドのライセンスカードだけど、ごく一般的な普通のカードよ?」
「ブルーカードにランクE……普通だな」
ラズベル「普通ね」
カルスト「普通」
ステラ「普通ですね」
フレア「みんなして普通言うな!!」
――こうして俺は無事にライセンスカードを手に入れ、冒険者ギルドを後にした。
◆イラスト:黎 叉武
ギルド所属者の象徴【ライセンスカード】《道具》
・本編で説明した通り、種類により所有者の実力が分かるキーアイテム。
・シンは金枠黒帯冒険者E級。フレアは青枠帯無商業者E級。ラズベルは赤枠赤帯魔導士A級。
・シンの持つブラックベルトは、これまで目にしたものが一人もいない。おそらくガデュリナ界初。
・なお、紛失時の再発行にも手数料が発生する。
澄んだおいしさ【マグカップの水】《飲料》
・水晶石から出た水は飲料としても生活に馴染んでいる。
・カルスト専用のマグカップ。陶器で出来たカップにクマちゃんの絵が描いてある。