九十八話 合体! 連結! そしてイモムシ!?
ようやく地球外生命体さんから解放された。
極太抱き枕の救出に向かった。
杭を抜いたら根こそぎ暗黒香辛料が落ちた。
全部の極太抱き枕をペリペリ剥がしおえるころにはだいぶ暗黒香辛料が減っていた。
三万とかどうなることかと思ったけど案外なんとかなるもんだ。
「ナンか勝てそうだヨ!」
「アノ暗黒香辛料が裏切ってくれたのがよかったネ!」
「モウだめだと思って最後のカレー食ちゃったヨ!」
ターバン抱き枕たちの間でもう勝負はついたような会話がなされてる。
でも俺暗黒香辛料じゃあないから。
あと最後のやつなんで非常時にカレー食べてますのん!?
ドゴォ……!
暗黒香辛料から解放された極太抱き枕が再び火を吹いた。
まあ、楽勝か。
残った暗黒香辛料も後は片手で数えるだけだ。
ターバン抱き枕たちが、「やっぱり不安だからあの裏切り者の暗黒香辛料も倒しとく?」とか言い出さない内に退散しておきますか。
えーっと、俺はどっちから来たんだっけか。
あっ、いい加減ツバーシャもどうにかしてあげないと──。
そんな事を考えて、辺りを見回していると異変に気が付いた。
んー?
倒した暗黒香辛料や、振り撒かれた死の香辛料が舞い上がって一ヵ所に向かって行く。
まだ何かあるのか?
「アアアア! あいつら合体する気だヨ!」
「イチゲキ打ち込みたいけど距離があるヨ!」
「ソンナ! あと少しだったのにネ!」
合体?
三万体分の質量で?
ああ、無いわ。
そんなん自壊するに決まってる。
合体と同時……。
いや、合体中に耐えきれず落ちてバラバラになるわ。
そう、たかをくくっていたのだが──。
「ははは。そんなバカな……」
俺の予想は裏切られ、太陽の光を遮るようにしてソレは立ちはだかった。
あり得ん。
こんなんどうしろって言うんだ。
頑張ったところで、蚊に刺されたていどに傷をつけるのがせいぜいだ。
しかし、やらなきゃダメなんだろうな。
だってあの超巨大暗黒香辛料のからだが、ちょこっと触れただけで国が消し飛ぶし。
いったいどうしろってのさ。
「いや、これもうムリだろ。頭とか雲の上にあって見えないぞ!」
「マダダヨ! まだ、奥の手あるヨ!」
「アレすると、絨毯燃え尽きちゃうけどネ」
「デモ、もうアレをやるしかないヨ」
おお、なにか手があるのか。
ちょっと間抜けなやつらだけど、極太抱き枕の火力は本物だし期待できそうだ。
ターバン抱き枕たちが慌ただしく飛び回り、極太抱き枕は一列に集結し始めた。
超巨大暗黒香辛料の目の前でゆっくり準備なんて大丈夫なんだろうか。
だが、超巨大暗黒香辛料をみやれば、デカ過ぎるからか動きがナメクジより鈍かった。
これなら大丈夫そうだな。
羽すら動かして無い。
じゃあどうやって飛んでいるんだって話だが……。
「一番巻から、十番巻まで連結完了したヨ!」
「残りも急ぐんだヨ!」
「チェックだけだから焦るんじゃないヨ!」
イマイチたよりない印象だったけど、真剣な顔して慌ただしく動き回る様は戦場らしく見える。
合体した暗黒香辛料に対して、極太抱き枕は連結か。
とてつもなく長い極太抱き枕になってる。
しかし、連結したからどうなると言うんだろう。
「直列三十連結で火力三十倍にでもなるのかな」
「チガウ。三十倍じゃないヨ!」
「三十回増幅するからネ!」
「三十回倍々した火力になるんだヨ!」
三十回倍々だと!?
極太抱きの火力を1だとすると……。
「えーっと、2、4、8、16……」
「計算遅すぎるね。裏切り者の暗黒香辛料は頭悪いヨ!」
「ムシだからしょうがないネ」
「10億7374万1824だヨ!!」
まさか、異世界で計算速度をバカにされるとは……。
俺が遅いんじゃないし。
お前らが早すぎるんだし。
あとムシじゃないし。
ともかく、極太抱き枕の火力を1だとすると、直列三十連結極太抱き枕の火力は10億を超える計算になる。
つまり、10億倍か。
太陽の温度すら超越する高温で地表が焼き尽くされるんじゃないかソレ……。
なんだか怖くなってきた。
俺のそんな心配を他所に三十連結された極太抱き枕の砲身は超巨大暗黒香辛料へと向けられた。
そして、次々とターバン抱き枕たちが待避していく。
そりゃそうだよな。
そんな火力ぶっぱなしたら逃げなきゃ死んじゃうわ。
俺ももっと離れないと消し炭になりそう。
そんな訳でターバン抱き枕に続く形で待避した。
「アア、我らの英知の結晶もこれで終わりだネ」
「デモ、暗黒香辛料との戦いとも決着がつくからネ」
「国が残ればまた作れるから元気だすんだヨ!」
そんなちょっぴりさびしげな言葉を残すとターバン抱き枕は、三十連結極太抱き枕に背を向ける。
見届けないのか。
なんだか大変な代物みたいだし最後を見るのは辛いか。
代わりに俺が見届けてあげようかな。
なんて柄にもない事を考えたせいで後悔する事になる。
ヒョオオォ……!
三十連結極太抱き枕の両端が少し光ったかと思うと、どこまでも明るい閃光が広がったのだ。
うわっ。
目が焼ける!
お肌がチリチリするぐらいだもん。
チクショウ。
背を向けたのってそう言うことかよ!
空を飛ぶモノと言うのは視力を奪われると堕ちてしまう。
しかし、俺には【風見鶏】があるので墜ちたりはしない。
さすがに超巨大暗黒香辛料がどうなったかまでは距離があるから分からないが──。
「アアア……。そんな。勝てなかったヨ……」
「アレを受けて消し飛ばないなんて有り得ないヨ!」
「モウ本当におしまいだネ……」
なんだって!
効かなかったのか!?
まだ、ボヤけて視点が定まらないが、涙を拭ってなんとか超巨大暗黒香辛料の方を見た。
って、どこにもいないじゃないか。
三十連結極太抱き枕共々消し飛んだんじゃないのか?
ターバン抱き枕たちは何故か地上を見詰めている。
なんで下なんか見てるんだ?
あっ……。
超巨大暗黒香辛料は確かに生き残っていた。
羽を失い地を這うイモムシへと成り果てて。




