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二百九十六話 軽く洗脳をお願いするのです!

 ユンにマスクを着けた。

 目に着けた。

 口に着けた。



 と言うわけでドロヴィーの壺キャッスルにやって来た。


 壺の玉座に腰掛けてるあたり何気にドロヴィーもこの城を気に入ってるんではなかろうか。


「やあドロヴィー。また来たぞ」


「ツバサか。今日はなんのようだ? またこんにゃくを作るのに石灰が必要か?」


「いやこんにゃくの為に来たんじゃあないんだ。今日はドロヴィーにお礼を良いに来た」


「礼だと?」


「ああ、骨に城なしの住人を看病させてくれているだろう?」


「ああ、そんなことか。礼には及ばない。病気が流行っているときは協力するものだぞ」


「それはそうだが直ぐに協力するだなんてなかなかできることじゃないぞ?」


「ふ、ふむ? それほど事かな?」


「そりゃあな、それほどのことだぞ」


 あまり誉められなれていないのかとても嬉しそうだ。


「しかし、どうしてそこまでしてくれるんだ? ほとんどはドロヴィーの知らない人だろう?」


「そうだな。妾はここの住人をほとんど知らない」


「そうだろう? それだけじゃない。俺たちはドロヴィーのお城を壊してしまった」


 まあ、全部城なしが悪いんだが……。


 今までさんざん世話になって助けられてて来たのに城なしがやったことだから俺は関係ないなんて言えない。


「ふっ、さっきも言ったがどんな理由があれ病気が流行っている時は協力しなきゃダメだろう。まあ、病気は嫌いっていうのもある」


「そりゃあ、病気が好きなやつなんていないだろうが……。いや、そんな話をわざわざするってことは何かあったのか?」


 ドロヴィーは目を細めて懐かしむような、そしてどこか悲しげな瞳で視線だけを落とす。


「昔な。妾の母上と父上が病気になったんだ」


「ドロヴィーの両親が? ん? 吸血鬼って病気にならないんじゃないのか?」


「ならないが……。ああ、吸血鬼の方の母上と父上ではないぞ? 産みの親の方だ」


 なるほどそりゃそうだ。


 吸血鬼に噛まれる事によって吸血鬼になるんだから産みの親はそりゃ別にいるわな。


「酷い流行り病だった。あっと言う間に村中に広がってしまった」


「それは……」


 重々しい雰囲気に圧されて言葉がでない。


 そんな俺を気にとめずドロヴィーは話を続ける。


「唯一病に掛からなかったのは妾だけ。そこで母上と父上によって小舟に乗せられてな」


「ん? 舟に? なんでそんなところに」


「海に流せば妾にはうつらないと思ったのだと思う」


 そんな馬鹿な。


 そんなの助かるわけがない。


「神にでもすがるしか無かったんだ。案の定漂流はするし、結局妾も海上で病にかかって苦しんだがな。まあ、そうして流れ着いた先があの島だったと言うわけだ」


「なるほど」


「おっと同情は要らないぞ? この話は悲劇的な結末に終わる訳じゃないからな」


「ドロヴィーは今ここにいるもんな」


「ああ。だが、それだけじゃないぞ? なんと妾が海に流された直後どんな病でも治せる者が村に立ち寄って村の人を一瞬で治してしまったそうだ」


「流石にそれは嘘だろう」


「本当だぞ? なんでもそんな奇跡を起こしたのは転生者だったとかなんとか」


「あー……」


 転生者か。


 それならありそうだ。


「まあ結局、妾の寝ている間にみんな歳喰って死んでしまったがな」


 不老不死故の哀しみか。


「もっとも死に際に立ち会ったり死んだと誰かに伝えられたわけでもない。ただ絶対に生きてはいないだろう月日が過ぎただけ。悲しくなんてない」


「ドロヴィー……」


「おっと勘違いしないで欲しいぞ? あの時村のみんなは病気で死ななかった。それだけで十分なんだ」


 なんだか重たい雰囲気になってしまった。


 もうこの話を切り上げたい。


 なんかないかな。


 あったわ。


「あっ、そうだ。ドロヴィーにもあるんだ。ほらっ」


 ウエストポーチからドロヴィー用のマスクを取り出して手渡す。


「なんだこれかわいい……」


 ドロヴィーのはデフォルメしたコウモリのマスクだ。


 少し離れてみると笑っているように見えるトリックアートのおまけ付き。


「風邪の予防に使うものだから吸血鬼には必要のないものだけど、ドロヴィーだけないのは寂しいだろうからあげるよ」


「うむ、ありがとう」


「どういたしまして」


 さてこれ以上長居している場合じゃないな。


 すっかり下層へ来た目的を忘れていたが俺はマスクをジュリへ届けに来たんだった。


「そろそろ帰るよ。ああそうそう、もし可能なら骨にもマスクを着けてくれるとありがたい」


「さすがにそれは無駄が過ぎるんじゃないか?」


「まあ、そうなんだけど──」


 10人に2人がマスクを着けていたら残りの8人は違和感を覚えるだろう。


 だが、10人の内8人がマスクを着けていたら残りの2人はどう感じるだろうか。


 多くの場合着けなきゃいけないように感じたりつけていないことに不安を感じるハズだ。


 この集団心理を利用してマスクを普及させたい。


 これを人は同調圧力と言う。


「──だから骨でも良いから大勢がマスクを着けていると言う事実が欲しい」


「んー……。つまり洗脳か? 妾の【魅了】を使えばもっと強力に従わせられるぞ?」


「そこまで強力に従わせてしまったら絶対副作用が起きるだろう」


 城なしの住人がゾンビみたくなるのは嫌だ。


「そうか? まあ、それぐらいなら易い話だ。骨にマスクを着けるように言っておこう」


「助かる。これが骨用のマスクだ」


 そういってドロヴィーに渡したのはなんの細工もないスタンダードの物だ。


 人によってはかわいいのよりシンプルな方を求めるだろうし、下層用にはこちらを主流に用意した。


「あまり数はないから恐らく足りない。でもたりない分はまた持ってくるから」


「ん? いや、このくらいならこっちで作れる。最近骨たちは服を自作するようになったからな」


 ああラビの骨は全裸なのです発言が効いてるのか。


「じゃあお願いするよ」


「任せておけ。同調圧力というのに妾も興味があるからな」


「おいおい、悪用はしないでおくれよ」




 さて、話が着いたところで今度こそジュリのところへ向かう。


 つもりだったのだが。


 途中お姫さまの声に気を引かれてうっかり足を止めてしまう。


「うっ、ごほっごほっ。この病も神さまが与えた試練に違いありません」


「俺が病気をばらまいたかの様な言い方はよしてくれ」


「あっ、神さま! うっ、こほっけほっ」


 ああ、お姫さまも結構ひどいな。


「無理矢理に動いて祈ることなんて俺は望んじゃいない」


「しかし……」


「あまり使徒が神を困らせるものではないだろう?」


 そっとマスクを着けてやる。


「あっ……」


 ん?


 なんだかぼーっとしたまま動かなくなってしまった。


「おい、大丈夫か?」


「ありがとうございます。私は救われたのですね……」


 どうだろう。


 マスクひとつで救われるなら苦労しないんだが。


 その辺を歩く骨を捕まえてお姫さまを託すと俺はジュリにマスクを渡して城なし上層に帰った。

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