水面に映る君。
「マンボウ」
「でっかいな」
「トンネルっぽいし、更にそう感じるね」
「フグ!」
「窓に顔面付けないでよ、汚い」
「鏡みたいに映るぜ?あ、寝ぐせ」
「再入場スタンプあるよ」
「押す?」
「押さねーよ、戻ってくる時間無いだろ」
「シャチいるね」
「可愛い」
「…あ、アシカだ」
涼太が指を指す先には大きな図体のアシカが飼育員に連れられ、のそのそと歩く姿があった。
「え?どれどれ……おぉ、ショーの後だからかな」
「かもね」
何年ぶりに来たのだろうか。小学生の時に遠足で来た以来な気がする。
だってチケット高いんだもん。
「いやぁ、相変わらず色々いたなぁ」
「深海生物ほんと可愛いと思う、チンアナゴも好き」
「わかる。ってかもう出ようぜ、疲れた」
時刻は12時。彼は出口を指して言った。
「楽器屋行きたいんだよな」
「あぁ、ギター始めたんだっけ」
「まぁね。まだ、全然だけど」
自信なさそうに言う彼の肩を撫でる。いつの間にか背丈を越されていたようだ、昔は私の方が背が高かったのに。
「なんだよ」
「別に。ギター見に行くの?」
「ううん、弦とかピックとか。あと機材とか見に行く」
「…ふーん」
「わかんねぇだろ、無理すんな。行くぞ」
「うん」
涼太が私の二歩前を歩いていく。大して高くも無いヒールを鳴らし、彼についていく。
「昔もこんな事なかったっけ」
「それはお前と動物園行った時だろ、初めて二人だけで遊びに行った」
「ね、その後はラーメン食べて帰った」
「お前が迷子になってるからだろ。顔面ぐしゃぐしゃにして『涼太が迷子になった~』とか言いやがって。必死に探し回った俺の身にもなれ」
「ふへへ」
地下鉄は、降りてくる人達で混んでいた。休日、そんでもって昼間だから人が多いのも当たり前だ。
「…な」
「…」
「…さな」
「…」
「沙那、乗り換え」
「え?あぁ」
涼太に肩を叩かれて、我に返った。
このところ、ずっと眠い。寝ても寝ても、寝疲れるだけで眠気は取れない。学校でも授業中に寝てしまって、よく怒られている。いつの間にか気を失っているだけなのに。
今も、たった数駅しかない乗り換えに失敗しそうになった。涼太がいなかったら、気付かずに終点まで行ってしまっていたはずだ。
「降りたらそのまま楽器屋まで繋がる道があるから、そこからでも良いか」
「良いよ、別に」
涼太はそう言って、隠しきれない笑みを浮かべて足早に改札を抜けた。人の流れに、涼太についていくように私も改札にスマホを翳した。