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二百八十四話 吸血鬼の名は

一万文字ちょいあります。

短くできなくてごめんなさい。

 閉じ込められた。

 奥に進む事にした。

 誰かいた。



 部屋には結構な奥行きがあり一番奥に玉座が見える。


 玉座の前には階段があるので陛下と敬称すべき存在が玉座に座っているハズなのだが、なぜか偉そうに姿勢を崩した女の子が座っていた。


 黒のジャケットに赤いシャツ、裏地はそれぞれ色が反転していてジャケットの襟は赤くシャツの襟は黒い。


 そんな洒落た格好をしているからには流れ者が城に住み着いたなんて話ではなさそうだ。


 だとすればこの女の子もそれなりの地位にあるんだろうからやっぱりちゃんと城なしを城の真横に落としてごめんなさいと言わなきゃいけなそうだ。


「ご主人さまご主人さま。さっきから女の子がちょいちょいと手招きしているのです」


「すー」


「おっといかん考え事してた。あれはそうだな。うん、多分近こう寄れってやつだ」


 遠すぎて話し声なんて届きやしないしな。


 階段のちょっと手前まで進んだ辺りで女の子が手で止まるように促して来たので止まって見上げる。


 女の子は光の加減で白にも灰にも映る髪色の長い髪をしていて、肌は染みひとつないまっしろで瞳は赤い。


 キレイではあるのだけれどなんだか見ていると不安になる。


 ん? あれおかしいな【風見鶏】で見えない。


 調子でも悪いんだろうか。


 俺が女の子を観察していると、女の子は口を開き長めの犬歯を覗かせた。


「ようこそ妾の城へ。なにぶん長き眠りより目覚めたばかり故、少々埃っぽいのは許すが良い」


「そりゃお構い無く。それより突然やって来てこっちの方こそ申し訳ない」


「なに構わぬ。常夜の孤島ゆえ客など久しく訪れていないが拒んでいるわけではなく楽しみにしているのだぞ」


 おや、ここは孤島だったのか。


 突然城なしが降下したものだから島だってのはわからなかった。


 まあ、わかったところでどうということはないが。


 それにしても偉そうな物言いではあるけど、淀みなくよく口がまわる子だな。


 ふつうこのぐらいの子だとこう言ったかしこまった会話をするとき、どこかぎこちない感じが抜けないものになってしまうものだろう。


「それで汝は……、うっ、ごほっ、ごぼぉっ」


 女の子は何か言おうとして突然むせ始め血を吐いた。


「おっ、おい大丈夫か?」


「すまない見苦しいところを見せたな。なに心配には及ばぬ。ちと血を飲みすぎてな」


「えっ? 血?」


 何を言ってるんだこの子は。


「ああ、さっき血を啜ったばかりだからな」


 そう言えばさっき血抜きされたうり坊が城から放り出されていたな。


 って、あれを啜ったのか?


