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二百九十五話 おすそわけなのです!

 マスク作った。

 かわいく作った。

 ラビと狂竜が喜んでくれた。



「ごほ、げほ、ごほ……」


 うう、頭がぼんやりする。


 視界もあいまいでふわふわキラキラする。


「ご、ご主人さま。ラビのせいでご主人さままで風邪をひいてしまったのです……」


 オロオロ、ションボリするラビ。


「心配しなくて、良いんだよラビ。ご主人さまは大丈夫だから……。ゲホッ、ゲホッ……」


「全然大丈夫そうじゃないのです……」


 ラビのお耳までしょげてしまっている。


 でも、ラビの風邪は治ったみたいだよかった。


「そうだ! ラビがご主人さまの看病するのです」


「ありがたいが大丈夫か?」


「ラビにお任せなのです!」


 さっそくラビが昨日のポタージュの残りを持ってきてくれた。


 ズルッ。


 たが、ここでおドジが炸裂。


「はわわわわわ!?」


 バッシャーン!


 俺はポタージュを顔面にぶちまけられて。


「とても熱い……」


「い、いま冷すのです!」


 そう言ってラビが水瓶を持ち上げれば。


 バッシャーン!


 水瓶の中身を頭にぶちまけられて。


「とても冷たい……」


「い、いま温めるのです!」


 ふむ。


 看病どころではないな。


 しかし、それでも俺の心は満たされていた。


 しあわせを感じていた。


 そう、それはまるで夢のようで──。




「だって夢なのです!」




「──えっ?」



「だって本当のラビは……」



 そこで目が覚めた。



「ごほっ、ごほっ」


 となりの部屋からはラビの咳が聞こえる。


 夢か……。


 最後怖っ。


 しかし、どおりで熱い物や冷たいものをかけられても冷静でいられたわけだ。


 俺の体も健康そのもの。


 ラビと代わってあげられたら良いんだが。




 朝の支度を済ませると俺は下層にひとり降りた。


 マスクを配るためだ。


 もっとも、全部ジュリに渡して配ってもらうつもりだが。


 と、そこへ早速俺を見つけたユンが駆けて来る。


 でも、いつもより動きの悪い走り方だ。


「騎士さまー! ごほっ、ごほっ。騎士さまおはよー! げほっ、ごほっ」


「おはようユン。すごい咳だな」


「はあ、はあ、あのね騎士さま聞いて! まーのからだがなんだか熱いの。ねえ! これって恋ってやつなのかな!? ごほ、げふぉっ!」


「それは恋じゃなくて風邪ってやつだ。治るまでおとなしく寝ててくれ」


 息は切らすし咳もしているのにとても元気だ。


 というか風邪だと認識できてない上にいつも通りに動こうとしてるんだ。


 からだへの負担がすごそう。


「えー? まーは走れるよ……!? ごほっ、こほっ」


 ドサッ!


 あっ、倒れた。


「おい、ユンしっかりしろ!」


「はあっ、はあっ、えへへ騎士さま。まーはやっぱり走れないみたい。死んじゃうのかな……」


「少なくとも今走ったら死ぬからおうちかえって寝ような」


 今度は落ち込んでしまった。


 走るのがすべてみたいなユンだもんな。


 からだが動かないなんて死ぬのと変わらんのかも知らん。


「はいこれユンのだ」


 ハアハアと息を荒くするユンのお口にマスクを装着。


 馬のお尻をイメージしたそれは着けると馬がマスクに穴を開けて口に入ろうとしているように見える一品だ。


「騎士さまこれなあに?」


「マスクだよ。ちょっと息苦しいけど喉が楽になるからちゃんと着けとくんだぞ」


「んー……」


 やっと大人しくなったかな。


 なんてのは勘違いでユンはバッと顔をあげるとはしゃぎだす。


「良い! これ良いよ騎士さま! ごほっ」


 誉めてくれるのはありがたいがもう少し落ち着いて欲しいんだけど。


 と言うかマスクの着け方がおかしい。


「えっ、なんで目にマスクしてんの?」


 いつの間にずらしたんだ。


「なんかね、こうしていると落ち着いてすごく走れる気がしてくる! うっ、ごほごほっ」


「いやそれは目を隠すものじゃあないからな? それに落ち着くどころか興奮してるじゃないか」


「うん! さあ、騎士さま。一緒に走ろう! ごほっ」


 ユンは人の話を微塵も聞かない。


 しかしなんで目隠しして喜ぶのか。


 馬の習性か?


