表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇跡の歌姫  作者: 四季
霖雨の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/211

76話「ウィクトルの過剰反応」

 ウィクトルとの関係をこれ以上悪化させたくない。しかしどう接すれば良いのかが分からない。もう失敗しては駄目だ、最も相応しい対応をしなくては。そう考えるからこそ、リベルテに相談した。ウィクトルのことをよく知る彼なら何か役に立つヒントをくれるかもしれないと考えて。


「そうでございますね……べつに、ウタ様が謝られることもないと思いますよ?」


 だが、リベルテの口から出たのは、そんな言葉。

 私の求めている解決法ではなかった。


「主はああ見えても真面目な方でございます。それゆえ、あちらはあちらで『どうしよう』と考えているはず。ですから、ウタ様が積極的に動かれずとも、いずれ主の方から動いてくるはずでございます」


 謝らないという選択肢。それは、私の脳内には微塵も存在しないものだった。私はあくまで、どのように謝りに行くかを思考していたのである。


 けれど、ウィクトルという人間をよく知るリベルテの発言だから、無視することはできない。


「じゃあ、一度会いに行ってみようかしら」

「それは良いかもしれませんね。そうすれば、主が謝罪する機会も作れるでしょう」


 リベルテはまた私の予想しなかったことを言ってきた。


 彼は心からウィクトルを慕っている。だからウィクトルの味方をするはずなのだ。余所の星から来た女と長年仕えている主を天秤にかけるとしたら、百人中百人が主を選ぶだろう。


 でも、今のリベルテは違う。

 彼はなぜか、ウィクトルを謝らせようとしている。


 何か意図があるというのだろうか——私からすれば不思議と言うしかない。


「彼はいつもの部屋にいるかしら」

「はい、恐らくは。主は考え事をなさる時、大抵、部屋でなさっています」


 そういうことなら話は早い。取り敢えずそこへ行ってみよう。


「ありがとう。じゃあ行ってみるわね」

「リベルテも同行致しましょうか?」

「大丈夫よ。ここはそんなに危険なところじゃないわ」

「そうでございますね」


 リベルテとの会話を済ませた後、私は一人部屋を出た。三階へと足を進める。緊張はしているけれど、ウィクトルと仲直りするためならば私は負けない。勇気を出して進んでみせる。



 途中、ばったりウィクトルに会った。


「ウィクトル……!」


 真正面から歩いてきた彼を見た瞬間、私は思わず彼の名を発してしまった。その一瞬だけは、気まずさを忘れていたのだ。しかし、数秒後にとんでもない気まずさに襲われて、私は思わず彼から視線を逸らす。


 きっと通り過ぎるだろう。

 そう思っていたのだが。


「ウタくん」


 彼は確かに私の名を発する。

 それによって、私は再び彼へ視線を向けることができた。


 目と目が合い視線が重なると、考えの違いにより険悪な空気になって閉まっていたことなんて記憶から消えてしまうほどに、心を奪われる。自分でも不思議なくらい、彼を凝視してしまった。


「その……先ほどはすまなかった」

「え」


 ウィクトルは眉間にしわを寄せ、苦い物を間違って食べてしまったかのような顔をしながらも、謝罪の言葉を投げかけてくる。

 彼もまた気まずさを抱いているのだ。そのことにおいては、私と同じ心情なのだ。今の彼の表情を見ていたら、そう分かった。やはり、文章で言われなくても読み取れる部分というのは存在するものだ。


「ついカッとなってきついことを。ただ心配してくれていただけだというのに。……申し訳なく思っている」


 ウィクトルは僅かに顎を引きつつ、低く静かな声で述べる。


「君を傷つけたかったわけではない」


 雨降りの前の重苦しい空——彼の表情はそれに似ていた。


 彼は仲違いが己のせいであると認めているようだ。けれど、彼だけが悪かったわけではない。私に非がない、と言う自信は私にはないのだ。


 だから、彼だけに謝らせるのは違う。


「いいえ。私も悪かったの」

「まさか、そんなことはない。君は何も——」

「もっと貴方の立ち位置を考えて発言するべきだったわ。私、貴方の立場に立って考えることができてなかった。だから、それはごめんなさい」


 そこまで言い終えた、その時。

 ウィクトルは突然、目もとを手で覆った。


「ちょ、ちょっと!? どうしたの!?」


 突然のことに事態が飲み込めず、私はいつもより大きな声で尋ねる。

 すると彼は、声を震わせながら返してきた。


「いや……その、すまない……つい」


 返答が意味不明だ。


「何か嫌なことが? 不快なことがあったの?」

「違う。違うんだ、ただ……」


 彼はそこで一度言葉を切る。そして訪れる沈黙は、十秒近く続いた。もうこのまま話が終わるかと思ったくらい。だが、彼は、やがてようやく続きを口から出す。


「君に……嫌われたかと心配していた……。だから、また話してもらえて嬉しい……」


 最後まで聞いても意味不明だった。


 いや、もちろん、私だって彼との関係を良好に戻したいとは考えていた。二人の縁を傷ついたままにしておくのは嫌だと思っていたのは事実。


 けれど、涙するほどのことだろうか?


「大袈裟ね。ウィクトルったら」


 その後ウィクトルから聞いた話によれば、彼はリベルテから私の居場所の情報を得ていたらしい。もちろん、私が一人で部屋を出たことも、連絡を受けていたそうだ。だからばったり出会うことができた、というのが、真実だったらしい。


 以降、私とウィクトルの関係は、また良好なものへと戻った。


 ちょっとした喧嘩——それは、厄介なものではあるけれど、絆を強くしてくれる出来事でもある。

 昔、まだ地球にいた頃、そんな話を耳にしたことがあった。


 だが私は信じていなかった。

 喧嘩なんてしない方がいい、と、そう思い込んでいたのだ。


 でも、今回の経験で少し分かった気がする。すれ違いが絆をより一層強くしてくれるという説の、その意味が。



 仲違いより一週間。

 私とウィクトルはまたもや呼び出しを受けた。


 その内容は、成婚パレードに関する打ち合わせ。ウィクトルは、私の参加をなしにするよう頼むと言ってくれていたけれど、私はそれを頼まなかった。私のせいでウィクトルの立場が悪くなったら申し訳なかったからだ。


 前回お茶会をした際のシャルティエラの意味深な発言、それが何だったのかは、正直気になるところではある。


 でも、きっと大丈夫。

 私はそう信じることに決めた。


 成婚パレードは多くの国民が見に来る。その晴れやかな場所で、危険なことを起こすなんて、そんなことはさすがにしないだろう。誰だって、祝いの場を血で濡らすようなことは望まないはずだ。


 そうして向かった打ち合わせで、私は、パレード出発の前に一曲歌う役まで頼まれてしまった。


 なんてこと!


 今の本心を言うなら、そんな感じ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