「いやいやないない。血なんて生臭くて飲めたもんじゃあないだろ」


「おい疑ってるのか? ほ、ほんとなんだぞ?」


「そうかそうか」


 俺が信じないものだから弱気になって偉そうな物言いでなくなってしまうあたりはやっぱり子供らしい。


 不安そうに念押ししてくる様子がなんだかかわいそうに見えたので二言目はうなずいてみせた。


 いけないいけない。


 子供相手に疑って掛かるのは余計かたくなに否定しようとするだけだ。


 こういうのはそうなんだねといったニュアンスでソフトに受け流した方が良い。


「うおい、妾を子供あつかいしするな」


「いやだって、ちっちゃいじゃないか」


 立ち上がっても俺の腰のあたりまでしか背丈がないだろう。


 と、いかん。


 いったそばから疑ってしまった。


「ぬぬぬ、ちっちゃく無いことがえらいのか?」


「いや、ちっちゃくても良いんじゃないかな?」


「ええい慰めはいらん。よしわかった。そうまで言うならおっきくなってやる」


 そう言うとちっちゃい女の子は玉座から降りてその後ろに回り何やらごそごそし始める。


 はて、何をするつもりなのか。


「んしょ、んしょ……」


 ちっちゃい女の子は四角い箱を玉座の前に積み始める。


「むっ? またちっちゃいとか言わなかったか?」


「いや、思っただけで口に出していないぞ?」


「同じじゃないか!」


 まったく違う。


「まあ良い。見よ!」


 そう言って女の子は四つほど重ねた箱の上に飛び乗った。


 あぶない。


 落ちやしないかとハラハラする。


 上から俺を見下ろす女の子の瞳はオオカミのようにギラギラしていた。


 ゆるめた口元から異様に発達した犬歯が覗き、それはまるで牙のようにも見える。


 更に下を見れば腕を胸の前で組み、ふんぞりがえっているのがわかる。


 更に更に下を見るとバランスが取りにくいのか足がプルプルしている。


「これでちっちゃくはなくなった。簡単なことよ。人間とは本当に些細なことを気にする」


「そうだな。ちっちゃくないちっちゃくない。だからそこから降りような。落ちたら怪我をしてしまう」


「ええい、子供扱いするな。そんなドジは踏まん!」


 ラビなら確実にそのセリフのあとにおドジするわ。


 と、思ったそばから。


 グラリ……。


 バランスを崩す。


 っと、これはいけない。


「うっ、うわわっ?」


「危ない!」


 箱を積み上げてその上にのるだなんてのは大変危険な行為だ。


 良い子はマネをしてはいけない。


 俺は幼稚園に通っていた頃それで利き手を骨折した。


「あっ……」


 ともかく俺は女の子の元に駆けつけ、崩れた足場から投げ出される女の子を受け止めた。


「ふう、あんまりおいたしちゃダメだぞ?」


「まだ子供あつかいするか! ふぅ、デリカシーのないやつだ」


 しょうがないやつめと言わんばかりにため息をつかれてしまった。


 いや子供だし。


 そう、俺は女の子をただの子供だと思っていた。


 だからこそ次の暴挙を俺は予測出来なかった。


 女の子はまるで恋人同士のように腕を抱きついてきて、そうか思うと顔を俺の肩の辺りに埋めた。


 そして首筋をチロリと舐める。


「おっ、おい、何をす──」


 ガブッ!


「──えっ?」


 ちゅーっ、ちゅーっ。


 何をされているのかわからなかった。


「ぷはっ!」


 よだれが糸を引く。


「ふっ、やはりイノシシよりも人の血の方がたぎる」


「お前、まさか……」


「おっ? 分かるか?」


「吸血鬼ごっこがしたいのか?」


「ごっこしたいわけではない!」


 何が悔しいのか知らんが地団駄を踏むところがやっぱり子供っぽい。


 そんな俺たちをやり取りを見ていたラビが声をあげる。


「ご、ご主人さま!」


 いや、見てはいないのか?


