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四十九話 ラビのお耳はかわいい

 知らない人にお菓子を貰った。

 拐われた。

 ラビも拐われてた。



 誘拐された場合どうするのがいいのだろう。


 いや、違う。

 誘拐自体はどうでもいいんだ。

 俺の体は丈夫だ。

 ひっどいことしようと思っても傷つけるのも一苦労だろうさ。


 だから、問題はラビだ。

 人質を取られているのは厄介この上ない。

 それにラビに何かしようというのであれば冷静でいらる自信がない。


「さて、状況は理解できたな?」


「何が目的なんだ?」


「なあに、簡単な事だ。私を持ち上げてくれるだけでよい。それだけであらゆるモノが手にはいるのだ」


「持ち上げる? よっこいせと?」


「あまりふざけるなよ……? この女が泣き叫ぶ姿がそんなに見たいのか?」


 ぞわりとした。

 体の底からもれなく怒りがかき集められたみたいに。

 ダメだ……。

 堪えられない!


「【放て】!」


 放った魔法が鉄格子をへし折り男に迫る。


 ああ、やってしまった。

 力付くでどうにかするつもりは無かったんだけどな……。


「【返せ】!」


「なっ!? 反射? ぐふっ!」


「ご主人さま!」


 ぐぐっ、イテテ……。

 まさか、魔法を返されるとは。

 そんな魔法があったなんて……。


「はっはっはっ! なにも準備をしていない無能だと侮るなよ? 魔法を使ってどうにかしようと考えることぐらい想定している。手枷は吹き飛んだようだがその折れた腕では──」


「話が長いわ! 手も足も出なくても翼はだせるんだよ! くたばれっ!」


「ぶべらっ?」


 ダメだダメだ。

 熱くなるな。

 落ち着くんだ。

 冷静に次にすべき事を考えろ。


「なっ、貴様! この女がどうなっても──」


「言うこと聞いてもどうにかするんだろうが!」


「ぐはっ!」


 ああ、やってしまった。

 怒りに任せて制圧してしまった……。


 あれ?


 どうにかなったんじゃないかこれ。


「ご主人さまの腕が……」


「あっ、ああ。大丈夫だ。すまん。どうかしていた。両腕やられてしまったのは痛いな」


「それなら、ラビはまたご主人さまのお世話頑張るのです!」


 いや、日常生活の話じゃなくて、ここから脱出する時の話なんだけどね。

 でもこんな時でも相変わらずなラビのおかげで冷静になれたわ。


 早くおうちに帰ろう。


「しかし、困ったな。熱くなりすぎていきなり切り札切ってしまった。もう魔力がない」


「まだ誰かやっつけるのです?」


「出来れば避けたいんだ。どんな魔法があるのか分からないし、体力的にもしんどい」


 なにより、ラビを庇いきれない。


「こっそり抜け出せればいいんだけどなあ」


「こっそり? ならラビのお耳を使って欲しいのです!」


「お耳を使う? きゅっとな?」


「あ、ひゃん……! ち、違うのです! 掴んだらダメなのです! ラビは耳が良いから聞こえるのです!」


「あっ。誰がどこに何れぐらいいるかわかるってこと?」


「そうなのです!」


 確かにそれだけ分かればどうにかなりそうだ。

 ここは一つラビのお耳を貸して貰おうか。


「んー。扉の外にはいないのです」


「どれ、少し扉を開いて覗いておくれ……。うん。いない。廊下に部屋が幾つかあるけどどの部屋に人がいるか分かるかい?」


「んー。あっちの側の部屋には二人、二人、二人、一人、五人いるのです」


「左側は行き止まりになってるからいいや。多分他にも捕まっている人がいるんだろう。右側は?」


「あの部屋に二人いるだけなのです」


 大したもんだ。

 俺には全く聞こえない。

 これだけ分かるなら脱出は簡単そうだな。


「右に行くよ? 誰か近づいてきたら小声で教えておくれ。ここからは静かにいこう」


「分かったのです!」


 あんまり分かってなさそうだけど大丈夫だろうか。


 しかし、変わった作りだよなあ。

 牢屋なら個室に牢屋を作るんじゃなくて、向かい合わせに牢屋を並べれば良さそうなもんだけど。

 共謀して脱出させない為か?


「ご主人さま。奥の階段から一人降りて来るのです……!」


「ありがとう。そこの部屋に隠れてやりすごそう」


 ラビに扉を開いてもらい部屋のなかに身を隠した。


 カツッ、カツッ、カツッ……。


 ふむ。

 本当に一人向かってきたな。

 ラビさまさまだ。


 何かドキドキしてきた。

 かくれんぼはあんまり得意じゃなかったなあ。

 絶対に見付からないところに隠れるのは何だか卑怯な感じがして嫌だった。


 カツッ、カツッ、カツッ……。


 はよ行けー。

 早く通りすぎろー。


 あれ?


 通りすぎるの待ってていいのか?

 何か身分高そうな人ぼこぼこにしたのがバレたら……。

 ダメじゃん!

 ひっつかまえてぼこぼこにしないと。


 カツッ、カツッ、カツッ。


 よし、誘い込もう。


「ラビ、扉を見付からないように開いてくれ……」


「見付かってしまうのです。それでも開くのです……?」


「隠れて誘い込んで大人しくさせる……」


 ギィィィィ……。


「む? 何だ……? 誰もいない。一体何で扉が開いたんだ……?」


 踵を返して背を向けたな。

 よし、今だ!


「おいっ!」


「なっ!? 何だ? げふっ」


 ズリズリズリ……。


「ふぅ……。これでよしと」


「ご主人さまえげつないのです!」


「そうな。でもえげつないなんてどこで覚えたんだい?」


「ツバーシャちゃんが教えてくれたのです」


 ツバーシャ……。

 いったいどんな会話をラビとしているんだい。

 俺以外とも仲良く話せる様になったのは嬉しいけどさ。

 とても気になるところだけど今はそれどころじゃないな、。

 先を急ごう。


 流石にそうそう地下牢に何てやってくる奴はいないようで、そのまま階段にまでたどり着いた。


「ラビ、人の気配はあるかい?」


「階段近くには誰もいないのです」


「じゃあ行こう。反対側にいた人たちのなかに見張りがいたかも知れないからね。見付かったら挟み撃ちにされてしまう」


 ラビの手を引いて進みたかったんだが叶わんな。

 やっぱり、熱くなってはいかん。


 でも、似たような状況に陥ったらやっぱり熱くなってしまうと思う。

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