七十五話 えらい人ごっこ再び
ツバーシャがいなくなった。
再び敵がやって来た。
悪魔の雄叫びが聞こえた。
余りの出来事に俺の脳が思考を停止した。
「ルガアアアアア!」
「ンガアアアア!」
二匹の悪魔はそんな事は知ったこっちゃないと丘の奥から元気に雄叫びをあげている。
「ご主人さましっかりするのです!」
「ああ、うん。そうだね。これ俺がどうにかしなきゃダメなんだよね」
「主さまの気持ちは痛い程分かる。これはやっかいな事この上ないのじゃ」
ほんとどうしようねこれ。
すべてを投げ出しておうち帰りたい。
てか、何で城なし地球外生命体さん解き放ちゃってるの?
それだけで事態の収拾が着かないんだけど。
「あ、悪魔の声が近くなって来ていないか?」
「嘘だろう。追って来たのかよ!?」
「建物ばかり徹底的に破壊し尽くしていたから、人間には興味が無いと思っていたのに……」
えっ、こっちくんの?
地球外生命体さんはともかく、ツバーシャは人の姿でこっそり戻ってきておくれよ。
知り合いだってばれるじゃあないか。
「ええい。考えるな。行こう! あとの事は後で考える」
「そうじゃな。放っておけば、うっかり、この村を破壊しかねないのじゃ」
「ご主人さまなら悪魔の一匹や百匹楽勝なのです!」
地球外生命体さんが百匹か。
宇宙にはいそうだしあり得ない状況では無いのが怖い。
俺、地球外生命体さんをどうにかできたこと無いんだけど……。
「我らも共に行こう、勇敢なる英雄よ」
「お、おい、お前ら正気か? あの悪魔とやり合おうってのか?」
「だが、このままじゃ俺たちだって……。もう、やるっ気ゃないだろう!? 羽付きに続こうぜ!」
「「「おーっ!!!」」」
不味いヤバイいかん。
共通の敵を目の前にして結束しつつある。
何てこったい、しかも俺英雄かよ!
自作自演何てレベルじゃない。
悪魔が身内じゃなければ感動的な話なんだがこれは不味い。
どないしろって言うんこんなん……。
事態がより収拾つかない方向に進んでるじゃんか。
そうだ。
もう、すべて話してしまおう。
嘘は良くないし誤魔化すのも良くないし、きっと話せば分かってくれる。
よし、全部話すぞ──。
しかし、俺が決意を決めたときシノが前に出て叫んだ。
「静まらぬか! このお方をどなたと心得る。このお方は神より遣わされた天上のお方ぞ! お主らのような者たちが方を並べられると思うではない! 頭が高いにも程があるぞ!?」
「「「ははぁぁぁ……!」」」
みんなひれ伏した!?
俺はどこのご老公様だよ……。
何、またそっちの方向で行っちゃうの?
演技とかほんと苦手なんですけど。
と言うか、もうこれ後に引けないよね?
「良いか皆の衆。主さまは、お主らの犠牲を決してよしとはしない──。故に! 如何なる想いを胸に秘めようとも決してついて来ようとは思うでないぞ!」
いやはや、以前に増して切れがあるな。
思うことが無いことも無い。
しかしこれで、誰にも見られず、二匹の悪魔の収拾に取り掛かることが出来る。
たがらよしとしようか。
となれば、いつまでもここに居る分けにはいかない。
俺たちは村を後にして諸悪の元凶である悪魔の元へと向かった。
空飛んでいけりゃ楽だったんだがなあ。
飛び立てそうな所がないから歩くしかないわ。
歩くのは嫌いじゃあ無いが、荒野が続いていると飽きる。
あっ、西部劇に出てくるモジャモジャした塊が風で転がってる。
「それにしてもおシノちゃん凄いのです。前よりずっとずっと偉そうになってたのです!」
「ラビよ。それは褒めてないのじゃ」
「ありがとう。シノのおかげで助かったよ」
全部話しても良かったとは思うけど、理解してもらう間に悪魔がやって来てしまうかも知れない。
結果的にこれが正解だったのかもなあ。
「ルガアアアアア!」
「ンガアアアア!」
いよいよ二匹の姿が視界に入ってきた。
「ツバーシャちゃんとでっかい人間が戦っているのです!」
「おおっ。もしかしてツバーシャは地球外生命体さんを止めに掛かってくれているのか?」
「いや、あれはわぁには分かる。じゃれあっておるのじゃ」
いや、何がどうしてそうなった?
建物破壊し尽くしたって言っていたし、やることなくなってスパーリングしているとか?
破壊大好きコンビが仲良くなるとは不安しかない。
「もみくちゃになりながらも、無表情おじさんの村にじわじわ近付いているあたり悪意を感じる」
「無意識のうちに破壊対象へと導かれているのじゃろう」
はた迷惑この上ないなあ。
しかし、こっからどうしようかね。
仲良くなっちゃた以上、倒してしまうのも忍びないんだが。
「取り合えず話し掛けて見るところから始めますかね」
「また、ぶっ飛ばされるんじゃないかのう?」
「そんな事無いのです! 話せばきっと分かってくれるのです!」
そうである事を祈るわ。
そうであるなら話が早いしな。
あんまり期待は出来そうにない。
それでも俺は二匹の悪魔の前へとゆっくりと歩みでた。