 顔を両手で覆っている。


 いやいや、やっぱり指の隙間から見ていたわ。


「ご主人さまはえっちなのです!」


「すす、すー!」


「えっ? ああなるほどまて違う、これは噛まれたんだ。えっちなやつじゃあない」


「そそそ、そうだぞ! こやつの血をすすっただけだ」


 いやなんでお前まで動揺しているんだ。


 まったく、おませさんめ。


 誤解を解こうと弁明しようとするもラビは頑なに信じない。


「ウソなのです! ラビは習ったのです! ちゅうすると赤ちゃんをコウノトリさんが運んでくるのです」


「すー!」


「なっ、そうなのか?」


 女の子がオロオロしながら俺を見る。


 そんなわけがあるか。


「ラビ。それは間違いだ。ちょっと考えればわかるはずなんだが……」


「ラ、ラビが間違ってるのです?」


「すー?」


 まったく、お姫さまにはもっときちんとラビに教えて欲しかったもんだ。


「そうだラビは間違っている」


「そうなのです?」


「ああ、なぜならな。コウノトリさんの見えるところでちゅうしないとコウノトリさんはちゅうしたかわからない! だから、今のじゃ赤ちゃんは届かない!」


「言われてみればそうなのです!」


「すー!」


「確かにその通りだ!」


 どうやらちゃんと理解してもらえたみたいだ。


「ばっかじゃねーの?」


 なんてカウモォーイが言っているが聞こえなかったことにする。




「まあ、そんな話はどうでもいい。それより汝は体にどこかおかしな感じがするところはないか?」


「いや? 俺は別に何も感じないが」


「ふむ? 噛みが浅かったか?」


 まだ吸血鬼ごっこを続けるのか。


 仕方がないノッてやろう。


「ヴああああぁー。ワレハ吸血鬼だぞー!」


「はっ? なんだそれは汝は妾をバカにしすぎだろう!」


「なんで!?」


 いやまあ我ながらひどい演技力だとは思うが怒ることはないだろう。


「その様子だと本当に何でもないようだな。むう……、本気で噛んだんだぞ」


 たしかに痛みの感じからふつうの人間なら首に穴が空いていたようには思う。


「どれ見せてみろ!」


 言われるがままに膝をついて噛みあとを見やすくすると嫌な顔をされる。


 お前は小さいと言っているようなもんだからそんな顔をするのは理解できるがどうしようもないだろう。


 納得してなさそうな様子ではあるがそれでも俺の首を確認した女の子は目を見開いた。


「な、なせだ? なぜ穴が開いていない?」


「いや、驚きすぎだろう。どんだけ本気で俺の首に穴を空けるつもりでカブリとやったんだ。まあ人よりちっとばかしからだが丈夫だから穴は空かないよ」


「からだが丈夫って……。そんなバカな! もう一回噛ませろ」


「ちょっ、あっ、痛っ!」


 言うが早い今度は首ではなく腕にかぶり付く。


 舌であたりをつけてから牙を突き立てる癖があるのでちょっとくすぐったい。


「むう……」


 穴が空かないのを確認するも納得はいかないようだ。


「ならここならどうだ! ここは? ここなら……」


 鼻とか耳とか指の間といったからだの柔らかくて穴を空けやすそうなところを噛んでまわる。


 一回と言ったくせにガブガブと容赦なく噛みまくり過ぎだろう。


 あま噛みならかわいいもんだが本気で噛むからとても痛い。


「おいおい、もう十分だろう。俺に穴は空かないんだって」


「ぐぬぬぬ……」


 なんでか悔しそうだ。


 理由はよくわからんが話を切り出すタイミングとしては今が良さそうだ。


 コホンと慣れない咳払いをひとつして口を開く。


「まあ、それは置いといて話があるんだ。俺は謝罪しなきゃならない。と言うか謝罪するためにここに来たんだ」


「謝罪だと? 妾を子供扱いしたことか?」


「いや、そんなどうでも良い話ではなくて城の隣に巨大な岩を落としてしまった事についてなんだが」


「どうでもよくないぞ。巨大な石が落ちてきた方がどうでもいい」


「ああうん、わかった子供扱いしたことも謝るすまなかった」


「うむ。許そう」


「そりゃどうも。で、巨大な石の方は多分見なきゃ何が起きたかわからないと思うので出来れば一緒に着いてきて欲しい」


「なんだその今まさに女子供を誘拐でもしようかといった感じのセリフは」


 なんだそりゃするかそんな事。


 ああでも首輪をしたラビの手前で説得力はないな。


「まあ見るだけなら外にでる必要はない」


 女の子がパチンと指を鳴らす。


 すると目の前の何もないところに外の様子が映し出された。


 ご丁寧に窓枠つきだ。


 なんだこりゃあ。


 一般的な魔法じゃあないな。


 吸血鬼特有のものだろうか。


 聞いてみようかと女の子を見ると驚愕の表情で固まっていた。


 まあ、城なしが突然自宅の横に現れたら誰だって驚くだろう。


「なっ、なっ、なっ、なんだこれは」


「すまん、悪気は無かったんだ。暫く経てばいなくなるからその間は我慢して欲しい」


「なんで城がボロの苔まみれに!?」


 えっ? そっちなの?


 と言うか、自分の城の状態が理解できていなかったというのはおかしくないだろうか。


「どんだけお外に出てないんだ」


「仕方がないだろう。目覚めたばかりなのだから」


「いや、いつ起きたとかは関係なくないか? ああもしかして寝起きに邪魔したとかで寝ぼけているのか?」


「人の眠りと同じにするな。吸血鬼の眠りは時に数十年数百年にも及ぶことだってある」


 ああ、まだ吸血鬼ごっこは続いていたのか。


「だからごっこではないと……。ええい、仕方がない、少し力を見せてやる」


 そう言って右手を方の高さにあげ横に広げるとその指先からサラサラと崩れるように霧に変わり女の子の姿が消えていく。


 かと思えば霧の中からたくさんのコウモリが現れ床に群がりと今度は赤い目をしたオオカミに姿を変える。


 そして最後で跳ねて宙返りするとまた女の子の姿に戻った。


 まるで手品のようだ。


「どうだ? まだ力が戻りきらないからこのぐらいで納得して欲しいのだが」


 吸血鬼っぽいかと言われればよくわからんとしか答えられない。


 仮にこれが手品だったとしてこのぐらいの歳の子がこんな手の込んだ手品を即興でこなせるとは思えない。


 さっき使った外の様子を見るなぞの魔法もなかなかだったが……。


 あっ、やたら長い犬歯が吸血鬼っぽいと言えなくもないか?


