四十話 お芋掘り
俺が城なしで暮らすようになってから三ヶ月位がたっただろうか。
今日はさつま芋の試しぼりをしてみた。
「お芋がいっぱい出来ているのです!」
「やや小ぶりじゃな」
「大きくなるまで待つ必要はないさ。さつま芋の壺畑は、今や城なしの外周にずらりと並んでいるからね」
毎日少しずつ壺を増やしたもんだから、いつの間にかここまでになってしまった。
だが、その甲斐あって壺畑は絶景になったな。
いつか、頭に描いて夢見た光景の上を行ってるぜ。
絶対に叶わぬ夢って言うのは叶うと気持ちの良いものだな。
「しかし、やり過ぎたな! 生産止めても一年で食いきれる気がしない」
「そんな事は無いのです。これで苦しい思いをしなくて済むのです」
「主さま。余裕があるのは幸せな事なのじゃ……」
それもそうだな。
戦乱を生きたシノの言葉は重い。
食べ物がなければ魔物を食べれば良いじゃないと言うわけにはいかんよな。
毎日がいのちがけでそっちのがヤバイわ。
でも、さつま芋年間トン単位でとれるぜこれ。
「たくさん食べていいなら、私が食べるわ」
「何だ。ツバーシャは遠慮して食べていたのかい?」
「生きていくのには十二分に食べているわ。体に蓄えておけばいざと言うとき便利なのよ」
ツバーシャは最近大分回復してちょくちょく飯や風呂どき以外でも外に出るようになった。
袋被って手を繋がないと不安で震えてしまうが、それでも良くなっている。
しかし、蓄えるってお腹に蓄えるのかな?
確かにみんなもっと丸くなった方が健康的な気がするし、何とかして太らせようか。
「良いのかのう? 芋をたくさん食べると──」
「なっ、何よ……?」
「こら、シノっ」
芋くえば出るものでる。
それは、ツバーシャにとってトラウマを呼び起こすモノだろう。
相変わらずあまり仲はよろしくないなあ。
そこまで悪意があるようには思えないし、今だって俺が止めるのを見越していたハズ──。
ん?
何でそんな事を?
からかう振りして俺に庇わせ、ツバーシャの俺に対する評価を上げているのか?
忍者だし、主さまを影で立てるとかやりそうだな。
シノとツバーシャが仲良くするところの方が見たいしありがたいんだけどなあ。
まあいい。
さつま芋を収穫しようじゃあないか。
ふふっ、収穫はやはり気分がいい。
お芋を掘るのは君たちにやってもらおうかな。
「よしほら、一人一壺ずつ掘るぞー。葉っぱは地上に落とさないでね。何かに使えそうだから、とっておこう」
「ラビはこの壺にするのです!」
「わぁはこれにするのじゃ」
「私はこれね」
いいなあ。
これだよこれ。
子供たちに作ったお芋掘って楽しんでもらう。
これをやってみたかった。
かつて、前世で芋を育てた時はそんな勇気無かったわ。
と言うか勇気振り絞ったら逮捕されるだろう。
近所の子達にそーら掘ってみそ何て出来る訳がない。
「ラビのは丸っこいのです!」
「わぁのは痩せとるが、数が多いのじゃ」
「大きいけど数が少ないわ……」
芋ってのは中々形が揃わんもんだ。
それでも日本じゃ形を合わせなくちゃいけないから、小ぶりな内に収穫するんだっけかなあ。
まあ、それでもこのさつま芋は形が揃わんかったが、その方が楽しかろう。
「また、焼き芋するのです?」
「今回は蒸かしてみようかな。そっちのが楽だし」
「面倒なら火を吹くわよ……?」
「消し炭になるのじゃ」
「フン……」
うん。
消し炭になるな。
壺で蒸かそう。
「壺のなかに壺を入れるのです?」
「うん。そんで中の壺に網を張って芋のせて、水をいれれば蒸かせる。と、思う。一応中に入れる壺には穴を開けよう」
「はー。何だかとても難しそうなのです」
蒸すってそんなに高度な技術だっけ?
大昔からやってそうなイメージだが……。
いや、ラビが特別野性的な環境で育ったからか。
「準備出来たのじゃ。しかし、壺に壺を入れて蒸すとは……」
「やや強引な気はするけど、目的が果たせりゃそれで良いじゃないか」
「後は火を吹けば良いのね……」
「やめて、水蒸気爆発してまう!」
火をつけたら後は待つだけだ。
しかし、何れだけ火にかけてりゃいいんだろう。
蓋とると熱が逃げてしまいそうだし難しい。
時計もないから時間測れないし。
にしても、待っている間がヒマだな。
でも、目を離したら焦げそうだし。
あっ、この壺の重ね蒸しを応用すれば蒸留水が作れるんじゃないか?
中の壺に水を入れて……。
無理か。
いや、そもそも蓋をずらして水滴集めればいいのか。
蒸留水作ったところで使い道が思い付かんが──。
「良いにおいがしてきたのです」
「もう良いんじゃ無いかのう?」
「うーん。どうだろう。開けてみようか……。熱っつい!」
「私がやるわ。熱には強いもの……」
いや、俺も熱には強そうなんだが、熱いものは熱いんだよ。
ツバーシャも実はそうなんじゃないの?
いや、平然と握ってるわ。
「出来たのです?」
「箸が通ったからもう良さそうじゃな」
「こんなんでも、蒸せるもんだな。塩ふって食べよう」
うん。
中は黄色で綺麗に出来てる。
旨そうだ。
「はひひもほひひへのふ!」
「おう。飲み込んでからしゃべろうな! 何かが復活するぞそれ」
「まあまあね。悪くないわ……」
「そうじゃの、じゃがまあまあと言いつつもう半分も食っておるではないか」
「フン……」
うんうん。
いっぱい食え。
足りなきゃ壺から引っこ抜いてくればいい。
やはり、食べ物育てるってのはこの瞬間こそ最高だ。
早く他のも育たないかな。




