武器と能力
「ん? 呼びましたです?」
銃の手入れをしている少女ーー飯沼利乃が光輝の方を向いた。首辺りで切っている黒と茶の色が混ざった髪と爽やかな雰囲気、人懐っこそうな顔の少女だ。
「あぁ、なるほど。これは、南東側担当の燈と東側担当の利乃が二方位分を二人で殺した不明者の残骸か」
そういうこと、と言って燈は不明者の残骸の上から飛び降り、利乃の所へ歩いていく。
「利乃、銃の手入れ終わった?」
「はい!」
利乃はこくり、と頷く。
「じゃあ戻ろうか。早く戻ってこいって上の人に言われてるしな。利乃、能力使えるか?」
光輝は二人の方に向かって歩きながら尋ねる。
「あ、光輝先輩も終わったんですね! もちろん、使えますです。拠点の入口で良いですか?」
光輝と燈が16歳、利乃は14歳で年下ということもあり、彼女は語尾に「です」「ます」を付ける癖がある。光輝はよくタメ口で良いと言うのだがあまり聞く耳を持ってくれない。
「あぁ」
光輝が頷くと、利乃はM24ーー半年程前には日本の陸上自衛隊でも使われていた狙撃銃ーーをケースにしまうと、光輝と燈の手を取った。
「行きます! 〈位置転移〉!」
キンッ、と辺り一面が光り輝いたかと思うと次の瞬間には目の前に大きな建物ーー光輝達の拠点のホテルーーがあった。
利乃の銃の能力は〈位置転移〉というもので、その名の通り行ったことのある場所であれば、一瞬で移動することが出来るというものだ。そして、彼女が触れている物ならば一緒に転移することが可能、というなんともチート的な能力だ。
「着きましたです」
利乃が二人から手を離し、入口へと歩いていく。
慣れないな。利乃に他意はないとはいえ、手を握られるのは。光輝はボーッと手を眺めていると、
「君、何やってんの……」
燈に凄い顔で見られ、光輝はすぐに手をポケットに入れて口笛を吹きながら入口に向かう。
かすれた音しか出ない……。
「光輝って、年下好きだったっけ?」
「んな訳あるかっ!」
こけそうになった身体の体勢を立て直しながら、燈に向かって大声で反論する。
「いや~だってさ、利乃が握ってた手をずっと見てたからさぁ」
ニヤニヤしながら、燈が言う。
「慣れないなって思ってただけだっ!」
「先輩方、そろそろ中に入りますですよ!」
利乃に言われ、二人は静かになる。
年下に言われて黙る年上とはどうなんだろう、と光輝は自分自身に呆れながら入口へと向かった。