八十一話 ぺったんぺったん
ラビが大豆を食べたそうだった。
きな粉にするのに大豆砕いた。
残念粗びききな粉になった。
シノに連れられて作業しているところにやってきた。
「ほー。良くできてるじゃないか。しかも、杵にはクサビも打ち込んだのか」
「そ、そうかのう? 良くできてるのかのう?」
「ん? うん。売り物に出来る程の品質だよ?」
おや?
ちょっと褒められて嬉しそうだ。
シノでも嬉しいのか。
これからはもう少しちゃんと見てあげよう。
「で、他には作るものはないのかのう?」
「じゃあ、麺棒とまな板をお願いしようかな」
「やっぱり、追加で出てきたのじゃ」
でも、嬉しそうじゃないか。
忍者なんて危ないことはやめて、もの作りに目覚めちゃえ。
「取り合えず、米の実を落とす道具の方を試してみようかな」
「耐久性に問題がないか不安じゃからのう。使ってみてくれるのは助かるのじゃ」
「クシ見たいなところに穂を挟んで引っ張れば──」
プチプチプチプチ……。
「にゃーん!」
「あっ、こらシノ。飛んでったお米をネコの姿で、ペシペシしてじゃれちゃダメだよ」
勢い良くお米が飛んでったのがたまらんのだろうか。
しかし、不思議だな。
ネコって何で爪たてずにペシペシするんだろう。
狩の練習なら爪を出しても良さそうなのに。
「ご主人さま! きな粉が出来たのです!」
「シノがまたじゃれて遊んでるわね……」
「おお。丁度良いところに来たね」
問題なく使えるみたいだから、ラビとツバーシャにもやってもらおう。
「これをここに入れて引っ張れば良いのです?」
「そうそう。やってごらん」
「頑張るのです! えいっ!」
ブチィ!
「にゃーん!」
ペシペシペシペシペシペシ……。
「先っぽだけ取れたわね……」
「ふえええ……」
あらら。
こんなこともあるんか。
素早くひっぱちゃったからか?
「ほら、シノ離しなさい……。先っぽだけでも私なら……」
プチプチプチプチプチプチ……。
「ね? だから失敗しても大丈夫よ……」
「ツバーシャちゃんが珍しく優しいのです!」
「め、珍しく……」
うんうん。
仲良しだな。
しかし、こっからどうするかな。
「白米にするには棒でつつきまくれば良いんだっけか」
「すり鉢使ってぐりぐりするといいのじゃ」
「あっ、精米もすり鉢でやって良いんだ」
「棒の先に布を巻いて力を入れすぎにゃい様にするのじゃ」
なるほど。
やり過ぎたら粉になっちゃうもんね。
優しくゴリゴリ……。
そして──。
「やっと終わったー!」
全部を白米に変える頃には日が暮れていた。
「時間掛かりすぎじゃないかこれ。こんなに掛かるものなのか?」
「普通はもっともっと時間が掛かるのじゃ」
これ以上時間が掛かるとか、昔の人どうしてたんだよ……。
ああ、そうじゃないのか。
時間が掛かるから精米せずに食ったのか。
流石に殻は取って食ったとは思うが──。
「まっしろなのです!」
「これがお餅なのかしら……?」
「まだなのじゃ。ここから炊いたり、叩いたりこねたりするのじゃ」
「流石に今からじゃ遅いし、片栗粉もまだ出来てないから明日だね」
朝になっちゃう。
だから、翌日。
「よし、片栗粉も良い感じに乾いたしお餅を作ろう」
「この炊いたお米をどうするのです?」
「シノが作った臼に入れてドスドス叩くんだ」
「ひええええ!?」
いや、おどろき過ぎだよ。
でも普通はこんな事をして作る食べ物なんか、そうは無いか。
手間かかりすぎ。
初めに餅を作った奴は何を考えていたんだろ。
それはさておき、ぺったんぺったんだ。
「じゃあ、ラビからやってみるか。この中にあるお米を杵で叩くんだよ」
「分かったのです!」
「俺はお水をつけたりひっくり返したりするからね」
ラビはおドジだから、本気でやらないとな。
手を叩かれたり、お餅がどっかに飛んでったりしそうだ。
【風見鶏】を使っておこう。
見える……!
「よーし。良いぞー。思いっきりたたけー」
「ぬー。よいっしょっなのです!」
バチーン。
ビュン!
最初から明後日の方に飛んでいくのかー。
俺は飛び上がり餅をキャッチすると臼に投げ入れた。
「よいっしょっなのです!」
バチーン。
ビュン!
「餅つきと言うのは随分と激しく動き回るのね……」
「普通はここまで飛んでいかぬのじゃ」
中々にトリッキーな餅つきだったが、ラビが力尽きたので、次はツバーシャがつくことに。
ズバーン!
ぺしぺ……。
ズバーン!
ぺしぺ……。
スバーン!
はやっ!?
つよっ!
確実に狙われてる!
「ツバーシャ。餅つきは俺の手を如何に叩くのかと違う」
「あら。そうなの……?」
いや、そうなのって。
俺の手を食べるつもりなのかね?
そんなこんなで不思議なお餅つきだったが何とかお餅になった。
そして、シノが薄く伸ばして切り分けたり、すぐ食べるようにまるっこい餅を用意してくれた。
片栗粉も使ってくれた。
これで、時間がたてば切り分けた方は固くなって、焼けば食べられるお餅になる。
七輪でお餅を焼くのは楽しみだがそれは後日。
餅はつきたてなら焼かずに食える。
さあ、きな粉を掛けて食べてみよう。
砂糖がないから塩を少しだけ混ぜた。
こうすることで僅かにだけど甘味がでる。
「おもひおいひいのれふ……。けほっ」
「ラビよ。喉につかえたりきな粉てむせたりするから、良く噛んで食べるのじゃ。死ぬぞ……?」
「ひええええ……!? ごほっ、ごほっ、ぐぐぐ……」
「おっと、言ってるそばからつっかえちゃったか。ほら、背中とんとんしてやる……。どうだ?」
「取れたのです……」
そんな気はしていたので、お水も用意しておいた。
でも、シノも酷い。
脅かしちゅあダメだ。
「凄まじいわね。噛んでも噛んでも噛みきれないわ……」
「粘りっけが凄いからね。ツバーシャも喉に使えないように気を付けてね」
「二人を気にしてばかりいないで主さまも食べるのじゃ」
「そうだね……。うん」
大人の味がする。
砂糖なしでも悪くないな。
でも、物足りないかな。
鍋にいれたら美味しいかもしれない。
普通のお米じゃなくて、ちょっとがっかりしたこともあったけど、こっちの方が楽しくて良い。
あっ、ラビがウサギの形のお餅を作り始めた。
知らないぞう、後で食べられなくなっても。




