五十五話 影絵で遊んで誘い込もう
オアシスで心癒された。
ラビが何かを耳にした。
シノがワニを釣り上げた。
しばらく、オアシスのまわりの生き物を発見してはしゃいでいたが、しばらくすると皆俺の近くに座ってぼーっとオアシスを眺めていた。
うーん。
オアシスを眺めているのは悪くないのだが、長い間会話がないと何かしなくてはならない気がしてくる。
大抵こう言うときに何かしようと決意した時はスベるんだが──。
やらずにはいられないのよな。
薬指と親指を重ねて、中指と人差し指を緩い感じに立て、小指でお目めを作る。
そしてこれを太陽の光にかざせば。
「うさーぎさん! ラビだよー!」
「あっ、本当にウサギさんに見えるのです!」
「主さまは器用じゃな」
「でも似てないわ……」
(うん。演技力がたりないね……)
(もっと、魂を込めてほしいのだわ……)
(しーっ。ばれちゃうよ……!)
イマイチな反応!
てかなんか、外野から野次飛んできたような。
気のせいか?
いや、ラビのお耳がまたひくひくしたな。
ふむ。
何かいるのかな?
もしかしたら、【風見鶏】で何か見えるかも知れない。
こっそり使ってみよう。
見える……!
風の流れが視界に映り、不自然に空気が遮られている所が見つかった。
なんだこれは?
ちょうちょの様な、お人形さんの様な……。
あっ、これ妖精じゃないか?
見たことは無いがそんな気がする。
「ご主人さま?」
「あ、ううん。何でもない。ちょっと本気だして影絵をやって見ようかと思ってな」
何となく、そこに妖精がいる!
なんて暴露してしまったらどこかに言ってしまいそうな気がする。
誘い出してやろう。
きっとかわいいだろうな。
見てみたい。
『あー。あー。ラビは立派などれいになるのです!』
「なっ! ラビの声にそっくりなのじゃ!」
「ご主人さま凄いのです!」
「似すぎてて気持ちが悪いわ……」
そうだろう、そうだろう。
でも、気持ち悪いって言うのはやめて。
俺がこの芸を封印したトラウマの箱が開いちゃう!
しかし、まだ終わらん。
お次はウサギさんの耳の部分を三角にしてネコに見立てて──。
『あー。あー。わぁは主さまのお腹の上で寝るのが好きなのじゃ』
「凄いのです凄いのです! ネコさんなのです! おシノちゃんなのです!」
「自分の声を聞くのはちょっと恥ずかしいのじゃ」
「シノの声も出せるのね。ちょっとイタズラできそうかしら……」
(くっ! なかなかやるじゃないか!)
(もっと、近くで聞きたいのだわ!)
(しーっ。聞こえちゃう! それにそんなに近付いたら、隠ぺい魔法が解けちゃう!)
よしよし。
姿がうっすら見えてきたぞ。
もうひと押しかな──。
「あっ! 羽虫がしゃべってるのです!」
(((羽虫じゃねーし! あっ……!)))
ナイスだラビ!
ラビに突っ込み入れた勢いで姿を現したぞ。
ほうほう。
これはこれは。
ちっこくてかわいい。
しかし、割りと想像通りだが一つ違和感が。
「何でウサギの耳何だ?」
(こっちが聞きたいよ。ボクたちはたくさんの人間のイメージが反映された姿になるんだ)
うーん。
妖精のイメージならウサギの耳が余分な気がするんだけど。
(あんまり人間に近付いたらダメなのだわ!)
(人間のケガレに触れると弱っちゃうの!)
へー、どっかで聞いた話だな。
どこだったけか?
「なんだ残念だな。折角だからおやつでも一緒にどうかと思ったんだけどな。ほら、干し芋」
(そんな。もぐもぐ。そんなので懐柔出来ると思うなよ!もぐもぐ)
(とかいいなが食べてるじゃないの。もぐもぐ。チョロ過ぎるにも程があるのだわ。もぐもぐ)
(ち、ちょっと二人とも……。私だって食べたい! あっ……。ありがとうございます。もぐもぐ)
「ケガレは良いのかのう?」
(お前たちの心は綺麗だよ。おやつくれたし。もぐもぐ。多分。もぐもぐ)
「適当ね。そんなのでいいのかしら……」
耳に痛いな。
お菓子もらって拐われたことあるわあ。
妖精さんたちにも充分注意して頂きたい。
(あー! なんか食べてるぞー!?)
(ずるーい。あたちだってたべたーい)
(こんな機会滅多にないぞ! いや、二度とないかも!)
「いっぱい、羽虫が増えてきたのです!」
((((((せめて妖精さんて呼んで!?))))))
本当に賑やかになってきた。
子供に囲まれているみたいで嬉しいな。
いいなー。
こう言うの夢見てたんだわ。
「よーし、干し芋はまだまだ沢山あるからね。どんどんこーい!」
(本当にー?)×10
(みんなー! おやつくれるってー!)×25
(まじか! 行くしかないぞー!)×50
何だか大変なことになってきた。
しかし、これだけ集まってくると……。
くそうっ!
妖精さんでもダメのかよ。
息が苦しい……。
(何だか苦しそうだよ?)×100
(だいじょーぶ?)×256
「もう一つ作ったんだから、被りなさいよ。ほらっ……」
「ぐぬぬぬ。妖精さんとは素顔で接したかったのに」
「私もかぶるから……」
まあ、しょうがないわな。
ふぅ……。
妖精さんなら被れば何とかなりそうだ。
「そーら、干し芋の配給だー! 一列に並べーい!」
(わーい!)×256MAX!!
妖精さんの数はとんでも無いことになってたし、2周3周するやつもいて配り終えるのにかなり時間が掛かった。
一息ついていると、いつの間にかみんなどこかに行ってしまったが、不思議と寂しくはない。
楽しかったなあ。
妖精に囲まれて暮らせたらしあわせだろうなあ。
なんて考えていると、ツバーシャが俺の側にやって来た。
「ねえ、ツバサ。飛竜さーんはないのかしら……?」
「あっはっは。声だけなら出来るけど、飛竜の偉大さを表現するにはちょっと難しいんだ」
「ふふっ。そうね。それは仕方がないわ……」
まさか、ツバーシャが興味もって食い付いて来るなんて。
でも、飛竜さーんはなあ。
あれっ?
今俺の事ツバサって呼ばなかったか?
聞き間違えじゃあないなら嬉しいな。
きっとそれは、ツバーシャが俺に打ち解けてくれた証だと思うから──。




