春色、揺らぐ桜。
春の香りがする。
今日はお出かけ日和だ。雲一つない快晴、満開の桜、少し花を散らす程度の風。
「待たせた?」
「ううん、別に。それより早く行こうよ。電車行っちゃう」
「そうだね、行こうか」
桜咲き誇る並木道、そこに私達はいた。
「もうすぐ二年生だね」私がそういうと、風になびく桜を見ながら彼は言った。「そうだなぁ、留年しなくて良かったぁ」「そこかい」
隣にいるのは幼馴染の早川涼太。小さい頃からずっと一緒の大切な人だ。
「…高校どうよ」涼太が私に聞いた。
「どうも何も、つまんないよ。みーんな顔赤くして遊んでる」
私がそういうと涼太は、文字通りけらけらと笑った。
「お前のそういう言い回しは、本当に変わんねーよな」
「わかってくれるのは涼太しかいないしね」
「そうかそうか、そりゃ嬉しいや」
改札へ向かう。私がスマホをかざして進むと、彼は「待って」と呟いた。その瞬間、改札が声を上げた。
「ちょっと、準備しといてよ」
「ごめんて。チャージしてくる」
ホームへ出ると電車がちょうど入ってくるところで、「ちょうどよかったね」と涼太が言った。
休日の割に人が少ない電車の中、カップルが優先席に座っていた。
「外、いいねぇ。電車の音も良い。今日はいい日だ。あぁ、地下入っちゃった」
「その理論で言ったら、沙那に見える世界は全部“いい世界”になるじゃん」
「当たり前。私からすれば、日常がこの上なく“いい世界”なんだから」
「分かんねーわ、俺には。ところで今日はどこ行くの」
彼に聞かれ、私はスマホのメモ帳アプリを起動した。
「んーと、今から水族館行って…そのあとは駅前とかどっか散策して食べ歩きでもしようよ、お昼決めてないでしょ?」
「いいねぇ。あ、俺あそこ行ってみたいな。通りのショッピングモール。クソデカい本屋あるんでしょ?」そう言う涼太は、目がきらきらと光っていた。
「うん、じゃあ行こうか。ゲームセンターもあるよ、プリクラ撮ろう」
「女子高生か」「女子高生だ」
そんな馬鹿みたいなやり取りをして電車に揺られる。
その時間がとてつもなく楽しい、ずっとこの時間が続けばいいのに。
「…春休みかぁ」「課題も無いし楽だなぁ、ずっと春休みでいいのに」「それな~、もう嫌だ。時間止まって欲しいや」
『次は**水族館前、**水族館前。**水族館ご利用の方は…』
「天気いいなぁ~」
時刻は11時。日も照ってきて、七分袖の必要性をありがたく感じている。
「今日の服、どうかな」そう言いながら、涼太の前でくるりと一回転をした。
今日の服は、七分袖でスカイブルーのワンピース。腰にベルトをして、切り返しでメリハリをつけてある。
「いいよ、似合ってる。本当に沙那はそういう服が似合うな」「でしょ?さっすが私の唯一の理解者!」
そういうと彼はにこりと笑って私の腕を握った。
「迷子になるなよな」「うるさいなぁ、そっちこそ」「お前小さい頃に動物園で迷子になっといてよく言えたな」「アンタだって昔公園でゲーム失くしたでしょ!?」「それとこれとは違うだろうが」
馬鹿みたいな言い合いをしながら、私達は水族館を満喫した。