九十話 あったかいパイナップル
ツバーシャがタコ食べた。
でも途中で飽きた。
タコは壺をあげたら帰っていった。
ともあれ、この国の人は俺たちを歓迎してくれるようだ。
しかし、異世界ってのはどうにも楽観的な思考をする人々が多いな。
タコが暴れまくって建物が倒壊しまくってるのに祭りだなんて。
ガラスっぽいブロック積み上げて、昆布被せるだけの住居だから直ぐ直るんかな。
「何だか変なことになっちゃったけど、いっぱい美味しいもの出てくるから許してね」
「いや、それはありがたいんだが、良いのか? 何か色々壊されてそれどころじゃないだろうに」
「気にしなくて大丈夫だよ。この国は平和だからね。みんな割りと暇をもて余してるし、刺激に飢えてたから丁度いい位だよ」
随分余裕だな。
隔絶された世界で、しかも全てが自己完結してるしそんなもんなんかな。
安易に呼び出せちゃう、コダベケスさんがいるから、スリルには困らなそうな気がするが。
「さあさあ、そんな心配はしなくて良いから座って座って。お料理持ってきてあげるね」
メエにそううながされて俺たちは、宴の席についた。
半壊した家のブロックで即席で作ったイスとテーブルか。
この雑な感じ嫌いじゃない。
「英雄だと騒いでいる割りにはあまり近寄って来ないな。まあ、その方が助かるんだが」
「わぁたちの姿は異質じゃからかのう。主さまとツバーシャは袋被っておるし、ラビは首輪で繋がれておるし」
「首輪はどれいの証なのです!」
「あら。シノひとりマトモな格好をしているような口ぶりだけど、巫女何て格好も昆布着た人魚にとっては異質じゃないかしら……」
どんな格好をしててもそりゃ異質に映るか。
それに巨大なタコと戦ってたしな。
牢に放り込まれた時は、心理的に安心出来るものがあっただろうし。
「はい。いっぱい持ってきたよ!」
「お魚なのです!」
「ほー。色々あるな。これは、白身魚……。タイか?」
「カレイじゃな」
「パイナップルが添えてあるわ……」
ほーん。
パイナップルと煮たのかな。
ふむ。
臭みが消えて、身も舌に乗せると、とろけていく。
大変よろしい。
「これは旨い」
「でもラビはこのあったかいパイナップルが苦手なのです……」
「そうかしら。バナナみたいに焼いてもよさそうよ……」
「ラビよ。好き嫌いは良くないのう。好き嫌いすると病気になって死ぬのじゃ」
「ひええええ!?」
間違いじゃあ無いかも知れんが極端だな。
これも教育なのかなあ。
でも、俺もあったかいパイナップル好きじゃない!
酢豚のパイナップルを彷彿とさせてくれる。
しかし、俺がラビの前で好き嫌いする訳にはいくまい。
それにこう言うときは──。
ゴクリッ。
薬だと思って噛まずに飲み込んでしまえば良いのだ。
「しかし、人魚が魚食べて共食いになったりしないのか?」
「あっはっは。羽の人は失礼だね! また牢に放り込まれちゃうよ? サメだって他の魚を食べるじゃない」
「あー。そうか。そう言えば、俺が牢に入れられた理由って何だったんだ?」
「メエたち人魚にとって、釣り上げられるって言うのはこの上なく屈辱的なことなのさあ」
ぬう。
良くわからんが文化的な違いという奴か。
人魚釣り上げ無いように気を付けよ。
「あっ、そうだ。パイナップルを育てたいから少し分けてくれないか?」
「うん。構わないよ。葉っぱの方を少し果肉を残して切って植えれば増やせるんだ。でも、三年は掛かるよ?」
「三年! そんなにか!?」
いやはや。
まさかそんなにかかるとは……。
生前パイナップル高いなあ何て思ったこともあったが、それも仕方の無いことだったのか。
まあ、もって帰って植えるけど。
見た目がよろしいからな。
城無しが映える。
そんな訳でお土産にパイナップルを貰い、代わりに干し芋とイモヨウカンをブレゼントした。
再現可能にするためにさつま芋を渡したりなんかもした。
「うーん。パイナップルだけで、こんなにもらうわけにはいかないよう」
「良いから良いから。色々ごちそうになったし」
「でも……。あっ、そうだ。お魚もってく? 何でも好きなやつを用意するよ!」
「ならマグロで!」
城無しで増やしたい。
やや狭い気もするけど、城なし成長してるし何とかなるだろう。
「いや、主さま。いくらなんでもマグロは……」
「マグロ何かで良いの? 他の魚食べちゃう害魚だから好きなだけ持っていっていいよ?」
「おお。良いのか? それはありがたい」
何かよう知らんが、ダメもとで言ってみて良かった。
しかし、害魚?
「そんなにマグロって他の魚食べるのか?」
「えっ? 飼うの? うーん。よく知らないけど相当食べるはずだよ」
何か自信無くなってきた。
マジックアイテムに生きたまましばらく突っ込んでおこう。
取り合えず、あまり大きくないやつを六匹ほど貰った。
頑張って増やそう。
「もう帰っちゃうの?」
「うん。城なしや城なちが待ってるからね」
「そっか。また近くによったら遊びに来てね!」
また今度。
それは一体どれだけの幸運が必要になるのだろうか。
それでも、俺は──。
「ああ、また今度な!」
再会を信じて人魚の国を後にした。




