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三十七話 尻で息するワイバーン

衝撃的なお話です。

お食事中の方は食べ終えてからお読みください。

 平穏な朝が殺し合いに変わった。

 遊びたいのだとおもったら本気だった。

 ツバーシャはその正体を現した。



 まさか、ツバーシャがあの時のワイバーンだったとは。

 鮭を丸かじりしたのも、へっぴり腰だったのもそれなら納得がいく。

 こうして、殺し合いを求めてきたのも決着を着けたかったから何だろうな。


 さて、しかし、困ったぞ。

 向こうは一晩で全快したみたいだが、こっちはまったく治ってないんだが。


「ルガアアアアアアア!」


「火を吹くのか!? ん? 飛ぶのか……」


 決着は空の上で着けるとでも言いたげだ。

 空の支配者と言うぐらいだからそれだけに本気って事なんだろうな。

 しかし、困ったな。

 俺は空を飛べるかすら怪しいんだが。


「主さま。どうするのかのう? その翼では……」


「それなんだよ。でも、一応俺の翼ならしっかり固定すれば飛べるはずだから、ガッチリ固定しておくれ」


「さつま芋の仇をとって欲しいのです!」


 いや、さつま芋を吹き飛ばされたのは悲しいかもしれないが、殺し合うとかいってるツバーシャ相手にそんな理由でいいんかい?


「主さまは、本気で戦うつもりがなさそうで心配なのじゃ」


「戦う理由も殺し合いをする理由もないからなあ」


「では、主さまは、ここをツバーシャに譲り渡すのかのう? そうなると最悪、ここは地に落ちるのじゃ」


 それは困る。

 だが、俺にはツバーシャを傷つけるなんて出来ない……。

 いや待てよ?

 あれだけ好戦的であるなら痛いのが好きなのかもしれない。

 そう言うのが嬉しい人もいるそうじゃないか。

 なら、びしばしやってしまって構わんか。


「大丈夫だ。ちゃんと痛い目にあわせてやろうって気分にはなれた」


「いや、主さま……」


「心配するな。何とかしようって気持ちがあれば大抵何とかなるもんだ」



 そして、俺は服を脱ぎ捨てパンツを水に濡らして空の上へと飛び立った。


 ぬう。

 飛べはしたものの……。

 固定翼で飛ぶなら道具でいいじゃんって話になるから、こう言う飛び方はしたくなかったんだけどな。

 高くつくぜ?

 ツバーシャ!


「ルガアアアアアアア!」


「お元気そうですね! あっつい!」


 格好つけては見たものの、火を吹くから近寄りがたい。

 しかし、そんな事より、その飛び方に文句を着けたくて堪らない。

 何故その巨体で空中で静止するように飛ぶことが出きるのかと。

 いや、巨体で空を飛べること自体が許せない話ではあるんだが。


 まあ、避けてばかりじゃあ、始まらないな。

 多少火傷することを覚悟して懐に潜り込まんと。

 よし、次に火を吹いてきたら突っ込むぞ。


「ルガアアアアアアア!」


「くふっ」


 息したら肺が焼けて死ぬわこんなん。

 肌が痛いほど熱いわ!

 くそう。

 俺の綺麗な翼が絶対汚い感じに煤こけてるよ。

 でも、炎の中から元気に出てくるのは予想外だっただろう。

 面食らってるな。

 長期戦とかしんどいから一撃で決めさせてもらう!


「すまんな。ちょっと痛い目見てくれよ? 【放──】」


 いや、ちょっと痛いで済むんだろうか?

 殺してしまうんじゃあないだろうか。

 そんな事は俺には出来ない。

 かといって加減したらまったく効果が無さそうだし。

 俺はどうしたらいいんだ?


「って、ぶつかる!」


 悠長な事をし過ぎた!

 避けられない!

 このままじゃ頭から突っ込──。


 ゴッ!


