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三十五話 フン!

 ラビにナデナデして貰った。

 ツバーシャが縁の下で鋭気を養ってる。

 だから晩ごはんに誘ってみた。



 さて、それじゃあ、晩ごはんを作るとしようかね。

 とは言え朝と殆ど入れるモノは一緒だ。

 しかも、今度は見守るだけでいい。


「シイタケをもっと可愛くするのです」


「いや、ラビは可愛いと食べるのためらうよね」


「ラビはご主人さまの考えたシイタケの切り込みの入った方を食べるのです」


 なるほど。

 自分で食べる訳じゃあないから大丈夫なのね。

 しかし、お手々に切り込み入れないか不安で仕方がない。

 他人の包丁捌き……。いやまあ、包丁なんてないから、ナイフなんだけど、これを見ると不安でしょうがないな。

 ラビだから何だろうか。


「主さま。鮭を捌き終わったのじゃ」


「綺麗だな……」


「わ、わぁの容姿を褒めても何も出ないのじゃ」


 いや、捌かれた鮭の方だよ。

 なんの脈絡もなく女児を口説き始めるとか、そんな危ない人じゃあないわ。

 何てツッコミを入れたいところだが、捌かれた鮭の美しさに自信を砕かれてそんな気も起きないわ。


「シノは料理したことあったのか?」


「無いのう。いつも定時になるとご飯出てきたのじゃ」


「そ、そうかい」


 うーん。

 俺には器用さが足りない。

 美しく切り揃えるなんて出来ないし、少しぐらい見た目崩れたって構わんわと言うスタンスなんだが、料理したことないシノに差を見せつけられると悔しいわなあ。



「悪くないわね」


 どうやら、鍋はお口にあったようだ。

 生の鮭をかぶりといってしまうワイルドな空の支配者様に気に入ってもらえるかは心配だった。

 実際、俺の口に合わせているから味は濃いと思うんだが。


「そうか。でもシイタケもちゃんと食べるんだぞ」


「わ、分かってるわよ」


「箸でつついてもシイタケは、いなくならないのです」


 ツバーシャも箸で食べている。

 一人だけ違うのは彼女でも気になるらしい。

 よそさまと言うことでシノも箸の使い方には口を出さない。

 もっとも、床にはいつくばって椀の中身を掻き込んでいるレベルなので、箸使いどころのはなしではないが、座れないのだから仕方がないわな。


「しかし、主さま。少しこの客人を信用しすぎではないかのう?」


「へっぴり腰で何かされるとは思えないし、それについては俺たちの方がよっぽとだしなあ」


「ラビたちに何か問題があるのです?」


 そう。

 可愛く首かしげてる君の首輪が問題なのだよ。

 かといって今更外したところで信用回復するとは思えんから、そのままでいい。


「フン!」


「可愛くないのじゃ」


「まあまあ、仲良くやっておくれよ。狭いところなんだしさあ」


 ラビはご主人さま独占率以外には思うところは無いみたいだが、シノは納得出来ないみたいだ。

 目的もどうやってここへ来たのかをツバーシャは語ってくれないからそれも仕方のない話しなんだが。


「ご馳走さま。夕食を出して貰ったことには感謝するけれど、勘違いしないで。馴れ合いをする気は無いわ」


「なっ、なっ、なんじゃと!?」


「ああ、それでいいよ。夜はここもそれなりに冷えるから気を付けてな」


「フン」


 それだけ言うと、ツバーシャは部屋を出ていった。


 やっぱいいな!

 本当にあんな子ウチに欲しいわ。

 どうにかしてここに住んで貰えないだろうか。


「主さま……」


「うん。シノには思うところがあるんだろう? 全部吐き出して良いよ」


「なぜそこまで信用できるのかのう? 怪しいにも程があるのじゃ」


「うーん。女の子だからかな。それにとても可愛いじゃないか」


「そ、そんな理由で……」


 ああいかん。

 つい正直に答えてしまった。

 言葉を間違えた気がする。

 シノの中で俺の株券が投げ売りされている気がしてならない。


「大丈夫だって。ラビの首輪を見て俺がろくでもない男だと思われているけれど、そういう事に対して否定的になるって事は少なくとも悪い子じゃあ無いだろうから」


「ああ。ちゃんと考えているのならいいかのう。確かにそう言われてみればその通りなのじゃ」


「ラビの首輪がなあ」


「ふんっ」


「えっ、ちょっと、ラビ?」


「ふんっ、ふんっ」


 おおっと?

 ラビがツバーシャみたいにフンフンし始めたぞ?

 ラビの何か気にさわることを言ってしまったんだろうか。


「どうしてラビはヘソを曲げてしまったんだ?」


「えっ? えっ? ちが、違うのです! ご主人さまがあの子を可愛いって言うから……」


「ラビは健気じゃのう」


 あー。

 何だそう言うことか。

 可愛いけど、そう言うことじゃあない。

 まあいいか。


「よしよし、ラビは可愛いな」


「だ、ダメなのです。ナデナデはラビが……。むふぅ……」


「平和じゃな。一人であれこれ考えていたのがバカらしくなるのじゃ」


「ああ、悪い。悪かったって。ふて腐れないでくれよ」


「ふんっ」


「えっ? シノもフンフンするの?」


「ふんっ」


「ふんっふんっ」


 あらら。

 二人ともフンフンしはじめちゃったよ。

 気に入ったのかな?

 と言うか、これはあれか?

 俺もやらないといけない流れだろ。


「ふんっ!」


「「ぶふぅっ!」」


 どうやら、ウケて頂けたようで。

 しっかし、こんなところツバーシャに見られたらなに言われるか分かったもんじゃあないな。


「あんたたち何やってるのよ……」


「うおっ!? 畳のしたから這い出て来るなよ。びっくりするじゃないか」


「下にいるから全部聞こえるのよ。流石に姿を見えないことを良いことにバカにされ続けてたら文句の一つも言いたくなるわ」


 また縁の下にいたのか。

 そりゃあ、聞こえるわなあ。

 しっかし、畳の下はダイレクトに縁の下に繋がっているんだな。

 畳ってこれで腐らないのかな。

 って、石で出来てるんだったわ。


「すまんすまん。バカにしていた訳じゃあないんだ。可愛いって褒めていただろう?」


「バカにしている以外の何ものでもないわよ。フン。怪我が治ったら目にもの見せてやるんだから」


「おお、やはり本物は違うのう。どことなく品があるのじゃ」


「こらこら、シノ。あんまり、煽るんじゃあない。それよりもツバーシャ。やっぱり、そんなところに一人でいないで、一緒に寝ないか?」


 あっ、まずい。

 何か凄いこといった気がする。

 これは絶対に誤解されそうだ。


「いや、ちがっ、そう、せめて廊下にでも──」


「嫌よ。何もかも灰色で落ち着かないのよ」


「縁の下の方が落ち着くと?」


「フン!」


 ああ、縁の下に戻っていってしまった。

 とりつく島もないな。

 突然会話を切られてしまう。


 仲良くしたいところだけれども、なかなか難しそうだ。

 

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