3・5「もう一度」
決着のあと、空はもう白くも黒くもなく、晴れ晴れと青く澄み渡っていた。
大地は熱に焦がされた跡で、それこそ白かったり黒かったり。ところどころに爆発に抉られた深い穴があった。ボクが再生を促すと、穏やかに振動を始め少しずつ慣らされはじめた。
「アカ……」
天空から撃墜された彼女は、一糸纏わぬ姿で地面に倒れていた。
大地は墜落の衝撃を和らげてくれたようで、彼女に打撲系の傷はない。彼女の負傷は、所々の火傷、霊力の過剰消費による衰弱、そして――
「髪が短くなってますわね。――私と初めて会ったときから、ずっと長いまま保っていらしたのに」
短い髪のアカは、少し小さくなったように見えた。泣き疲れて眠るような顔。やっぱりアカは、火を繰り戦う〈漆黒の守護者〉などではなく、大好きな人を追い続ける一人の女の子だと思う。
「大地……アカを癒す力を分けて。みんなを傷つけてしまった人だけど、ボクは彼女を許してあげたいから。――アカは、ちょっと一生懸命になりすぎただけなんだよ。だからみんな、アカを許してあげて」
大地はボクの言葉を聞き入れてくれた。深く豊かな大地の力が、アカに惜しまれることなく流れ込みはじめる。
「……ありがとう、みんな」
どういたしまして、と大地。大地は笑っていた。
徐々に癒えていく地面。風は颯々と吹き渡り、日差しは穏やかで暖かい。盛り上がってきた黒い土が、その熱を吸収する。
――世界は優しい。
静かに立っていれば、世界はこんなにも穏やかな顔を見せてくれるのに、人々はせわしなく動いては波風を作ってしまう。
「ちょっといいですか、チヨ」
サキが腰を屈めて、座り込んでいるボクに話しかけた。
彼の両手には、彼が着ていたマントがある。
「えっと……もしかしてそれを?」
「はい、アカに掛けてさしあげようと思って」
「でも、それってネガイがくれた大事なものなんじゃ……」
いいえ、と朗らかに笑いつつサキはアカの素肌を黒いマントで覆う。
白のYシャツに黒いスラックスという服装になったサキ。しかし彼が自身の影に手をやると新らしいマントが手品のように引き出された。
「替えがあるんだね……」
ちょっと気抜けして、タハハと笑いが漏れた。サキもボクと一緒にくすくす笑った。
と、歩いて近づいてくる足音が聞こえだした。剣を佩している男の人だ。ゆっくりと近づいてくる姿に、敵意は感じられない。
「私の名は名塚・鷲累。〈漆黒の守護者〉の代表、氷室・紅烏の上司として彼女の身柄を引き取りに来た」
黒いスーツのような装甲服に包まれた身体はそんなに大きくない。歳も二十代後半くらいでまだ若そうに見えるけど、声はとても厳つくゴツゴツしていた。
「それはご丁寧にどうも。――チヨ、治療はどうなりました?」
皮肉っぽく鷲累に言った後、サキはこちらを見た。
「う、うん……」
ボクはアカを横抱きにして立ち上がる。ボクよりも少し背の高い鷲累にアカを差し出すと、彼は無言でアカを両腕に抱き取った。
そして沈黙。重い空気がボク達の間に立ちはだかる。
まず口を開いたのは鷲累だった。
「今のところ、私達が敵対する必要はない。だが、漆黒の守護者はいずれお前達を排除する。私達は千人いるかいないかの小さな組織故、お前達のような不確定要素を放置したまま戦う余裕はないのだ」
それに答えて、サキがにやりと悪っぽく笑った。
「上等――ですわ。いつかの戦い、楽しみにしています」
鷲累はそれ以上何も言わず、くるりとボクらに背を向けた。そのまま立ち去ろうとする彼に、ボクは言葉を投げかける。
「ねぇ、〈漆黒の守護者〉は〈月の子〉を殺しているんでしょ? ボク思うんだけど、やっぱり殺し合うのは良くないよ。だって、そんなことしても誰の想いも慰められないもん。戦いは、どちらかが倒れきるまで終わらないよ」
彼の足が止まる。返答は肩越しによこされる。
「私達は慰安の為に戦っているわけではない。潰し合いになるのなら、それで結構だ。漆黒の守護者は世を乱すものを排除する、それだけだ」
なんの感情もない、合理的な物言い。
ボクは言う。
「だったら――」
「そう、お前がなんとかしろ。平和的な解決法など、自分で探すことだ。だがお前が動けば必ず私達は対峙する。――その覚悟はあるのか?」
ある、とボクは断言した。
「ならば、また会おう、〈大地の守護者〉チヨ。迷いのない拳で、私達を打ち倒してみろ」
「うん、もう一度。その時こそ、アカを抱きしめるから」
鷲累の横顔が微笑した。
彼は歩いていく。ほぼ修復された真っ黒な土の上に足跡を残して。
「あぁ……やっと終わりましたわね。随分と長い戦いだった気がしますわ」
「――これからも、こんな戦いがあるんだろうね」
アカ、ナゲキ・ササヤキ、糸鶴に鷲累。ボクらはそれぞれを敵と見なし、泥沼のような戦いをはじめようとしている。
ぽん、とボクの肩をサキが叩いた。
「まぁ、頑張るしかありませんわね。私達は二人なのですから、問題ありませんわね」
ボクは力一杯頷いて答える。
「うん……! 行こう、サキ。ご主人様の――ツミのところへ」
「まずはキズオトちゃんに会いに行きましょう。彼女の力も、運命も、私達の勝利の為に必要なものですから」
サキとボクは互いの手を取り合い歩き出す。
陽は高く、西の地平線に白い月。
乾いた疾風が、ボクらを鼓舞するように吹き抜けた。
鷲累君が登場しましたね。あんまり出番がなさそうな予感がします。
一人を除いて、役者は揃いましたので、第四幕をインターバルっぽくして第五幕からはいよいよ核心と行くのでしょうか。(←質問調ですね)
私生活ではテスト前で、レポートも課せられたのに調子が上がってきている感じです。北の大地は気温も上がってきましたし、頑張っていこうと思います。




