五十四話 オアシスでのんびりピクニック
ひよこめでた。
えだまめゆでた。
オアシスめっけた。
特にオアシスに降りて何かしようなんて目的があったわけじゃあない。
しかし、砂漠でオアシスを見つけたら誰だって立ち寄りたくなるものだろう。
「綺麗なのです……」
「そうだな」
オアシスの水は澄みわたり底まで見る事ができる。
しばらくぼーっと水面を眺める。
風で揺らぐ水面が光を散らして眩く光り、揺らぎが産んだ小さな波が縁をやさしく撫でた。
なんだかここにいるとホッとするな。
砂漠ってのは遮る物が無いから、太陽に焼かれてフライパンの上にでもいる様な所ではないかと思ったんだがそんなことはないし。
これならここでのんびりくつろげそうだ。
その前にやらなきゃならん事もあるけど。
「ツバーシャとシノを探して掘り起こさなくちゃな」
「あっちの砂がもごもごしてるのです!」
やれやれ相変わらず無茶苦茶な着地をするもんだ。
けったいな距離をすっ転がったらしく、新雪の様な砂漠が抉れて道ができている。
そしてその先の地面がラビの言うようにもごもごしていた。
どうやらあそこにツバーシャが埋まっている様だ。
さっそく、ラビと一緒にそこへ向かうとシャベルをウエストポーチから取り出してツバーシャの発掘に取り掛かろうとした。
が──。
「ツバーシャ。掘り起こすから少しの間じっとしていてくれ。暴れられると砂を掘り起こすのがしんどい」
「ダメなのです。ツバーシャちゃんにはご主人さまの声が届いていないのです」
「うーん。いっその事パーっと魔法ぶっぱなすか? でもそれだとシノを巻き込むか」
「主さま。わぁの心配なら不要なのじゃ」
「うわっ。既に脱出してたのか。いるなら早くに声を掛けておくれよ」
急に背後から声を掛けるもんだからビックリしたわ。
まったく、抜け目がないな。
流石は忍者か。
ともあれ、埋まっているのがツバーシャだけなら魔法が使える。
「じゃあ二人とも少し離れておくれ。砂がまうから鼻とお耳はふさぐんだよ」
「分かったのです! ひゅー……。んっ!」
「いや、ラビや。息は止めなくても良いのじゃ」
「うん。ほっぺたパンパンで可愛いけれど、ツバーシャの息の根が止まってしまうから早く下がっておくれ」
ほっぺた膨らませたラビをシノが安全そうなところまで連れていったのを見届けると、俺は魔法に集中する。
イメージは風船を破裂させる感じで……。
威力は最大。
ん。こんなもんか。
「【放て】」
ボヒュッ!
おお、良い感じに砂が吹き飛んだぞ。
「ル、バ、アアア……」
おうおう。
吠えるツバーシャの口から砂がダバダバ出てくる。
ものすっごい口の中がジャリジャリしてそう。
ツバーシャは目をしぱしぱさせながらオアシスの水辺に向かい、顔を洗って口をゆすぐと人の姿になった。
「ひどい目にあったわ……」
「着地をする時は普通は速度を落とすもんだ。何で全速力で着地するかな」
「砂漠が私を高ぶらせるのよ……」
そうかい。
でもツバーシャいつも全速力じゃあないか。
少なくとも砂漠のせいじゃあないわ。
「それで、ここへは何をするつもりで降りたのかしら……?」
「いや、なーんも考えずに降りた。俺はここでぼーっとしているから好きに過ごすと良い」
「そんな事を言われても……」
「わぁは釣りをするのじゃ」
「ラビもなんか捕まえるのです!」
「うんうん。いっておいで」
俺はみんなの様子を眺めて楽しみたい。
でもツバーシャは何をしたら良いのか分からず困ってしまった様だ。
オロオロして落ち着かない。
「ツバーシャも何か捕まえてきたら良いんじゃないか?」
「そんな気分にはなれないわね。ねえ、隣に座っていても良いかしら……?」
「ん。構わないよ。と言うか俺に遠慮なんてしないでおくれ」
「そう……」
なし崩し的に一緒に暮らしているからかツバーシャには少し遠慮がちなところがある。
「ねえ、私はあんたたちと一緒にいていいのかしら……?」
「んー? 気にしているのか?」
「だって私は……」
まあ、たしかに色々としでかしてくれたわな。
今となってはもうどうでもいいし気にして欲しくはないんだが。
「俺はツバーシャがいた方が楽しいし、これからもずっと一緒にいて欲しいと思ってる」
「そう……」
「ツバーシャはどうなんだよ。俺たちと一緒にいるのは嫌か?」
「ふふっ。そうね。口に出すのは恥ずかしいからやめておくわ……」
そんなん言われたら俺が恥ずかしくなるじゃないか。
でも、その答えならまんざらでも無いと言う事だろう。
「ご主人さま! ザリガニ捕まえたのです!」
おやまあラビが本当に何か捕まえてきた。
へー。
ザリガニってのはこんな所にもいるんだな。
確かザリガニの尻尾はエビに似ていると思ったんだがこのザリガニの尻尾は尖ってら。
なんか刺されそうな気がする。
「って、それサソリじゃないか! いいかラビ。ソイツをそーっと放すんだ」
「ふふん。ハサミに挟まれるぐらいへっちゃらなのです!」
「いや、挟むんじゃなくてソイツ尻尾を刺すからな? 刺されたら死んじゃうぞ」
「ひっ、ひえええええ!?」
いかん。
驚かせてしまった。
「ラビ、ぽいしなさい。そうすれば怖くないから」
「ぽ、ぽいっ! ぽいっ!」
ダメだ。
パニックになって、口でぽいぽい言うだけでサソリから手を離せてない。
ラビの手を掴んでサソリを奪い取れればいいんだが、下手に触れてラビがプスリとされたら洒落にならん。
「なにやってるのよ……。仕方ないわね……。ルグググ……。ルガアアアア!」
「ぴっ」
ツバーシャの咆哮は間近で聞くと怖い怖い。
ラビなんて固まってしまったわ。
「ほらっ。取れたわ。もう大丈夫よ……」
「ツバーシャちゃんありがとうなのです!」
「べ、別にお礼なんていらないわよ……」
顔を赤くしてうつむくツバーシャ。
なんだかんだでツバーシャも上手くやっていけそうじゃないか。
「あれっ……?」
「ん? どうしたラビ。まさかサソリに刺されていたのか?」
「違うのです。何か聞こえるのです」
「私には何も聞こえないわ……」
俺にも何も聞こえない。
でも、ラビのお耳がひくひくしているから、ラビには何か聞こえているんだろう。
そうやって三人で耳を澄ませているとシノがこっちにやって来た。
「主さまー! どえらい獲物を釣りあげたのじゃー!」
「シノも何か捕まえたのか……。って、サソリの次はワニか!」
「わに? 流石は主さま。こんな生き物まで知っているとは博識なのじゃ。してこれは食えるのかのう?」
「食えるらしいが、捌くの大変そうだしもと居たところに帰してきなさい」
よく釣り上げられたなそんなもん。
水中に引きずり込まれて食べられてしまいそうだ。
うーん。
サソリといい、ワニといい、オアシスってのは危険な生き物がいたもんだ。
そうと分かればおちおち昼寝も出来やしない。
まあそれはそうと、さっきラビはいったい何を耳にしたんだろう。