 まあいいや信じてみてもいい気がする。


「そうだな信じるよ。わあすごい本当に吸血鬼だったんだな」


「うむ。妾はすごいだろう」


「ああ、すごいすごい」


 信じるは信じるでも話し半分。


 適当にすごいすごいと言ってあしらってみたが女の子はご満悦の様子。


 きっとほめてほしいお年頃なんだろう。


 気を良くしたのか口数が多くなっている。


「あっ、そうだ。汝らにまだ名乗っていなかったな。ふっ、特別に名を教えてくれよう。妾の名は デンドロビューム・ヴァードロヴィヴュラヴェだ。間違えるなよ?」


「あーヴァヴィヴュヴェヴォ……? いや無理覚えられない。短くドロヴィーあたりで妥協してくれ」


「ドロヴィー……。ふふっ、かわいい……。あっ、ちがう! でも汝らがそう呼びたいのであればそれでいい」


 どうやらドロヴィーと言う愛称は気に入ってもらえた様だ。


 イチイチ舌がこんがりそうな名前で呼ばなくて済むのはありがたい。


「あっ、でもこれじゃあ名字と名前が反対か」


「ん? 合っているぞ? ここはヴァラキュラ公国。あー、今はアニマール公国だったか。うむ、そうアニマール公国だ。ここでは姓、名の順で名乗るのが正しい」


 ほーん。


 西洋っぽいのに日本と同じなのか。


「こほん、まあ妾についてはよくわかっただろう。次は汝らの番ぞ」


 これは自己紹介をしろって事かな。


 あんまり得意じゃないんだが先に自己紹介をされた以上しないわけにはいかない。


「あー、俺たちは」


「いや、紹介には及ばぬぞ。自分で視る」


「視る?」


 視るってなんだ。


 ドロヴィーは目の焦点をあたかも俺のからだの深いところを見るように合わせてふむふむと小さくうなずく。


「ふむ。汝は羽が生えているがそれ以外は人間と変わらんな。人間と呼べば良いか?」


「いや雑だなおい。一応翼と言う名前があるから可能なら名前で呼んで欲しい」


「そうかツバサか。忘れなかったらちゃんと呼んでやる」


 長いからとドロヴィーの名前を短くして呼んでる手前、厚かましいことを言った気がして後ろめたい。


「そっちのウサギはラビッ種、いやブラウンラビッ種か。珍しいな」


「ラビはラビなのです」


「そうかラビと呼ぼう。でその抱えているトカゲは……」


 と、狂竜に視線を移したところでドロヴィーがビクンと肩を揺らす。


「はあっ? ドラゴン!?」


「すー!」


 狂竜がドラゴンと言う言葉に反応して胸を張る。


「ドラゴンがラビッ種になつくなんて聞いたことがない……。まあ別に妾の敵ではないが城を壊してくれるなよ」


 ドラゴンが敵ではないとは大きく出たな。


 でもまあさっきの手品じみた能力を見る限り回避力は高そうだから巨大化した狂竜だと動きが鈍いから苦戦しそうではある。


「最後はえーっと、なんだこの面妖なぬいぐるみは」


 ドロヴィーがカウモォーイをよく観察する。


「こっ、これは……」


「おっ? わかる? わかっちゃう? 俺っちの隠しきれない覇王がごとくこの貫禄。いやー、見る目を持ったやつが見ればわかっちゃうんもんだよなあ? 辛いわあ」


「いや、これ程までにまるで絞りかすの様な存在力しかない悪魔など始めてみた」


「はぁ? なんだと!? このチビっ!」


 ドロビィーに掴み掛かろうとするカウモォーイ。


「おい、カウモォーイ暴力はよせ」


 慌ててリードを引くも。


 ブツン。


 と音を立てて切れる。


「ええっ……」


 これじゃリードの意味がないじゃないか。


 こいつ、端からいつでも逃げられる様に計らってたんじゃ。


 ともかく、カウモォーイを止めないと。


 俺は羽交い締めにして抑え込もうと腕を伸ばす。


 しかし、間に合わずに悲鳴が上がる。


「ぎやああああ!?」


 けれども悲鳴をあげたのはカウモォーイ方だった。


 ドロヴィーが宙を人差し指と親指で摘まむような仕草をするたびにカウモォーイがのたうちまわる。


「ほれっ、お前のような儚き存在なぞ二本の指で十分だ。ほれっ、ほれっ、ほれっ」


「ぐっ、ぎぎぎ」


 カウモォーイは身動きがとれないようだ。