 そう言えば競争馬の視界を狭めるようなマスクを着けたりすることもあったような。


 たしかあれって気性の荒い馬が余計なもん見ないでレースに集中できるようにするもんだったか?


 まあ、少なくとも視界を全部を塞いだりするのは違うとわかるわ。


「うん。まーは走れる!」


「今は走れないから……。あっ、こら。走り出そうとするんじゃあない!」


 バタン……。


 って、言ったそばから倒れるし。


 全く油断も隙もあったもんじゃない。


「何枚かマスクをあげるから一枚は口に着けておいてくれよな」


 目に着けたマスクを口元に持っていっても再び目につけそうなのでもう一枚出して口に着けてやった。


 見た目がわけわからんになっているが機能性を優先する。


「さて、おうちに帰ろうな」


 俺はユンをお姫さま抱っこで抱き上げた。


 が、そこでユンが暴れだす。


「わっ、わわわ、騎士さまこの格好やだー。ごほっ」


「ああすまん、恥ずかしかったか」


「違うのまーは馬なの……」


 なんのこっちゃ。


「あのね、まーたちは馬をこんな形で抱っこしないよ?」


「ん……。あー、確かに馬をこんな抱っこの仕方したら暴れまくりそうだ」


 そのあたりの反応も馬なのか。


 ユンは俺の手の上でごろんと転がり体勢を変えた。


 昆布でも両手で掬い上げているような格好だが良いのかこれで。


「ふー、落ち着く……」


 良いのか。




 ユンの家についた。


 中は以外にも小綺麗だ。


 散らかしているイメージだったんだが。


 もっとも走ること以外に興味がなく、走るための物以外の物は必需品しかないから散らかりようもない。


 そんな気もする。


「おっと、このまま横にするわけにはいかないな」


 ユンの手足は泥だらけ。


 膝当てと指ぬき手袋を外して丁寧に拭いてから寝床に寝かせてやる。


「まー眠くない……、走りたい……」


「我慢しておくれ」


「じゃあ夢で騎士さまと走る……」


「ああうん、それがいいなそうしてくれ」


 眠くないといったが、5つも息を吐いた頃には眠ってしまった。


 特にユンの寝顔を見ていても仕方がないので家を後にする。


 そうして外に出てみると異変に気づいた。


 ん……? ずいぶん骨が歩き回ってるな。


 最初はなにか物々交換でもしているのかと思ったが手に荷物を持っているわけでもない。


 何より数が多すぎる。


 いったい何が?


 行き来する骨を目で追っているとその内の一体がこっちへ向かってきた。


 ぺこり。


 歩きながら骨は軽く会釈。


「あっ、どうも」


 会釈されれば俺も当然反射で会釈する。


 世界は変わっても体にしみついたこう言う習性は抜けない。


 骨は足を止めずそのままユンの壺ハウスに入って行った。


 ちょうどいい。


 何をしているのか覗いてみよう。


 音を立てないように中を覗く。


 骨はユンの頭に水で濡らした布をのせたり、早くも乱れた寝床を整えたりしている。


 どうやら、看病をしているようだ。


 なるほど。


 骨は風邪ひかないもんな。


 これはドロヴィーの計らいか?


 まあ、何にしてもこれは感謝を伝えにドロヴィーのところへ行くべきだろう。


 俺はドロヴィーの壺キャッスルに足を向けた。

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