六十話 ゾウさんの牙パンツを手に入れた
城なしの掃除が終わらない。
ツバーシャがそら飛びたがった。
オクラを見付けた。
何とか石を探しだし、それなりの数を集めたのでひと生きついていたのだが。
俺たちはいたたまれない思いをしていた。
「メッヂャバラベッダダ!」
「モウメッヂャバラベッダダ!」
ゾウさんの牙パンツのみを装備した野性味溢れる方々に絡まれてしまったのだ。
いや、象牙で出来ているのかは知らんけど。
何かの牙で作った槍もったのも沸いてくるし。
わらわらわらわら、次から次へと沸いてくるし、本当にどうしたものか。
不良に絡まれているみたいで嫌だ。
こうなると発作を起こす。
だから先手必勝、袋を被っている。
もちろんツバーシャも被った。
この人数ならこれで耐えられる。
しかし、おかしい。
この世界の言語は統一されているはずだよな。
なのに何を言っているのか分からないのは何故だ?
言葉と言うのはとても大切だ。
何を言っているのか分からないと大変な事になる。
俺は生前、外国人とお友だちになってお家にお呼ばれした事がある。
あまり、日本語が得意で無いようで、英語やら中国語やらで必死に補完してくれようとしたんだが、さっぱりだったけっな。
そんなこんなで、気がついたら押し倒されて、甘酸っぱい青春をおうかしてしまうところだった。
口説かれていたのに気づいたのはだいぶ後の事だ。
後にも先にもあれほど情熱的なアプローチを受けたのはそれっきりだ。
男じゃなけりゃあ万々歳だったんだが。
「うーん。言葉が通じないとは、参ったな」
「ご主人さま。この人たちは
“貴方たちのせいで動物が逃げてしまったのです。ああ、お腹ぺこべこなのです。どうにかして欲しいのです”
と言っているのです」
「言葉の感じだと、もっと口汚い感じなんだが、そんなにかわいく喋っているのか」
「きっと、ラビは言葉に込められた思い。すなわち言霊を聞いているのじゃ」
「いや“めっちゃ腹減っただ”って言ってるだけよ……」
なるほど事情は分かった。
そう言う事ならお芋をあげよう。
蒸かして食いきれなかったやつが大量にウエストポーチに貯まって始末に困ってた。
「メジダアーイモダアー!」
「ジーゲデヤガンナアーア!」
「モッドイモヨゴーゼ!」
「ああ、これなら、俺にも分かるわ。“お芋ありがとうなのです”だろ?」
「だいたいあってるのです!」
「流石は主さま。これほど早く言霊を聞くことが出来るとはお見それしたのじゃ」
「そうね……。もうそれでいいわよ……」
彼らは中々の食べっぷりだ。
二本三本四本と平らげていく。
生産者としてこれほど嬉しい事は無いわ。
いっぱい食えー。
しかし、大草原で生活しているだけあって、しなやかな筋肉をしているなあ。
そういや、彼らのお家をみないけど、どうやって暮らしてるんだろう?
行動範囲がひろいのか?
しばらくそうしていると何か思い立ったように槍を突き付けてきた。
何だ?
芋に虫でも混入していたのか?
「ゼンブヨゴーゼ!」
「ゼンブヨゴーゼ!」
「えーと“とても美味しかったのでもっとたべたいのです”と言ってるのです!」
「そうかそうか。もっとたーんと──」
「調子に乗って恐喝してるのよ……。いい加減にしなさい! ルググググ……。ルガアアアアア!」
あらら。
ツバーシャが怒ってしまった。
気に触るところがあったんだろうか?
しかし、何だこれは?
「ダメダアーダメダアー。ザガラッデバダメダアー!」
「ダメダアーア、ダメダアーア」
ゾウさんの牙パンツを履いた男たちはツバーシャを拝むようにひれ伏した。
そして、その中から一人だけ前に出てきた。
「ゴレヤール! ユルゼーエ!」
「ユルゼーエ! ユルゼーエ!」
彼はゾウさんの牙パンツをどこからともなく取り出すとツバーシャに差し出した。
いや、流石にそれは無理だろう。
本気でツバーシャが怒りかねないぞ。
「ふふっ。ふふふふふっ……。ルガアアアアア!」
ああ、怒る通り越してキレたわ。
飛竜の姿に戻ってしまった。
火を吐いて消し炭にする気満々だな。
しかし、彼らは避ける避ける。
流れるような動きで全て避けていく。
凄いな。
この弱肉強食の世界で暮らしているだけの事はある。
そして、ひとしきり避けると。
「ぱねーよ。マジぱねーよ。おいずらかろぜ」
「マジぱねーな! 帰って影鬼しようぜ」
そう言い残して去っていった。
「最後何て言ったのか分からなかったのです」
「奇遇だな。俺にも分からなかったわ」
「おかしな輩だったのじゃ」
「フン!」
後には、ゾウさんの牙パンツだけが残された。
折角だから記念にもらっておこう。
「さあ、そろそろ帰ろうか」
もう十分休めたしな。
にげていった動物も戻ってきた。
早く帰ろう。
(((お帰りなさーい!)))
城なしに戻るとぷちラビがお帰りなさいしてくれた。
ああ。
こんなのに憧れていたんだよ。
ちっこいのに囲まれてさあ。
ちょっとちこっ過ぎるが最高だ。
「ただいま。何事もなかったかい?」
(((何もなかったよー)))
ならばよし。
じゃあ、早速オクラを植えるかな。
「しっかし、壺で何でも育つもんだなあ」
この世界に広めてやろうか?
いや、壺だけ広まったんだっけか。
ままならないもんだ。
(お花が咲いてるにょ)
(あっ! 良いこと思い付いた)
(あー、お花の中に入ってる!)
ぷちラビたちにも大人気だ。
妖精が花で戯れると言うのは絵になるなあ。
少しケンカしてみたり、譲り合ったり、とても可愛らしい。
そろそろご飯にしなくちゃいけないけれど。
もう少しだけこうしていようと思った。




