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日常と非日常

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作者: 甘寺譽

 


 みんなどうして僕をいじめるの……?


 どうして僕を殴るの……?


 どうして僕を無視するの……?





 彼は生まれた時から貧しかった。父親の顔を見た事はなく、彼にとっては母親だけが唯一の肉親であった。


 彼は貧しかったが、人一倍努力をした。大学にも行き、博士号も手に入れた。


 しかし、その国では彼は良い仕事に就くこと出来なかった。なぜなら彼は、アメール人だったからだ。


 アメール共和国は、大戦で負けた後、マハヤ人達によって国の土地、仕事、金の全てを奪われた。国としては名前を残しているが、アメール人に住む場所はない。彼らは自国でマハヤ人のために搾取され、使い捨てられたのだ。彼らは自国の一部地域に押し込まれ、一生をそこで過ごすのだ。マハヤ人のためにものを作り、マハヤ人が耕作した食糧を高額で買わされた。


 彼は、そんな生活から抜け出したかった。たった一人の母のためにも。


 その一心で勉強をし、大学も出て資格も取った。


 勉学の優秀な者は、アメール人であっても国のどこにでも住めるようになれる。彼はその為に勉強をしたのだ。


 しかし、外部は想像を絶する酷さであった。住む場所は見つからないし、やっと見つけても古い物件で相場の何倍もの金を出せと言われるのだ。もちろん、日雇いの安い賃金の労働しか仕事を得られなかった彼に払えるはずはない。彼は母を連れて元の地区に戻るより他はなかった。


 ある日、彼は大きな物音で目覚めた。音のした方に歩くと、そこには母が口から血を吐いて倒れていた。彼は、母を連れて病院へ一生懸命走った。


 やっとの事で病院にたどり着いた。医師に母を見てもらおうと病院に入ったが、


「穢らわしいアメール人なんか診察するか!出ていけ!」


 と、病院を追い出された。


 彼は泣きながら、病院の扉を叩いたが、その重い扉が開くことは無かった。


 彼の母は、彼の腕の中で苦しみながら死んでいった……彼の腕に、鉛玉のように重い頭と、綿より軽く扱われた命の重さを残して……





 彼が変わったのはそれからだった。以前の優しい彼の面影はない。ただ、マハヤ人を呪う鬼となったのだ。


 彼は、当時のアメール人居住区の中にかろうじて残っていたアメール共和国政府の、小さい政党に加入した。


 彼は巧みな話術でアメール人を扇動し、党員をも篭絡して、小さいながらも、政党の党首になった。そして、アメール共和国の選挙に出馬し、一大野党として党を拡大させた。


 その時、与党党首の首相がマハヤ人に買収され、国際社会に向けてアメール共和国の主権の完全破棄とマハヤ人に正式な選挙権を与える、と宣言した。つまり、国を売ったのだ。


 彼は、そこに漬け込み党を動かし議会を選挙した。そして、彼の腹心ともなった陸軍大臣を動かし、クーデターを成し遂げたのだった。


 そして、国民の圧倒的支持を獲て首相に就任した。同時に、彼はアメール共和国の主権は自分たちにある、と国際社会に宣言し、アメール人地区から国民を出した。


 マハヤ人は、この国の経済は自分たちが握っているので、アメール人たちに主権があろうが関係ないと判断していた。彼が首相になっても関係なく、これまで通りに支配しようと考えだ。


 しかし、彼はそうはならなかった。自国を裕福にするために、海外から技師を雇った。その技師を使って、アメール人の工場を作って、労働者に雇用を生んだ。彼は自国各地を遊説しつつ、自分たちが貧しいのは戦争に負けたからだ、ならば取り戻せば良い、と国民に演説した。


 貧困に喘いでいた国民は、熱狂的に彼を支持し、海外への軍事侵略を開始する。


 もちろん侵略される国は抵抗したが、彼の天才的な作戦と、新兵器により敗戦してしまう。


 侵略した国からの賠償金と、手に入れた資源によりアメール人の生活は向上した。彼への支持はよりいっそう強くなった。この時、彼は首相権限を強くし、国の全権をも掌握できる総統へと国民により選出された。


 それから数年間、自国の発展に力を注ぎ、世界の中でも裕福な国になった。



 そこで、彼の復讐が始まった。


 今まで自分たちを支配していたマハヤ人を逮捕しだしたのだ。逮捕して、狭い区域に閉じ込めた。


 国民も恨んでいたので率先して協力した。


 彼は世界に向けて宣言した。


「この世界にマハヤ人は必要ない」


 こうして、世界各地へと彼は軍を進め、マハヤ人を狩り集めた。


 国々の中には、マハヤ人のために辛酸を舐めさせられていた国もあり、アメール共和国に協力する国もあった。


 彼は捕らえたマハヤ人を殺した。


 何千何万何百万ものマハヤ人を、ただただ機械的に、効率よく殺していったのだ。


 しかし、アメール共和国はそれを歓喜して支持した。


 この時になって、ようやくマハヤ人も気付いたのだ。


 だが、時は既に過ぎ去った。もはや彼を止めることの出来る人間はいない……






今回は暗い内容でしたが、虐められた恨みって怖いですよね(゜ω゜;A)物事には原因があって、被害者面してる人が原因を作ってたりする場合もあるのです。勝てば官軍……そんなのがまかり通る歴史の上に今の世界は成り立ってる……とか思ってしまった今日この頃でした(笑)

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