 それでも体を動かそうとしてかプルプルと震えている。


「これはいったい何が起きているんだ?」


「人には見えも触れられもしないこの者の急所である存在を摘まんでお仕置きしている。ふつうは存在力と呼ばれる力に守られているんだがこの者はそれがない」


「存在力?」


 そう言えば今は力を使い果たしてすっからかんだとか言っていたっけか。


 多分その力が存在力と言うものなんだろう。


「存在というのは摘ままれるとそんな苦しいのか?」


「うむ。ぎゅっとすると死ぬぞ」


「そうか。ぎゅっとすると死ぬのか。できればそれはやめてやって欲しいんだが」


 セルフ動物園のマスコットであるカウモォーイ君が動かなくなってしまったらミアが悲しむ。


「問答無用で妾に害をなそうとしたのだ。消滅させても構わんだろう。あとチビって言った」


「まあそうだな。怒りが収まらないなら消滅させても別に構わないか」


「ぐぎぎぎ……!?」


 いや、なんでお前はなに薄情な事を言ってるんだこいつみたいな声を出して俺を見るんだ。


「あまり弄ぶものでもないな。さっさと潰してしまおう」


 さらばカウモォーイ安らかに眠れ。


 しかし、俺が冥福の祈りを終えたそのときだ。


「ぎっ、じっ、じんで、死んでたまるかあ!」


 なんと、カウモォーイが最後の力を振り絞ってドロヴィーの拘束を振りほどいた。


「ほぉ、妾の指を気合いで弾いたか。でもまあ指で摘まむのではなく手で握り潰せば──」


 すかさず追い討ちを仕掛けようとするドロヴィー。


 しかし、それよりも早くカウモォーイが動く。


「待て、待ってくださいお願いします! 調子にのって申し訳ありませんでした! まだ俺っち死にたくないんで命だけは! どうかご慈悲を!」


 おお……。


 流石カウモォーイ。


 生き意地だけは見事なもので恥や外聞かなぐり捨てて瞬く間に土下座の体勢に移り、激しく頭を床に打ち付けたりおでこを床にグリグリと擦りつけながら命乞いをする。


 着ぐるみだから痛くは無いだろうがデカイ頭がぶんぶん上下に振れるのは怖いものがある。


「──あっ、うん……」


 ドロヴィーもあまりの勢いにドン引きして素が出てる。


 揺れる声がちょっと可愛い。


 ともあれドロヴィーは勢いを失ない、取り合えずカウモォーイは命拾いしたようだ。


「まったく、カウモォーイは女の子に襲い掛かるとかなに考えてるんだ」


「コイツ女の子とかそんな可愛い存在じゃねーし」


「どっからみても女の子で可愛い存在じゃのいか」


 カウモォーイの目は濁っているんじゃなかろうか。


「ああ、うん。妾わかった。妾の説明が足りてないんだ。だからツバサは妾を子供扱いする」


「説明? 俺が何か勘違いしているのか?」


「うむ。良いかツバサ。吸血鬼は不老不死なんだぞ? 見た目通りの歳じゃないんだ」


「それは知っている」


「えっ? 知っている? ならなぜ子供扱した!?」


「そりゃあ、見た目が子供だからだ」


「いやだから不老不死だから妾も長生きしててだな」


「俺は見た目が女の子なら女の子として扱うことにしたんだ」


 シノしかりツバーシャしかり。


 さらにはエルフなんてのも存在する世界だ。


 実年齢などで女の子か否かを計ることはできない。


 ならば、見た目が全てで良いではないか。


「仕方ないじゃないか。吸血鬼は吸血鬼になったその時から歳を取らないんだぞ。見た目はずっと子供のままだ……」


「なんと……。素晴らしい。最高じゃないか」


「えっ? はっ? 素晴らしい!?」


 そうとも。


 女の子まま成長しない方が良いに決まってる。


「俺としては願ったり叶ったりだ」


「妾としては願っても叶ってもないわ! 汝の趣味など知るか」


 そうな。


 さて、このままドロヴィーとお話ししているのも悪くは無いがそろそろおいとまさせてもらおうか。


「まあ、ともかく迷惑かけてすまなかった。数日中に出ていくから許しておくれ」


「別に迷惑とは思わぬぞ。もっともここから帰す気もないがな」


「ならよかった……。ん? 帰す気がない?」


 もしかしてさみしいのかな?


