九十五話 極太抱き枕VS暗黒香辛料
カレー言語魔法をみた。
熱かった。
ターバン抱き枕がチリチリになった。
抱き枕ターバンたちが大人しくなってくれたのでお話をしよう。
でも、なんといって話を切り出せば良いんだろう。
やはり、挨拶から?
最初の挨拶で上手くいったためしがないんだが。
この世界の挨拶はきびしい。
心してかからねば。
「えーと、俺たちは──」
「「「モウ煮るなり焼くなり、カレーにするなり好きにすれば良いヨ!」」」
カレーになんぞせんわ。
どうしよう。
揃って明後日向いて聞く耳を持たない姿勢だ。
というか、別にこのまま俺たち帰っちゃってもいい気がする。
カレーは惜しいが仕方なし。
「帰ろうか。仲良くなれそうな雰囲気じゃあなさそうだ」
「金品強奪しないのです?」
「かわいい顔して物騒なこといっちゃダメだよ……。ああ、そうか、以前金品強奪したことあったね」
いきなり襲ってきたのだから、ソレぐらいしても良い気はする。
しかし、こう、もー少し悪どい感じじゃないと気が引けるんだよな。
なんかと勘違いしてそうだし。
「わぁが無理矢理いうこと聞かせても良いのじゃ」
えっ、拷問でもする気?
忍者だしえぐいの知ってそう。
でもシノがそんなことするところを見たくないので却下だ。
そんなわけで、帰り支度を始めたのだが。
「なんかくるのです」
ラビが真剣な眼差しでお耳をピクピクさせ始めた。
魔物か?
まあ、このまま帰っちゃえばいいか。
そう考えたのだが──。
「おっきなチョウチョが飛んでるのです!」
「ありゃ蛾だな。羽から落ちているのはりん粉か?」
「すさまじい数なのじゃ」
これは逃げられないな。
おって来られたら面倒だ。
「ア、アレは暗黒香辛料ダ!」
「アア、死の香辛料で地上が砂漠していくヨ」
「アアア、とうとう最後の街にまで来たネ……」
あれが暗黒香辛料……。
りん粉て苦手なんだよな。
なんでチョウ類って粉っぽいんだろ。
撒いてるのは香辛料らしいが──。
ああ、地面が香辛料臭かったのはこれか。
いや、それよりも。
「最後の街ってそんなに負け続けてるのか?」
「エッ? 暗黒香辛料の手下のくせにシラナイ?」
「デモ、この人あんまり蛾に似てないネ」
「アレ? もしかして暗黒香辛料じゃないノ?」
どこをどう見りゃ俺が蛾に見えるんだよ!?
「よーく見てくれ。チョウの様に粉っぽくないしどう見てもチョウ類よりは鳥類だろ」
「コレは確かに鳥っぽいネ」
「ウン、鳥っぽい暗黒香辛料なんていないネ」
「ハネから香辛料も出ないネ」
「「「ワレ等間違えちゃったごめんネ!」」」
どうやら誤解は解けたらしい。
「あっ! 街の方からもいっぱい、なんか飛んでくるのです!」
「暗黒香辛料を迎え打つみたいじゃのう」
「すっげー極太の絨毯か。あれはなんなんだ」
「アレは絨毯母艦だヨ」
「ワレ等の英知の結晶だヨ」
「ホラ、太く大きくすればたくさん乗れるでショ?」
ホラじゃないよ。
だから、広げて飛べよ!
でかくしても丸めちゃたら、大して乗れなくなっちゃうじゃんか。
ともあれ極太抱き枕と巨大な蛾の大戦が始まった。
「極太抱き枕30本に対して巨大な蛾3万匹はいるけど大丈夫なんだろうか」
「ぶっとい抱き枕の芯から、小さい抱き枕出てきたのです!」
「なるほど。母艦だから芯の中にいっぱい艦載抱き枕が入ってるのか」
「それでも10倍ぐらい蛾の方が多いのじゃ」
まだ不利だよなあ。
あれ?
艦載抱き枕はきっちり、三次元的に等間隔で整列しとる。
にもかかわらず──。
「極太抱き枕の前には一本も配置しないのか」
「フフ、凄いの出るヨ」
「フフ、数の差なんて火力でどうにかなるんだヨ」
「フフ、一騎当千だヨ」
まだ芯の中になにか入っているのか?
いや違うのか。
極太抱き枕の先っぽが光だしたな。
「「「460サンチ、極大口径香辛料砲だヨ!」」」
よっ、460サンチだと!?
反動で木っ端微塵になりそうだが大丈夫なのか?
ドゴォ……!
火が出た。
30本の極太抱き枕から殺虫剤の如く発射された炎が、次々と巨大な蛾を焼き払っていく。
「火が丸太みたいにのびてくのです!」
「おお! 凄いじゃないか! モリモリ巨大な蛾が減っていくぞ」
「そうじゃのう。じゃが、あまりの炎に絨毯にも火がつきそうじゃのう」
確かに燃えそう──。
いや、燃えてるわ。
艦載抱き枕が必死に水掛て消してるわ。
強力だけど連射が効かないんだな。
絨毯で火炎放射って発想に無理がある。
「チョウチョが、ぶっとい抱き枕にまとわり付いてるのです!」
「艦載抱き枕が、蛾とドッグファイトを始めたな」
「ちと抱き枕が押されているのじゃ」
三割は火炎放射で削れたけど、それでも残り2万か。
ちょっとキツそうだな。
「アッ、負けそうだネ……」
「チョットいつもより敵の数が多かったからネ」
「タブン、総動員してトドメ刺しにきたんだヨ」
ああ、ちょっとキツイじゃすまないのか。
どうにかしてあげたいけど、2万はなあ……。
「アーア、惜しいなあ。飛竜とかいれば勝てそうなんだけどナー」
「アーア、巨大な体で火を吹ける飛竜とかいればナー」
「アーア、あとちょっとなんだけどナー」
いや、こっちチラチラ見てもムリだから!
流石に2万とか絶対ムリだから!
飛竜でもムリだから!
ガバッ!
ツバーシャが勢いよく立ち上がった。
いかん、かつてないほどのヤル気が瞳に宿ってる!
まさかアレに突っ込む気か!?
「つ、ツバーシャ待つんだ! 流石にあの量は──」
「ルガアアアアア!」
ああ、行ってしまった。
これは絶対に無謀だ。
どうすればいい?
考えろ。
考えるんだ俺!




