五十六話 妖精さんと流星さん
影絵した。
なんと妖精が現れた。
干し芋を配給した。
そんなこんなで日は暮れて、辺りが暗くなってきた。
少々なごり惜しい。
けど、そろそろ帰る頃合いかな。
「そろそろ城なしに帰ろうか。もうすぐ夜がやって来る」
そう皆に声を掛けて帰り支度を始めようとしたのたが。
(あっ、待って!)
(もうすぐ凄いの見られるの!)
(お願い事考えておくの!)
妖精さんがまた姿を現して止められてしまった。
凄いの?
お願い事?
一体何が始まるんだろう?
(きっと驚くよ!)
(お空見ててね)
(あっという間だがまばたきしちゃダメー!)
「何だか妖精さんたちの話をきいていたら、ワクワクしてきたのです!」
「なんじゃろなー。月と星が綺麗じゃが」
ほほう。
異世界だから、あれを月と呼んで良いのかと気になっていたけど、月は月なのか。
しっかしなあ。
まばたきするなと言われると変に意識してしまう。
多分、五割増しでまばたきしてるぞ。
そんな阿呆な事を考えていると空が一瞬光った。
そりゃあもう、空一面明るくなるぐらいに。
これは──。
「あっ、まさか! みんな、願い事を三回繰り返すんだ!」
「願い事って急に言われても困るわよ……」
そりゃそうだが時間がないんだよ。
ほら。
空に一本光の線が走った。
流れ星。
「みんなずっと一緒に楽しく過ごせますように。みんなずっと一緒に……」
「ご主人さまご主人さまご主人さま」
「ひよこ食べたい、ひよこ……」
「得に無いわよ……」
願い事を唱え終わる頃には、光の線は空に浮かぶ雲の中へと消えていった。
「何とか言えたな」
「おシノちゃんひよこ食べちゃダメなのです!」
「むふふ。冗談なのじゃ。願いが叶うかもなんて迷信じゃよ」
ああ、シノったら夢の無いことを言ってしまう。
こう言うのは気分で良いのだ。
願い事をしたことなんてどーせ明日には忘れる。
しかし、ラビの“ご主人さま”と三回言ったのは何だったんだ?
まさか、“ご主人さまと何かしたい”と言うのを圧縮して“ご主人さま”に込めたのか?
やるなラビ。
初見でそれは中々出来る事じゃあない。
前世で、しし座流星群が降り注いだ時には気が付かなくて後で後悔したわ。
「ねえ、それより城なしに流れたのだけど大丈夫なの……?」
「えっ?」
( えっ?)
ゴゴゴゴ、ズ、ズズーン……!
遅れてやって来た雷に似た轟音が響き渡った。
「ひええええ!?」
「うおおお? 流星と衝突とかシャレにならん!」
(あああ、どどど、どうしよう!?)
(あれには仲間が乗ってたんだ)
(降りてこないの……)
うっ。
何で妖精さんが流れ星に乗ってるんだよ。
あれじゃあもう……。
「木っ端微塵ね……」
言っちゃったよ!
(酷いこと言わないでよ……)
(アタシたちは死なないもん!)
(一方的に干渉できる存在だからね!)
良く分からないが不死身らしい。
あれぐらいじゃどうと言う事はないのか。
妖精さんとは一体……。
「主さま。兎に角城なしに戻った方がいいのじゃ!」
「あ、ああ。そうだな!」
こんなところで、油を売っている場合じゃあない。
早く城なしに戻らないと!
直ぐさま城なしに戻った俺たちはその惨状を目の当たりにした。
「これは酷い……」
新築のお城に穴が空いてしまっている。
多分直せるだろうと思うけどショックだよなあ。
ぴっ、ぴっ、ぴっ……。
「ああ。ひよこたちしっかりするのです!」
「ラビ、落ち着いて。泡吹いて固まっちゃってるけど息はあるから揺らさないであげて」
「壺畑もいくつかヒビが入ったり、割れたりしているのじゃ」
(ご、ごめんなさい!)
(私たちの仲間がとんでもないことしでかしたの)
(どうしようどうしよう……)
「そんなもの、植え直せばいい話さ。大丈夫とは言っていたけど、アレに乗っていたっていう妖精さんが心配だ。探してあげよう」
妖精さんたちは自力で城なしまで飛ぶのはしんどいらしい。
だから俺の腕に生えてついてきた。
腰から上しか出てないからちょっと不気味だ。
これが一方的な干渉ってやつなんだろうなあ。
「ふむ。城の中は暗くて見えないな」
「私に任せなさい。火を吹くわ……」
「やめたげて! この上炎上までしたら城なし泣いちゃう!」
まあ暗闇でも【風見鶏】を使えばいい話さ。
「見える!」
うーん。
良く考えたら、風を伝って見るから、水の中までは見えるわけ無かったわ。
あっ、でも、それっぽいのが浮かんでる!
「おーい、しっかりしろー!」
(どーんってなってぐるぐるしてどーんって……)
(ううっ。オイラ一番星になるんだ)
(お腹すいたにょよ)
うん。
ちょっと元気がないが大丈夫そうだ。
引き上げてあげよう。
「ほら、俺に掴まって……」
(あっ! 人間!)
(そんな。誰もオアシスにはいないハズじゃ)
(ケガレてまうにょ! )
ああ、忘れてた。
干し芋あげないとケガレちゃうんだっけか。
「ほら、これをお食べ」
(((わーい!)))
やっすいなあ。
妖精さんの未来が心配すぎる。
(食べる前に事情を説明しておくれよ)
(そうなのよ! いくらなんでもスピード出しすぎなのよ)
(この人たちのお城壊しちゃったんだよ?)
(それが聞いておくれよ)
(月から飛び立ってしばらくは何事も無かったんだけど)
(変な生き物が地球の大気圏外に沸いてて、取りつかれちゃったにょ!)
えー。
地球と月の間に何か沸いてるのかー。
何かやだなあ。
しっかし、アホそうに見えるのに難しい言葉を知ってるんだな。
まあ、宇宙空間渡って来るぐらいだからそれぐらいの知識はあるか。
月はこの世界でも月と言うように、地球も地球と言うんだな。
地の球だしな。
人がいる星は大抵は地球と呼ばれるようになるんだろう。
よう知らん。
あれっ?
そうすると妖精さんって宇宙人なのか?
いやまあ、今はそれはおいておこう。
ともかく、月から地球に向かう途中で、変な生き物が宇宙船である流れ星に取りついて、振り切るのに加速しまくったそうな。
「で、その、変な生き物はどうなったんだい?」
(摩擦熱で塵になったハズさ)
(地球に落ちるととっても熱くなるんだ)
(生きている訳がないにょ!)
そうかそうか。
それなら心配はないな。
地球外生命体何かと出会いたかないわ。
「ご主人さま見てください! とっても大きくてたくましい妖精さんがいるのです!」
「そうだなあ、でっかいなあ。ツバーシャと殴りあいが出来そうな大きさだ」
((((((地球外生命体と一緒にしないで!?))))))
ああ。
やっぱり、地球外生命体さんだったかー。
話は通じるのかな?
「どうも今晩は、いい感じにグロテスクなお顔がチャーミングですね!」
ギチギチ……。
「ンガーアアア!」
やれやれ、とんだお客さまだな。
戦うしかなさそうだ。




