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八十三話 昆布ビキニ

 城なちの上でお魚を釣ることにした。

 でもシノばかり釣れてラビは釣れなかった。

 だから、外道な釣り方をラビに伝授した。



 ラビのカバンは海面に到着すると、海水を飲み込むように取り込み始めた。


「きっといっぱいお魚捕れるぞー」


「楽しみなのです!」


「むぅ。釣りだと思わなければ許せるかのう」


 釣りは釣り。

 魚捕りは魚捕りなんだっけか。

 納得してもらえて良かった。


「もう、引き揚げていいんじゃないか?」


「分かったのです! よいしょっ。よいしょっ……」


「落とすなよー? 慎重にだぞー?」


「入ってるかな……。あっ! おシノちゃんの釣ってた魚と同じのが入ってるのです!」


「おお。それは良かったな」


 しかし、一匹だけか。

 サケの時はたくさんとれたんだけどなあ。

 まあ、数打てば当たるだろう。


「中に入った海水だけ全部捨てちゃいな。そしたらまた海に投げ込むといい」


「頑張って釣るのです!」


「釣りとは言って欲しくないのう……。ぬっ、大物が掛かったのじゃ!」


 シノの竿がぐにゃんと曲がっとる。

 確かに大物っぽいぞ。

 助太刀した方が良いのかな?


「シノ。大丈夫か? 体抑えていなくて平気か?」


「ちょ、ちょっと不味いかも、知れないのじゃ」


「ラビ。シノを二人で抑えてあげよう。シノが海に落ちてしまう」


「分かったのです!」


 ラビと二人で腰に手を回してシノを支えた。


 こ、この人数でも厳しいな。

 気を緩めたらみんな一緒にドボンしそうだ。


「一体何が掛かっているんだ? マグロか?」


「あ、主さまはマグロが好きじゃのう」


「あっ、背中のヒレヒレが見えてきたのです!」


 んー?

 イルカやサメのような背ビレだが、やたらでかいな。

 あっ、魔物か?

 いや、でも──。


「ぬっ、今じゃ! 一本釣りなのじゃああああ!」


 ザバーン!


 シノのこんな気合い入った声なんて、初めて聞いたわ。

 一体どんな魚が──。


「いや、人間ですやん!」


「人間じゃな」


「でも、背ビレがあるのです!」


「ら、らめえ! ひっぱちゃらめえ!」


 どうしよう。

 人様を釣り上げてしまった。

 こんな時どうすればいいんですかね。

 教えて!

 人様を釣り上げた事のある漁師さん!


 しかし、何でまた人間がこんなところに。

 そんでもって、ファッションセンスもぶっ飛んでるな。

 昆布のビキニだ。

 しかも、針がビキニに引っ掛かって今にも千切れ──。


 ブチッ!

 ブンッ。

 ドサッ。


 紳士な俺は瞬時に顔を背けた。

 決して見たりしていない。

 決してだ。


「ああっ! おムネ見ちゃらめえ!」


「見てない見てない。だから、落ち着いておくれ」


「ほんとうに?」


「主さまは、そうとうウブじゃからな。例え、見せ様としても見ないのじゃ」


 いや、そこは紳士と言っておくれよ。

 ともあれ、明後日を向いて話をするわけにもいかないので、早く直しておくれ。


「もう、こっち見ていいよ」


「あっ、うん」


 何だろう?

 何だか恥ずかしくて話しにくいぞ。

 出会い頭からポロリだったからか?


「それで、お主はこんなところに何故おったのじゃ?」


「何故って……。何でだろう?」


「いやほら、何かに巻き込まれて漂流しちゃったとかさ」


「メエは、ずっとここに住んでるよ?」


 んー?

 話が見えないぞ?

 住む?

 海のど真ん中に?

 あっ、背ビレがあるって事は──。


「もしかして君は人魚?」


「丘の人はそう呼ぶけど、メエたちは人間だよ?」


「んー? ああ、まあそうか。俺だって翼が生えているけど人間だしな」


 ラビもウサギの耳と尻尾が生えているけど、自分の事を獣人なのですとは言わないね。


「しかし、キレイなヒレだな。背骨にそって生えてるのか」


「あっ! メイばかり見られてずるい。メイも羽見ちゃう」


「いいぞー。じっくり見とくれ。俺の自慢の翼だ」


 翼を見られるのは悪い気がしない。

 だって、欲しくて堪らなかったモノだからね。


「これでお空飛ぶの?」


「うん? 飛んでみたいかい?」


「怖いからいいや」


 それは残念だ。

 翼に興味があるなら是非とも飛んで見てほしかった。


「釣り上げてしまって悪かったね」


「悪いひとじゃ無さそうだから別にいいよ」


「そうか、それなら良かった。お詫びにきな粉餅をあげよう」


 温かいのをウエストポーチに入れておいた。

 お茶も差し出せれば良いのだけど、まだ育ってない。


「わぁ、ほこほこして美味しそう!」


「うんうん。たーんとお食べ」


 あっ、ヨモギがあればヨモギ餅もいいな。


 何となく、昆布ビキニが視界に入ってそんな事を思い付いた。


「こんな美味しいものくれるなんていい人なんだね。そうだ! メエたちの住みかに遊びに来てよ」


 えー。

 異世界ってのは危機感薄すぎないかい?

 食べ物くれたらいい人だなんて……。


 いや、俺も人の事言えないんだったわ。


 でもまあ、ずっと海で退屈していたし、お邪魔してみようかな。



 あれ?


 水のなかとか無理じゃないか?

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