九十四話 香るカレー言語魔法
チョウチョ飛んでた。
オレンジ見付けた。
変な奴らも飛んでた。
ターバン抱き枕は全部で三人。
着地してようやく抱き枕の正体が分かった。
丸めた絨毯だ。
いや、広げて飛べよ!
あっ。
逃げるの忘れてた。
まあ、いいか。
「ワレ等は、アラビンド皇国の神聖香辛料 (ピュア・スパイス・デ・シュ)だヨ」
「アナタたち、見るからに暗黒香辛料の手先だネ」
「コレ以上好きにはさせないヨ!」
神聖香辛料?
暗黒香辛料?
なんなんだそれは!?
なんだかぶっ飛んだ肩書きだが……。
“アラビンド皇国の”と前置きしたところを見ると、話が通じそうな気がしないでもないか?
「えーと、俺たちは──」
「問答無用だヨ!」
「騙されないヨ!」
「準備するからちょっと待ってネ!」
話通じなかった。
ヤル気満々だ。
準備ってなんだ?
というか、敵に待ってネするんかい。
ファサッ。
ターバン抱き枕たちは絨毯を広げると、その上にあぐらをかいて、鞄からランプを取り出した。
動きがシンクロしていて不気味だ。
しかし、そのランプをどうするつもりだ?
白い布を取り出して──。
キュッ、キュッ。
こすった!
まさか、ナニかを召喚するつもりなんじゃ!?
もわぁーん……!
あっ、懐かしい香りがする。
カレーだこれ!?
ランプじゃ無くて、カレー入れる入れ物かよ!
キュッ、キュッしたのは、こぼれたカレー拭いてたんかい。
「カレー美味しいヨ」
「ナン美味しいヨ」
「元気になってきたヨ」
だからナンなんだよ!
「ご主人さま! カレー美味しそうなのです!」
「ごはんに合いそうな気がしてならないのじゃ」
「カレーは美味しいし、ごはんに合うよ」
俺も食べたくなってきた。
「「「アゲないヨ!」」」
ちょっとイラっとした。
何か言ってやらんと気がすまん。
だがどうにも言葉が出てこんわ。
こんな時なんて言えばいいのさ。
俺が言葉を失っている間に、ターバン抱き枕たちが動いた。
立ち上がり、顔のむきを変えずに首を左右に動かしながら、両手を突きだした。
そして、何やら唱え始める。
「【ターメリック】」
「【ターメリック】」
「【ウコンウコン】」
ボフッ。
黄色い粉が舞った。
「カレーの臭いがするのです!」
「この粉は香辛料か」
「嫌な予感がするのじゃ。ラビよ。わぁから離れるでないぞ」
いったい何を?
「「「カレー言語魔法! 燃えちゃうヨ!」」」
カレー言語魔法?
燃える?
何も起きないが……。
ん?
石を取り出した?
あれは火打石?
まさか──。
「ゲッ!? ラビ、シノ、下がるんだ!」
カッ、カッ!
俺は、ラビとシノを庇うように両手と翼を広げて立ちふさがった。
ボヒュッ……!
香辛料の粒子に、火の粉が触れて引火。
一瞬で連鎖的に火は広がり、俺を包み込む。
「熱っ!」
着火を物理的に行うとか、どんだけ半端な魔法だよ!
だが、範囲が広いだけで大したことはないな。
ツバーシャの炎に比べればどうってことはない。
「ご主人さま!」
「ラビ、ちょっと炙られただけだから大丈夫だよ。シノと下がっててね」
「ラビよ。城なちに向かうのじゃ」
「でも……」
「主さまを信じるのじゃ」
下がってくれたか。
こういう時、俺を置いて逃げるように決めておかなきゃダメだな。
「【ターメリック】」
「【ターメリック】」
「【ウコンウコン】」
ボフッ。
二発目が来た。
さて、反撃しに行こうか。
突っ込んでったところで大した被害はない。
あっ、でも。
要は風に粉を乗せているんだ。
【風見鶏】で風を見れば熱い思いをしなくて済むかも。
「見える……!」
あっ、あんまり変わらんわコレ。
そもそも、風がカレー色になっているから、元々風が見えてるじゃんか。
あてが外れたなあ。
ん?
風が……。
カッ、カッ!
着火の瞬間、追い風が吹いた。
びゅうぅぅ……。
当然、香辛料の粉はターバン抱き枕たちへ向かって流れる。
ボヒュッ……!
「「「ギャアアアアア!?」」」
うわっ。
自爆しおった。
ターバンからはみ出た毛が、アフロを超えてチリチリなっとる。
「カレー言語魔法が全く効かないヨ!?」
「ソレどころか跳ね返してきたヨ!?」
「モウダメだ。暗黒香辛料には勝てなかったヨ」
えっ、自爆して終わりなのか?
俺まだ何にもして無いんだが──。
「ルガアアアアア!」
あっ、ツバーシャ元気になったのか。
火はこうやって吹くんだと見せ付けるように火を吹いてるわ。
ツバーシャの登場で、ターバンパンチパーマは抱き合うようにして震え上がった。
「アア、終わりだ……」
「コンナ事なら最後に……」
「カレー食べたかったヨ……」
食ってたじゃん!
ナンと一緒に食ってたじゃん!
見せ付けるようにして食ってたじゃん!
俺もカレー食べたかったのに……。
ともあれ、 アラビンド皇国の神聖香辛料 (ピュア・スパイス・デ・シュ)たちは戦意を失ったみたいだ。
これで話が出来るだろう。
なんとか仲良くなって、カレーを食べられないもんかな。




