八十八話 逆さから呼ぶとカッコ悪すぎるお方
酷い歌と躍りが始まった。
巨大なタコが暴走した。
押し付けられた。
しかし、こうなった以上俺一人でどうにかする必要なんて無いんじゃ無かろうか。
巨大生物と言えばツバーシャだろう。
相手をしたがっていたし。
ツバーシャにタコとスパーリングしてもらってその間に何とかしよう。
一人じゃないって素晴らしいな!
と、楽観的に構えたのだが──。
ビュビュビュン、ビュンビュンビュン……!
巨体に似合わず機敏にタコ足ふるい。
「ら、らめえええ!」
手頃だったメエが捕らわれ。
「ふえええ!?」
呆けていたラビが捕らわれ。
「【変わり身の術】……。ぬぁ? わぁが掴まったじゃと!?」
忍術を使うも、シノまでが捕らわれ。
「暴れて良いのかしら。ルグググ……。あら? 元の姿に戻れないわ……」
俺の希望であるツバーシャも。
飛竜になって暴れようとしたが捕らわれてしまった。
げっ。
ほんの一瞬でピンチに陥ってしまった。
しかも──。
ビュンビュンビュン……。
「あがっ!」
「ぷげっ!」
「でべら!」
とどまる事の無いタコ足が容赦なく振るわれ、巨大なタコを呼び出したやつらもぶっ飛ばした。
こりゃ不味いな。
強すぎるぞこのタコ。
しかし、何だってまたツバーシャは変身が出来ないんだ?
「お、おおぉ……。コダベケスじゃあ……! コダベケスがその手に掴むのは真実のみ。コダベケスに偽りは通用せん」
何だと?
よくわからんがそのせいでシノは掴まり、ツバーシャは変身出来ないのか。
でも誰なんだこのじいさん!
「ご主人さま! この足、とてもヌルヌルしてるのです!」
「吸盤、吸盤が嫌なのじゃ」
「悪くない眺めね……」
「締め上げちゃらめえ!」
くっ。
こんな事している間にも女の子たちが……!
ん?
いや、野郎はぶっ飛ばすのに女の子は捕まえただけで、酷いことしないな。
女好きなのか?
「スケベなタコだな……」
「フゴォ……!?」
おや、反応したぞ?
「あぁ……。いかん。逆さから呼んではいかん……」
えっ?
逆さから呼んでは?
何を言ってるんだこのじいさん。
えーと。
コダベケスだっけか。
逆さから呼ぶと……。
「スケベダコ!?」
しょうもねえ!
いや、だから何だって言うんだ。
「あああ……。その名を呼んでしまうと……」
「フゴ! フゴ! フゴォ……!」
何だ?
タコが真っ赤になったぞ!?
まるで茹で上がったみたいに!
「アルティメットコダベケスに変態するのじゃ! もうこうなってはおしまいじゃ……」
何なんだそれは!?
そんなんなるなら、その名前変えろよ!
うっかり、気が付いたら口にしちゃうだろうが!
そんな突っ込みを入れている間にも事態は悪化していった。
アルティメットスケベダコは、ムクムクと更に大きくなり、足が次々と生えてきて、八百八十八本に達した足を縦横無尽に振るう。
「いやーん!」×66
次々と昆布ビキニの女の子が捕ままっていく。
何て事だ。
「べべら!?」×99
だが、男は無慈悲に蹴散らされていく。
なんと言う男女差別。
これ以上好きにはさせられない!
俺が何とかしないと!
「うおおお! あっがれー!」
俺は、風が吹き上げる穴に向かうと、そこに飛び込み空に舞った。
考えろ!
考えるんだ俺!
どうすればあいつを仕留められる?
って、うお!
ビュビュビュビュビュン!
速い……!
どんな体の作りをしていればそんなに速く足を振るえるんだ!
しかし、そうだな。
これだけ、乱暴に足を振るってるんだ。
上手く誘導してこんがらがせば、絡まって身動き取れなくなるんじゃなかろうか?
「やるだけやってみるか……。そら! こっちだ!」
安定志向だから、あんまりアクロバティックな飛行はしたく無いんだかな。
俺はタコ足を縦回転、横回転、大旋回で避けまくり、そして、絡まるように誘導した。
ビュビュン。
ギュッ。
固結び。
ビュビュン。
ギュッ。
蝶結び。
ビュビュン。
ギュッ。
本結び、モヤイ結び、縁結び──。
とにかく、あらゆる結びかたでタコ足を結び続けた。
「どうだ! 数十本は封じてやったぜ!」
ビュビュビュビュビュン!
「ぐはっ!」
一発もらっちまった……。
足が多すぎて効果ない!
「いてて。ダメか……。ん? あれは……」
ツバーシャだ。
タコ足に捕まりながらも落ち着いた様子で成り行きを見守ってるのな。
しかし、ツバーシャか。
俺の魔法じゃ、タコを仕留めるには至らないだろう。
ならば。
ツバーシャを掴むタコ足を魔法で絶ち切って見てはどうか?
これだな。
「うおおお! ツバーシャ! 足を切り落とすから、そしたら変身して暴れまくってくれ!」
「良いわね。任せなさい。後は私が何とかするわ……!」
頼もしい。
しかし、空を飛んでいるのでチャンスは一瞬。
しかも、魔力をけちる訳には行かないから、最大火力で一度だけ。
それでもやるしかない!
俺は滑る様にしてツバーシャを掴むタコ足へと近づいた。
まだだ。
間だはやい。
あと少し……。
ここだ!
「【放て】」
バッチュ!
上手くいった!
頼むぞツバーシャ!
「ふふっ。空の支配者に相応しい強敵ね……。ルグググ……。ルガアアアアアア!」
何とか起死回生の一手は放てた。
しかし、油断は出来ない。
早く次の手を考えないと──。




