四十一話 ハードライディング
お芋掘った。
お芋食べた。
おいしかった。
翼と折れた腕が折れてから大分たった。
もう添え木をはずしても良さそうだ。
「んー。うん。もう、動かしても大丈夫。これで地上に降りられるな」
「治ったばかりで、空を飛んでも大丈夫なのかのう? 無理は良くないのじゃ」
「それはそうかも知れないが早く地上に降りたい。城なしに石を持ってきてやりたいし」
城なしはお城欲しがってる。
お城を作るには石が必要だ。
ひと月も石を拾ってきていないからしょんぼりしているかも知れない。
城なしには感情がある。
水源を荒らしたツバーシャの住む穴に蓋をして、ちょっぴり復讐してたし。
そんなもんだから、早いところ持ってきてあげたい。
「じゃがのう……」
「うーん。納得はしてもらえないか」
まあ、シノに心配掛けるべきじゃあないよな。
ん?
ツバーシャが握る手がギュッとなったぞ?
「どうしても、空を飛びたいの……?」
「そりゃあ、空が好きだからな。それに俺から空をとったら、なんも残らんし」
「そう。私も好きよ。久しぶりに飛びたい。だから、空を飛んであげても良いわよ……?」
「おお、それは助かる!」
「フン……。今日はたまたま気分が乗っただけよ」
「はー。ラビはツバーシャちゃんの背中に乗ってみたかったのです!」
あれ?
これ俺の立場が危うくないか?
ツバーシャいれば俺いらないんじゃ!?
ぐぬぬ。
ちょっといいとこ見せねば。
いや……。
さっきツバーシャが手に力を込めたのはきっと勇気を振り絞ったんだろう。
ここはツバーシャの気持ちを救ってあげようじゃあないか。
「ルガアアアアアア!」
「お、お耳が痛いし体にビリビリ響くのです」
「姿を変えるときは離れていた方が良さそうなのじゃ」
「ほらほら。せっかく乗せてくれると言ってくれたんだし、ありがたく乗せてもらおう」
二人がツバーシャから落ちそうになったら、フォローする為、俺がラビの後ろで一番後ろになる。
飛竜になったツバーシャは迫力があるな。
とても引きこもりにはみえないんだけどなあ。
いっそ、ずっとこっちの姿の方が良いんじゃあないだろうか。
でもないか。
震えてるわ。
「落ちないようにしっかり掴まるんだぞ」
「わぁにぬかりはないのじゃ」
「ラビは不安なので鎖を握っていて欲しいのです」
みんなツバーシャに乗ってしっかり掴まると、空の上へと飛び立った。
「うおおお! 早いし力強いな!」
「ご主人さまより速いのです!」
「地上は海では無いみたいじゃのう」
ふむ。
白い大地は抜けたのか。
緑が広がってる。
しかし、この高さでも人の住む街も見えるな。
「ツバーシャ! 人の居なそうなところに降りてくれ! 面倒は避けたい!」
「ルガアアアアアア!」
飛竜であるツバーシャが人前に現れたらパニックになりそうだ。
人類と飛竜が仲良くやってる何て事は以前のツバーシャをみる限りないわな。
「ん? 森の中に降りるのか。確かに見られていても簡単にはたどり着けないからそれも良いかもしれないな」
「主さま。着地するのにこんなに勢いついていて大丈夫なものなのかのう?」
「言われてみれば少し、いや、大分速度がありすぎる気がする──」
何か忘れてないか?
ツバーシャが城なしを荒らしたとき地面はどうなっていた?
そう、まるで全く速度を落とさず、無理矢理着地したような後があったハズだ!
「いかん、ツバーシャは優しく着地出来ないぞ! 振り落とされないようにきばるんだ!」
「なんじゃと!?」
「はわわわわ! 木に突っ込むのです!」
「しゃべると舌かむぞ!」
バキバキバキバキッ!
うおおおお!
木々をなぎ倒して無茶苦茶な減速の仕方をしてくれる。
自然破壊もはなはだしいな。
森に道が出来ていくわ。
「や、やっと止まったのです。頭がぐるぐるなのです」
「うむ。次からはもう少し丁寧に着地して欲しいのじゃ……」
「フン!」
「ちょっと森を壊しちゃったけど、木材や薪にはちょうど良い。持ってかえって有効利用しようか」
ツバーシャは繊細だからね。
ポジティブに行こう。
実際斧とかないから大分手間が省けた。
「ふぅ……。体がぼろぼろだから少しやすむわ……」
「人の姿に戻ったのか。地上ではその方が良いな。って、袋被って穴に潜るんかい」
「帰るときになったら、声を掛けて」
いつの間に穴を掘ったんだ。
簡易シェルターを作って移動式の引きこもり。
新しいな!
そっとしておいて作業に取りかかろう。
「ふんぬぬぬ! いかん重すぎる。と言うか、ウエストポーチや風呂敷に入らんな」
「入るものを持って帰れば良いかのう。薪が殆ど無くなっていたから、すぐ使えそうなのが良いのじゃ」
「実がなる木もあるのです!」
おやっ?
そりゃあ、森だ木だといっても色々あるか。
しかし、何だろこの木の実。
梅の実より大きくて、緑色。
でもって、たっぶり実がついている。
「何だっけなあ。知ってる気がするんだが……」
「ふっふっふっ。ご主人さまラビはこの実が食べられるのを知っているのです!」
「おお! 分かるのかラビ」
「これはクルミなのです!」
あー。
そうだ。
クルミだわ。
食べるときは種の姿になっているから気が付かなかった。
となれば、食いかたは分かる。
いっぱい拾っていこう。
ついでに、折れた木を持ってかえって城なしに植えてしまおうか。
「良い収穫だったな。城なしがより豊かになる」
「ご主人さま。タマゴを見つけたのです!」
「おお! またママになれるな! 今日のラビは大活躍だ」
今度は何のタマゴだろうか。
タマゴが孵ってからのお楽しみだな。
「増やして、鶏肉食べ放題にするのじゃ」
「た、食べちゃダメなのです!」
「自分で育てると食えなくなるんだよなあ」
異世界で生きる。
いや、同じか。
生きるのに甘いことを言っている自覚はあるけど、甘くたって良いじゃないか。
必ずしも必要な事じゃあないし、いざとなったら、覚悟を決めれば良いさ。
「うーん。石も持って帰りたいんだけど、持てなかったな。往復はツバーシャに負担が掛かるし、森も削れてしまう」
「私が足で掴んで持っていくわ……」
「いや、大量にいるから、少し持っていったところで、焼け石に水なんだ」
「ふん、バカにしないで……」
そうは言ってもなあ。
空を飛ぶのに重いものを持っていくのはまさに重石になるからなあ。
「ルガアアアアアア!」
何て考えたりしたんだけど、飛竜ナメてた。
ツバーシャのからだの二倍もありそうな大岩を掴んでみせるんだもん。
どうなってるのかね、君の握力は。
いや、脚力か?
「フン!」
しかも、誇らしげだ。
やっぱりツバーシャは自信満々の方が似合うし、気持ちが良いな。
早く元気になっておくれ。
って、あああ!
高所から城なしにその岩落としちゃダメだよ!?
それもはや爆撃だから!




