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二百九十九話 本当に病知らずの町なのです?

 女の子が死んでいた。

 生きていた。

 キレイにした。



「──町から追い出されたの」


 おっと、良く分からないことを言い出したぞ?


 女の子を追い出す?


 なぜ? 誰が? 何の利益を求めて?


 あり得ない。


 町から女の子を追い出すぐらいなら、女の子を追い出そうとした奴等を追い出した方がずっと良いじゃないか。


「まあそれはいいや、そういうことなら俺と一緒に来ないか? 華やかな暮らしは出来ないが、衣食住には困らないぞ」


「それはできないの。どうしても私が戻らないとダメなの……」


「町に戻る? 追い出されたのにか?」


「私が戻らないときっと大変な事に……。ごほっ」


「ああいや、無理にしゃべらなくて良い」


 これ以上はしゃべらせるのは酷だ。


 まあどんな事情があれ戻りたいと言うのならその意思を汲むべきだろう。


「わかった。町に送るよ」


「ありがとうございます! うっ、ごほっ」


「うん、だから安静にしてるんだぞ」


 ちょっと油断するとすぐにごほごほ咳き込む。


 やはり普通に連れていくのは無理そうだ。


 ツバーシャが俺をじっと見る。


「どうするのかしら……?」


「ウエストポーチに入れて運ぶ」


「そう……」


 大人は入らんが子供はギリギリ入る。


「と、言うわけでレーテ。この中に入ってくれ」


「え? あの、この中にですか? とても中には入れるようには……」


「ん? ああ、これはマジックアイテムだ。見た目ウエストポーチだが子パンダなんかも……。ほらっ」


「こ、こんな子が中に入ってたなんて」


 子パンダは落ち着いた様子で辺りをうかがう。


 子供なのにやたら達観してるんだよなこの子パンダ。


 はて、最後に出したのはいつだろう。


 地面にそっと置いてやる。


 するとまたいつものように自分でウエストポーチに向かい、いつものように尻をひっかけウエストポーチの中へもどる。


「な?」


「あの、な? って言われても」


「町へ戻りたいんだろう?」


「はい……」




 レーテをウエストポーチに入れると俺たちはまっすぐ森を抜けた。


 森を抜けた先はやはり丘の連なるのどかな光景が広がっていた。


「ツバサ、町よ……」


「おっ、あれがそうか」


 遠目に民家とおぼしき三角の赤い屋根屋根が一つ。


 歩いている内に二つ三つと見えてくる。


 村の建物もそうだったが、屋根の赤は年期を感じる色あせ具合なのに対して白い壁は真っ白だ。


 恐らく良い漆喰を使ってるのだと思われる。


 意外にも屋根と壁の色合いは悪くない。


「町を城なしに作るならこういう建物がいいな」


「灰色ばかりだものね……」


「そうな。今度マイホームに色でもぬるか」


 まあともかくまだ明るい内に町に着けたようだ。


「一応あっているのか聞いてみるか。よっと……」


 ウエストポーチに手を入れてレーテの手をつかんで顔だけだしてやる。


「レーテ、ここで間違いないか?」


「あっ、ここであってます」


「そうか。じゃあ、中に入ったらまた出してあげるからもう一度ウエストポーチに収まっていておくれ」


 まだ距離はあるのでその方が良いだろう。


 町は俺たちから見て下りの斜面にある。


 草原にぽんぽんぽんと家を並べたように建っていて家の壁のすぐ横まで緑の葉っぱが生えている。


 だもんで、緑を割る様に道が伸びている。


 そんな道を歩く。


 すると次第にちらほらと行き交う人が見受けられるのだがどうにも様子がおかしい。


『病知らずの町ラーケンへようこそ』


 なんてかかれた看板があるのだが。


「ゲホッ、ゴホッ、ゲホッ……」

「ブァックショイン!」

「ゼェー……、ハァ……、ゼェー……、ハァ……」


 どう見てももれなく病気にかかっていて病知らずの町という感じはしない。


「病まみれの町の間違いだったんじゃないかしら……」


「いやあ、他所から来た人たちかも知れないぞ」


「他所から療養で来るのにクワを担ぐものかしら?」


 うん、ないわな。


 この町の人だと考えるべきだろう。


 だとすれば何かあったんだろうか。


 


 町に入り誰か暇そうな人に聞いてみようとしたところ逆に町の人の方から俺に声を掛けてきた。


 これまた調子の悪そうな男で、息は絶え絶え顔は真っ赤。


 立っているのさえ辛そうだ。


「お、おいあんた町の外から来たんだろ? ごほっ、薬、薬を持っていないか?」


「いや、持ち合わせてない。というか、身内で風邪がまん延して困っているところにこの町の噂を聞いて本当かどうか確かめに来たところだ」


「あ、あああ、そうだよな。げほっ、この町に来るのに薬なんて持っているわけがねえ。ごほっ、ああ、あいつさえ、あいつさえいなけりゃこんなことには……」


「あいつ?」


「や、病の魔女だよ! 誰ひとり病気に全くならないこの町で産まれたときからずっとあいつだけ咳をしていた。あいつが……! ごほっ、ごほっ、げほっ」


 また魔女か。


 ジュリ、ニンジンスキー、ミアに続いて4人目か。


 良く縁のあるこった。


「咳が酷いな。喉を守るのにも効果があるからこれを着けておくといい」


「へー、なんだいこりゃあ?」


「マスクだよ。おもな用途は感染予防だが他にもいくつか効果がある」


 さっきいった喉の保湿とか唾飛ばさないようにしたりとかね。


 男は不思議そうにマスクを見ていたが俺たちの顔を見ると素直にマスクを着けた。


 健康な俺たちがマスクをしているのを見て効果があるように見えたのかもしれない。


 おかげでその男はそれきり俺たちからは離れていったが、他にも俺たちに声をかけて来ては物欲しそうにマスクを見るので配ってあげた。


 その時、一言二言話もしたがいずれも薬を求めるもので、魔女についてもついでに口にしていた。


 魔女ねえ……。


「さて、しかし困ったな。結局病人だらけで薬はない。それどころか薬を求められるくらいだ」


「そうね。ところでレーテは出さなくて良いの……?」


「おっと、忘れていた」


 サラっと誘拐するところだった。


 いかんいかんちゃんと出してあげないとな。


 しかし、すぐに出してあげようとウエストポーチに手をかけたとこで爺さんが声を掛けてきた。


「おい、お前さんたち。もすかしてあの子、レーテルンを知っているのか……?」


 もしかしてのあたりからは小声だ。


 周りに聞かれたくないのかな?


 俺も小声でそれにならって応える。


「ああ、知っている。と言うかこのウエストポーチの中に入っている。死んでるとかじゃないから心配はいらない。今出すから待ってておくれ」


「はっ? その中に? いや出さんで良い! そのままワシに着いてきてくれんか?」


「いや、急にそんなことを言われても……」


「ワシはこの町の町長だ。そして、その子は五日前にこの町を追い出された魔女だ……」


 なんと。


 レーテも追い出されたと言っていたから話は繋がる。


「そうかい。で、俺たちをどこかに連れていってどうするつもりだ? 追い出されたのがレーテだとわかった以上返すつもりはないぞ?」


「どうにかするつもりなどないわ。話がしたい。それに案内するのはその子の家だ。それにむしろ、保護してくれるなら助かる」


 ふむ……。


 どういう事だ?


 信じても良いものか。


 いやまあ、何か危害を加えようと言うのであればツバーシャをけしかけてしまえばどうにでもなるか。


「わかった。そこへ案内してくれ。話をしよう」

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