九十二話 新しい日常と
人魚の国を離れてからひと月。
城なしに暮らすようになってから十一ヶ月は過ぎただろうか。
コケコッコー!
よし。
ちゃんと鳴けるようになったな。
トサカもちゃんと生え揃ったし、立派なニワトリだ。
しかし、本当に“コケコッコー!”って鳴くんだな。
知らんかったわ。
「ご主人さま朝なのです!」
朝かなあ?
ニワトリ鳴いても真っ暗なんだけどなあ。
ともあれ今日も演技だ。
「んあー? まだ寝てたいなー……」
「むむむむ。起きないのです?」
「ぐぅ……」
起きない。
ここで起きたら朝の楽しみがへってしまう。
だから起きるわけにはいかないんだ。
しかし、最近は──。
「じゃあ、コタちゃん。ご主人さまを起こすのです!」
「ぷこっ!」
タコにイタズラされる。
コタちゃんなんて安易な名付けしおってからに。
コタも城なしの住人……。
いや、住タコだ。
甘んじてイタズラを受け入れよう。
「ぷこっ!」
「ふご!? 鼻にタコ足!?」
容赦ないわ。
ばっちいからあんまりやって欲しくはないな。
「起きた! 起きたから鼻に足を突っ込むのを止めておくれ」
「コタちゃん。やったのです! 今日もご主人さまを起こせたのです!」
「ぷこっ!」
まあ、いっか。
二人とも楽しそうだしね。
そんな、朝のやりとりを終えた俺たちは朝食をとった。
朝はめんどうなので相変わらず干し芋だ。
食材が増えてもなあ。
朝から気合い入れて作る気が起きないわ。
「ほら。コタちゃんも食べるのです!」
「ぷこっ!」
タコって干し芋食べるんだ。
いや、コタを普通のタコと一緒にしちゃあダメか。
ラビはヒヨコがニワトリになって独り立ちしてしまったから、寂しいんだろうな。
コタの世話を良く焼く。
将来ママになることがあればきっと──。
相手は誰だよ!
ラビは嫁にやらん!
「ご主人さまが変な顔をして考えごとしてるのです」
「ぷこぷこっ!」
「ああ、いや。何でもないよ。それより今日も畑の様子を見に行こうか」
阿呆な事を考えていたとは言えないので誤魔化した。
「トウモロコシがだいぶ伸びて来たのです!」
「そうだね。トウモロコシには水をたっぷりあげるんだよ」
「分かったのです!」
生前、トウモロコシは土地を枯らすと聞いたことがある。
土の中の肥料を吸い付くしちゃうんだっけかな。
城なしじゃあ、肥料薄いからあんまりおっきくならないかもなあ。
ケーッコッコッコッ!
ふむ。
ニワトリか。
鶏糞は、良い肥料になるんだっけか。
なんも育てない畑を用意して、一年二年鶏糞を埋めて放置して置こうかな。
土壌改善になるだろう。
そしたら、トウモロコシも良く育つかも知れない。
「お米や大豆も芽が出てきたのです!」
「うん。二週目も上手く行きそうだね」
城なしに季節はない。
だから、時期を気にせず、作物の種を蒔ける。
もち米と大豆を増やすのだ。
「あっ、ご主人さま。栗の実がなっているのです!」
「おやほんとうだ。でもまだちっちゃいな」
今年食べられるほど、実が大きくなるのかは分からん。
本命は来年からだ。
だから、あんまり期待して欲しくはないな。
「サルナシはちゃんと、添え木にそって伸びてくれたがまだまだだな」
「お茶の木は元気なのです!」
「今年から摘んでも良さそうだけど……。元気無くなったら嫌だから来年かな」
茶なんぞ育てたことないから分からん。
でも、ちょっと心配だったチャドクガが発生していないから一安心だ。
生前、お茶じゃないけど、ツバキに沸いたチャドクガで痒い痒いになったことがある。
コイツがいなけりゃ、生前も挑戦したんだけどな。
さて、そろそろツバーシャたちが起きて来る頃だ。
「戻ろうか。二人がそろそろ起きて来る」
「また、地上の様子を見に行くのです?」
「うん。ツバーシャのお散歩と、シノの釣りの付き合いだね」
付き合いといっても、マグロの為に魚を集めて起きたいから、俺も頑張らないとな。
あっ、シノとツバーシャがこっちに向かってきた。
多分、空を飛ぼうと催促されるんだろう。
海も良いけど、そろそろ陸にたどり着いてて欲しいなあ。
「今日も空を飛ぶのかしら……?」
「うん。飛んでみよう支度しておいで」
案の定、ツバーシャに催促されたので、空に飛び立った。
「陸が見えたのです!」
「んー。今回はそこそこ発展した国に着いたのかなあ」
まだそれなりの高さがあるから、詳しくは分からんが、結構な大きさの建造物が見える。
「人も多そうだし少し離れたところが良いな」
「ご主人さま。あっちに岩山があるのです!」
「んー。うん。街から離れて人気もないし、その辺りに降りようか」
岩山じゃあ、あんまり作物何かに期待が持てないが……。
降りてみてから移動を考えれば良いかな。
俺はツバーシャとシノに手信号を送ると高度を下げた。




