四十四話 ぷちぷちとろーり
城なしが動かなくなった。
ラビと四つ葉のクローバー探した。
後なんか食虫植物の魔物に食われかけた。
ラビがしあわせになったので、適当に石を集めて城なしへと向かった。
その途中。
城なしの真下にある街をよく観察してみた。
「やっぱりこの国はそれなりに栄えているな。この高さを飛んでいても建物が見えると言うのはけっこうなものだね」
「はー。こんなにたくさんすごい建物をつくれる何て信じられないのです」
「そうだなあ。俺にも出来ないわ。ラビはもっと近くで見たいかい?」
「ここから眺めるだけで十分なのです! 人がたくさんいるところはお耳がうるさくなるから嫌なのです」
ああ、耳が良いからか。
人混みは持病の発作を起こすから「街に行ってみたいのです!」と、言われたら覚悟を決めなくてはいけないところだったぜ。
「あっ、ご主人さま。何か飛んでるのです」
「うん? 鳥かな……。にしては不自然だな。整列して動きに統率があるような感じだな」
「じーっと、よく見ても小さ過ぎて見えないのです」
ありんこみたいだもんな。
【風見鶏】でもこの高さだと難しい。
でも魔物が街を襲っている訳ではなさそうだ。
あっ。
街がもし魔物に襲われているのを見付けたらどうしよう。
助けちゃったりしたりする?
そんで魔物やっつけたら、チヤホヤされたりするんだろうか?
「ご主人さま何を考えているのです?」
「んー。ラビはさ。あの街が魔物に襲われていたらどうする?」
「ご主人さまなら、魔物がひゃくおくまんびきいても楽勝なのです!」
ラビは真っ先に俺だのみか!
しかも、多すぎるだろう。
俺は真っ先に逃げを選択するわ。
ひゃくおくまんびきも魔物がいたら酸素薄そうだし、ほっとけば自滅するんじゃあないか?
まあ、そうだなあ。
継続した戦闘能力が無いから相手の数次第だし、そもそも、あの街にも軍隊がいるだろう。
軍隊がどうにもならんなら俺にもどうにもならんな。
でも、こう言う妄想は好きだ。
俺もツバーシャの事を言えないな。
さて、そんな阿呆な事を考えていると城なしに帰りついた。
そろそろ、良い時間だな。
夕飯にしようか。
毎日芋と鍋ばかりでは芸がない。
バナナはもう食べ尽くしてしまったしな。
「めんどくさくて、先のばしにしていた鮭のタマゴを加工してイクラにしようかな。ほっといたら、生まれてしまう」
「たくさん増えた方が嬉しいのです」
「わぁも、鮭がたくさん食べられた方がうれしいのじゃ」
「どうでもいいわ……」
おおう。
不人気だしやめちゃおうかな。
面倒だしそれでもいいや。
「イクラ美味しいけど、米が無いしなあ。イクラだけモシャモシャ食うのは辛い。イクラ美味しいんだけどなあ。イクラ美味しいんだけどなあ。イクラ美味しいんだけどなあ……」
「そ、そんなに美味しいのです?」
「見た目は美しく、食感はぷちぷちとろーり。味も濃厚かな」
ゴクリッ。
おや、ラビが食べたそうだ。
単純で可愛いな。
まあ、言ってて俺も食べたくなってきたし、作ろうかな。
「メスの鮭はまだまだ大量にいるし、一匹ぐらい食べても大丈夫さ。タマゴも一匹から大量に取れるし」
「それもそうかのう。ならば、わぁは鮭を持ってくるのじゃ」
「ラビはかまどの準備をするのです!」
乗り気になってくれたか。
しかし、随分とお手伝いもこなれてきたな。
いや、もうお手伝い何て言い方は失礼なのかな?
もう二人とも自分達で生活を支えているんだ。
これも自立と言うもんなのかなあ。
「私は何をすればいいのかしら……?」
「おっ、ツバーシャも何かしたいのか?」
「別に……。やっぱりいいわ」
いかん失敗した。
問いかける感じじゃなくて自然に役割を振ってあげるべきだったか。
ここは引くべきだ。
引きこもりは、ここで押すのをもっとも嫌うはずだ。
何故なら俺自身にもそんな時期があったから。
何かしようという気になるまで放って置いてやるに限る。
「鮭を持って来たのじゃ。わぁがさばいた方が良いかのう?」
「ああ、頼む。イクラだけじゃ辛いから、メインは鍋にしよう。そのつもりで捌いておくれ」
「かまどの用意が出来たのです!」
「お湯を沸かすのは大変だろうから、俺がやる。ラビは囲炉裏の方にも炭を入れて置いてくれ」
あまり熱くしすぎると失敗するんだよな。
生前沸騰させたお湯で作って真っ白になってしまった。
それでも塩分が足りないと白くなったりもするけど。
しかし、温度が低いと寄生虫が心配だ。
んー……。
こんなもんかな?
そろそろ始めますか。
「このタマゴをそこに入れればよいのかのう?」
「うん。いや、塩がいるんだった……。よし、塩を入れたしタマゴを入れていいぞ」
イクラは高いんだよなあ。
ひと手間掛かってるから、仕方がないと言えば仕方がないんだが。
そんな訳で生前はイクラではなく、加工前のタマゴ、つまり、筋子を買って来てイクラにして食ってた。
何でか筋子はやたら安かったし。
「このまま放っておけば完成かのう?」
「いや、箸でグリグリしてほぐすんだ」
「ラビがやるのです!」
「じゃあ、任せる。丁寧にやるんだよ?」
赤黒かったタマゴがオレンジ色になって美味しそうだ。
でも、オレンジ通り越して白くなってきたがこれでよい。
冷ませば綺麗になる。
根気のいる作業だけど頑張っておくれ。
「ほ、ほぐし尽くしたのです」
「量が量だから、ちょっと大変だったね。後は布でお湯だけ捨てて熱を飛ばせば完成だ。あっ皮は取り除いてね」
冷ましている間に鍋の方にも取り掛かる。
そして、鍋が完成する頃には熱も飛んで食べられる様になったので、囲炉裏を囲んで頂くことにした。
「んー。ぷちぷちして堪らないのです!」
「悪くないわ……」
「うむ。しかさ、確かにこれだけだと辛いのう。米が欲しいのじゃ」
ああ。
懐かしい味だ。
あまりイクラは食えなかったからなあ。
最後に食べたのは何時だったか。
それにしてもシノの言う通りやはり米が欲しい。
米も順調に育ってはいる。
大分伸びてきたから水を張ったし米が食べられる日も遠くない。
しかし悲しいかな、米が食べられる頃には、鮭のタマゴがとれなくなる。
残念だがイクラとごはんを一緒に食べられる日はまだ遠い。
いつかは手巻き寿司とかやりたいな。
ちょーっと難易度高そうだけど。
みんなでやったら楽しいだろうなあ──。
 




