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八十二話 城なちと釣りをしよう

 精米した。

 お餅ついた。

 みんなで食べた。



 お餅でお腹が膨れれば今日も今日とて空を飛ぶ。


 最近は城なちも一緒だ。


 城なしのはしっこでふよふよしている所を押してやるとそれを合図についてくる。


 城なちにはちっちゃい水源もあって、休憩できるのがありがたい。


 なんで休憩が必要かって?


 そりゃあ、ツバーシャがいつまでも空を飛んでいたがるからだ。


 そんなわけで──。


「ツバーシャちゃんは元気いっぱいなのです!」


「そうな。下が海だと元気倍増するのよな」


「じゃが、付き合ってはいられないのじゃ」


 ──俺たちは今、城なちで一息つきながらツバーシャを見守っている。


 城なちにはツバサ国の壺住居に習って、大きな壺を横にして、更にひっくり返した別の壺を机や椅子にして中にセットした。


 だから、ちょっとしたキャンプ気分が味わえる様になっている。


「しかし、暇だな。流石に俺も長時間飛んでると飽きる。でも、ツバーシャは一人だと飛びに行きたがらないし」


「暇なら釣りでもするかのう?」


「この高さでか?」


 べらぼうに高いところに居るわけでは無いけど、ちょっと釣りをするには高過ぎる。


「釣糸を垂らせば……。ほれ。城なちが低いところへ降りていくのじゃ」


「海が近くなっていくのです!」


「そんな馬鹿な……」


 城なしなら何となくわからん気がしないでもないけど城なちだぞ?

 城なちは生まれてから、一ヶ月ちょいしか経ってないのにやりたいことを察しただと?


 いや、シノがたまに釣りをしているのを見ていたのか?


 城なちは人懐っこくて好奇心が強い。

 だから、何かにつけてくっついてくる。

 その時に釣りというのがどんなもんなのか覚えたんだろうな。


「ほう。エサには生きた虫じゃ無くて、さつま芋を使うのか」


「そんなもの風呂敷に入れて無いからのう。釣りをすると分かっていればもって来たかも知れんが……」


「そりゃそうか。虫なんて常日頃から持ち歩いている奴はいないわな」


「ラビは持ち歩いているのです!」


 ギチギチギチ。

 ワキワキワキワキ。


 うっ。

 素手で、虫の塊を掴み取りして突きだしおった。


 難破船で手に入れた可愛い感じの肩掛け鞄にそんなもん突っ込んでるんかい。


「何でそんなもん入れてるの!?」


「ヒヨコたちのごはんなのです」


「ラビはヒヨコが好きじゃのう」


 ヒヨコが好きなのは微笑ましい限りだが、笑顔でそんなもん突きだしちゃいけない。

 虫に対する嫌悪感が無いのは好ましいが、限度ってものがある。

 いかん。

 育て方間違えた。


「主さまもラビも釣りをするのじゃ」


「俺はいいよ。ラビが落っこちる気がしてならないから見張ってる」


「むむむむ。ラビはそんなにおドジじゃないのです!」


 はっはっは。

 ご冗談を。

 ラビがおドジでないなら、この世界にドジ何て言葉は存在せんわ。


「まあまあ、ラビ。そこにうつ伏せになってごらん」


「うつ伏せ……。えーと、こうなのです?」


「そりゃ、仰向けだ。反対反対。お腹を床につけるんだ」


 俺もたまにどっちがどっちだか分からんくなる。

 だいたい、辛うじてうつ伏せの“伏せ”の部分から思い出すが。


「うつ伏せになったのです。何の為にこんなことするのです?」


「ラビの上に俺がのる」


「ふえっ? げふぅ……。重いのです!?」


 許せラビ。

 俺にはラビが海に引きずり込まれる未来しか見えない!

 しかし、これなら安心だ。

 存分に釣りを楽しんでくれ。


「ぬっ、掛かったのじゃ……」


「おお。釣れたな。これなら、俺にも分かるわ。サンマだろう?」


「いや、イワシなのじゃ」


 あれ?


「ぬっ、また掛かったのじゃ……」


「絶好調だな。今度こそ分かったわ。これはボラだろう?」


「いや、サンマなのじゃ」


 あれ?


「むむむむ。おシノちゃんばっかり釣れてるのです」


「運が良いだけなのじゃ」


「どうせツバーシャは当分空を飛んでいるんだし、じっくりチャンスを待てばいいさ」


 まあ、シノは運で片付けたけど、如何にやって来たチャンスをモノにするかが、釣りなんだと思う。


 ラビの方にも魚がよってきたり、つついたりはしていると思うんだけどな。


「あっ、また釣れたのじゃ」


「気持ちいいぐらい、たくさん釣れるな」


「むー……」


 あっ、とうとう膨れてしまった。

 仕方がないな。

 ここは、ラビのご主人さまが一肌脱ごうじゃないか。


「ラビ、ラビもお魚いっぱい釣れた方が嬉しいかい?」


「もちらろんなのです!」


「そうか。ならばご主人さまが取って置きの技を伝授しよう。竿を貸してごらん」


 何も素人のラビが玄人のシノと同じ土台で勝負する必要は無いさ。


 餌を外して、ラビのカバンをくくりつけて……。

 カバンの口は開いたままにする。


「さあラビ! 細かいことは気にするな! 海ごと釣り上げるんだ!」


「はー! 流石ご主人さまなのです! これなら、ラビでも釣れるのです!」


「じゃ、邪道の極みじゃな。もはやそれは釣りでは無いのじゃ」


 何とでも言うが良いさ。


 もともと、こうやって釣れたら良いなとは思っていた。

 ずっと海が続いているとなんも取れないからな。

 同じ事を俺が空を飛んでやるのは難しい。

 海面近くまで降りてしまうと上昇することが出来なくなるからだ。

 

 しかし、今の俺たちには城なちがついている。


 さあ、何が捕れるか楽しみだ。


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