三十二話 お世話するのです!
飛竜が現れた。
頑張ってやっつけた。
でも、利き腕と片翼が折れた。
あー。
死ぬかと思った。
折れた骨を真っ直ぐに戻すほうが飛竜と戦うより怖いわ。
「これで終わりなのじゃ」
「ああ。ありがとう。助かったよシノ」
「命がけで飛竜と戦った主さまの為ならお安いご用なのじゃ」
何だか英雄でも見るような視線がくすぐったい。
空飛んで体当りしただけなのに。
「ゆっくりしていたいところだけど、このままじゃ不味いな」
「また水源の水が無くなったからじゃな」
「うん。水源を確認してみよう」
何もしたくない気分だが仕方がない。
城なしが墜ちてしまう。
しかし、また後片付けが必要だな。
「壺も元に戻さないと……」
「それならラビがやっているぞ。ほれ」
「あっ、本当だ。でも壺が持ち上げられなくて途方にくれているみたいだ」
顔を真っ赤にしても持ち上がらんか。
大きいから持ちにくいってのもあるんだろうな。
「ラビ。大丈夫かい?」
「大丈夫じゃないけど、大丈夫なのです」
「なんじゃそりゃ」
大いなる矛盾で返されてしまった。
反抗期だろうか。
「俺がかたっぽもとうか」
「はい。いや、ダメなのです! ご主人さまには手伝ってもらいたくないのです」
やはり反抗期なのか?
いやいや、これはあれか。
俺を気づかってくれているのか。
なら、少し知恵を授けよう。
「シノ。手裏剣を一本貸しておくれ」
「ほい。なんに使うのじゃ?」
「こうやって壺の底に刺してクイってやると持ち上がるんだ」
テコの原理とか言う奴だな。
「後はシノに丸い木の棒を作ってもらって転がすんだ」
「任されたのじゃ」
「丸い棒なんてなんに使うのです?」
「壺のしたに敷いて転がすんだよ」
何かで見た。
石材運ぶのに使ってるの見たんだっけか。
「ほい。出来たのじゃ」
「じゃあ、やってみようか」
「手裏剣で持ち上げて丸い棒を壺のしたに敷く──。出来たのです!」
よしよし。
これでラビのかしこさアップだ。
非力だから使う場面も多いだろう。
「これなら楽チンなのです……。あっ!」
「あぁ。ラビがこけたのじゃ」
「いきおい余って壺は飛んでっちゃったかあ」
ラビが落っこちなくてよかった。
翼が折れているから助けられない。
「ごめんなさい」
「いやいいよ。でも、落ちたら危ないから気を付けてね」
ラビさえ無事ならいいさ。
念のため鎖を握っておこうか。
ペットみたいで気が引けるが……。
ん?
何か視線を感じるような──。
「どうしたのです?」
「いや、何でもないよ」
怖がらせてしまうかもしれないし、黙っておこう。
何とか壺の交換を終えるのを見届けると、水源の様子を見に向かった。
「やっぱり水が減ってるな」
「困ったのう。主さまが空を飛べないと水を汲んでこれないのじゃ」
「墜ちるのです?」
堕ちるなあ。
だが、こうなっては仕方がない。
魚には悪いが──。
「池の水を使おう」
「あれ? 何か池が深くなっている気がするのです」
「なんじゃと?」
おお。
これは城なしが対策したのかな。
池を深くすることで水を蓄えていたのか。
「これなら遠慮なく水を移せるな」
「風呂敷を使って水を移すから、これならわぁだけでも出きるのじゃ」
よし任せよう。
風呂敷を池の上に浮かべるだけでどんどん水が入っていく。
改めて客観的に見ると不思議な光景だな。
でもないか。
風呂の栓を抜いたらこんな感じに水減るし。
「そろそろお腹が空いたのです」
「そうじゃのう。しかし、主さまが怪我をしてしまったから、わぁとラビで何とかしないとならんのじゃ」
「いや、片手でも……」
「ダメなのじゃ」
「ダメなのです」
じゃあしょうがない。
手を出さずに二人に任せよう。
しかし、口は出す。
「シノは大量に串を作っておくれ」
「竹があれば簡単に作れるんじゃがのう。あっ! 竹ならあるのじゃ」
「そんなもんよく持ってたな」
あー。
これはあれか。
忍者が池のなかに潜むときに息する棒か。
「でもいいのか? しばらく竹は手に入らないよ?」
「わぁはこれ好きじゃないのじゃ」
まあ、猫だしな。
水に濡れるのは好かないか。
実際にこんなんで隠れたら出るときにばれそうだ。
「しっかし、七輪があるとありがたかったんだけどなあ。壺改造して七輪にするか」
「七輪ならあるのじゃ。後網も」
「えっ?」
「石じゃがな」
おっ。
城なしサービスか?
焼鳥しやすくなった。
「でもどこにあったんだ?」
「押し入れじゃな」
もっと分かりやすいところにおこうぜ城なし。
「でも、焼き鳥だから、串をこう渡す感じで焼きたいんだけどなあ」
「贅沢じゃのう。しかし、焼き鳥なら網で焼くよりそっちの方が良さそうじゃ」
「何かそこに棒か落ちていたのです」
ええっ!?
城なしはどうしてしまったのだ。
怪我をしたからちょっと優しくしてあげたい気分になったんだろうか。
有りがたく使わせてもらおう。
「ではラビ。不味い飯を作るコツを教えてあげよう」
「何故美味しく作るコツじゃ無いのです!?」
「作り方を守らない、横着する、味見しない。そして、間がさして手を加える。大体これのせい。だから、これをしなければうまくいくんだ」
「はー。それなら簡単なのです」
そうでもない。
なれてくるといつの間にか忘れてやらかす。
さて、皮、もも、つくね、軟骨あたりでいいかな。
「見ててあげるから頑張って切るんだよ。左手は手を切らないように軽くにぎって添えるだけね」
「頑張るのです──。うっ、あんまり綺麗にきれないのです」
「いいからいいから。俺も見た目よく作るのは苦手だから気にしない。シノが作った串にぷすぷす刺してお行き」
ここまで来たら後は、塩を振って七輪にのせて焼くだけだ。
「けぶひのでず。こほっ、こほっ」
「ああ、うちわがなかったな」
「扇子ならあるのじゃ」
あるんだ。
「でも、高価で大切な物だったりするんじゃないのか? 紙って貴重なモノだろ?」
「別に大したものではないぞ? そもそも、紙が高価なものなら障子なんて作らないのじゃ」
そう言えば窓がわりに使ってましたね。
「じゃあ、ぱたぱたしておくれ」
「任されたのじゃ」
量が量だから時間が掛かるな。
俺は二人を見ているだけでも飽きないが。
「出来たのです!」
「うむ。旨そうなのじゃ」
「でも、ブサイクなのです……」
ふふっ。
分かってないな。
このブサイクな感じか良いんだよ。
完成されし美しきフォルムより、一杯頑張った感溢れるこっちの方が味がある。
「美味しいよ」
「本当なのです?」
「もちろん」
ちゃんと焼き鳥の味がする。
魔物なのになあ。
「本当に美味しいのです! 料理なんてしたことないのに不思議な気分なのです」
「一生懸命作ったからじゃないか?」
「皆で作ったからなのじゃ」
確かに自分で自分のために作っても味気ないもんだよな。
俺一人ならずっとバナナだったかなあ。