 ……。

 ィーン……。

 ……。


「ご主人さま!」


 うおっ、意識飛んでた。

 頭がとてつもなくいたい。

 うわあ、危うく地面に頭から落ちるところだったわ。

 ギリギリ何とかなったが、折れた翼によくひびく。

 でも、良かった。

 流石に頭から落ちて大丈夫か試す気にならんわ。

 頭から城なしに突き刺さるとか間抜けな姿になるだけで済むのかも知れないが。


 戦っている最中にためらうモノじゃあないわな。

 しかし、デコから衝突するついでに鼻もぶつけたみたいだ。

 あらら、鼻血も出てるじゃないか。

 止まんないんだけど。


「って、そうだ。ツバーシャはどこに!?」


「主さま! もう、決着は着いたのじゃ!」


「えっ?」


 どういう事だ?

 うわっ。

 頭から城なしに突き刺さってる。

 ツバーシャも気を失って、更には墜落までしたのか。

 これは酷い。

 なにより窒息してしまう。

 早く、着地して引っこ抜いてやらんと。



「くそっ! 抜けない!」


 重すぎるわ。

 体が丈夫で翼振るう力は強くても、腕の筋力まである訳じゃあ無いんだよ。

 このままじゃ不味い。

 一体どうすりゃいいんだ!


「ご主人さま! この子息してるのです!」


「頭から城なしに突っ込んだのに、息なんて出来るわけ……」


「いや、主さま! 落ち着いて良く見て耳を澄ますのじゃ」


 いや、それどころじゃないだろう。

 このままじゃ、本当に死んでしまう。

 早く何とかしないと──。


 おや?


 ぷすぅー。すぅー。ぷすぅー……。


「バカな! 尻で息をしているだと!?」


 いやしかし、生物はこと切れると尻が緩くなるときく。

 もう、手遅れなのでは無いだろうか。

 あっ、でも煙出てきた。


 ツバーシャが撤退した時、あるいは人の姿に変わった時のように煙があがった。


 どうやら、健在のようだ。


「大丈夫かツバーシャ?」


「何で頭突き何かで墜落しなきゃならないのよ……」


「憎まれ口を叩けるなら大丈夫そうだな」


 しかし、ほっとした。

 やっぱり、俺には女の子に酷いことは出来ないわ。

 魔法ぶちかまさないで本当に良かったわ。


「しかし、飛竜とは変わった呼吸の仕方をするのう。尻で息するとは思わなかったのじゃ」


「こらシノ。人の身体的特徴を悪く言うものじゃあない」


「でも、ぐざいのです」


「ラビもそんな事を言うものじゃあないぞ。尻で息する以上それは仕方のないことだ」


 そんなん言われたのが俺だったら泣いてしまうわ。

 無かった事にしてあげるのが優しさだ。


「うっ。何なのよもう……。誰にも負けたこと無かったのに! 私は空の支配者なのに! こんなのってあんまりよ!」


 あらら。

 泣かせてしまった。

 女の子の泣いた顔何て見たくはない。

 どうにかしてフォローしないと。


「泣かないでおくれ。ツバーシャはかっこいいし、強いし、空の支配者十分だったよ。見てくれよ俺の体。なんかもうとてつもなくぼろぼろで薄汚いだろう? それにツバーシャはまだまだやれるだろう? これ以上は俺ももたないし、ツバーシャの勝ちだって」


「そ、そうかしら?」


 おっ?

 ちょっと元気だしてくれたぞ!

 頑張って頭ひね繰り返したかいがあったぜ。


「でも、尻で息をするのじゃ」


 ちょっと、シノ……。

 いぢめないであげておくれよ。


「もうやだもうやだもうやだもうやだ……」


 ああ、いかん。

 ガチで心おれたときになるやつだこれ。

 俺もある日気がついたらトイレでこうなってたことあったから分かる。

 ちょっとあんまりな決着過ぎた気はしないでもないが、いや、十分か。

 プライド高そうだし──。



 それから、ツバーシャは、城なしに刺さった時に出来た穴に引きこもってしまった。


 何とかしてあげたいのだけれど……。

 はてさてどうしたものか。

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