 困ったな。


「友達いなくて独りぼっちで辛いのは可愛そうだと思うが俺はここに残れないぞ」


「うぉい。だから子供扱いするなって言ってるだろう。そりゃあ、さみしいのは事実だけど……」


「やっぱりさみしいんじゃないか」


「友達どころか家族もおらんからな」


「それは……」


 ああ、言いにくそうなことを言わせてしまった。


 とてもじゃないが詳しく聞ける雰囲気じゃない。


「えっ? ドロヴィーちゃんのお母さんとお父さんはどこへ行ってしまったのです?」


「すー?」


 しかしラビは空気を読まない。


 そんなの聞いてしまったらもっと重い雰囲気になってしまう。


「母上も父上も陽の光を浴びてハイになって散っちゃった……」


 うっ、ほら言わんこっちゃない……。


 陽の光を浴びて灰になるのはこちらの世界の吸血鬼も同じようだ。


 しかし灰の発音がちょっと変なのは方言か何かだろうか。


「オホン。まあ、そんなわけだから妾の城ではアットホームな感じで働ける仲間を大募集しているんだ」


「すまんが俺は労働とは相性が悪いんだ。それこそ働くなら死んだ方がマシなぐらい」


「別に生きている必要は無いから死んでも構わないぞ? むしろ手間が省ける」


「えっ? なに? 怖っ、ゾンビにでもする気か?」


「臭いからあんまり気は進まないがな。吸血で同族にして支配出来ないのだから仕方がない」


 あっ、さっき俺を噛んでいたのはそう言うこと?


 いや、俺じゃなかったら支配されちゃってるじゃないか危ないな。


 いやいや待てよ?


 女の子に支配されるってのはもしかするとそれはそれで幸せなんじゃあなかろうか。




「やるのです?」


 新たな幸せの可能性について思考を巡らせている俺のかわりにラビが問う。


「ああ。やらなきゃ汝らは納得しないだろう?」


「やっても納得できないのです!」


「すー!」


 ふむ。


 ラビは納得できないか。


 よし、ならどうにかするしかないな。


「しかし良いのか? 俺は吸血鬼の弱点を知っているぞ?」

 

「ほう? 妾の弱点を知っていると?」


「ああ、それもいくつもな」


「クックックッ、面白い。試してみるが良い」


 不敵だな。


 なら簡単にはくたばったりしないだろう。


 まずは一番簡単なのからいってみるか。


 塩をウエストポーチから取り出すと水にいれて溶かしてドロヴィーに差し出した。


「これはなんだ?」


「聖水だ。塩水ともいう」


「ふーん?」


 壺をぐるぐると傾けて中の水を転がして遊ぶ。


 飲んで欲しいんだが……。


 って、こんな渡し方をしても飲まないか。


 ゴクリ。


 あっ、飲んだ。


「どうだ?」


「しょっぱいな」


「そうな」


 大量に摂取すれば高血圧ぐらいにはなるかもしらんが、効果なしと見ていいだろう。


 なら次だ。


 吸血鬼の弱点といったらコレ。


「十字架あ!」


 俺はババッと手をクロスさせた。


「こっ、こうか?」


 すると、ドロビィーもまた同じように手をクロスして十字を作る。


 ふむ……?


「何も感じないか?」


「滑稽だなあとは思う」


 ああうんそうな。


 よくよく考えたらここはイエス・キリストのいた世界ではないのだ。


 キリスト教の象徴である十字架が通用する方がおかしい。


 聖水が効かないのも同じ理由だろう。


「なら次は──」


 ──続けてお姫さま考案の俺に祈りを捧げるポーズをとったり、ニンニクを鼻っ面に突きつけてみたりしたが効果はなかった。


「全部効かないぞ。ツバサは何がしたいんだ?」


「まてまて最後に一番効きそうなの試すから」


 俺はウエストポーチから木の杭を取り出す。


 城なし下層の畑に家畜が入らないように作った柵の余りだ。


「これならどうだ?」


「それは? それで何をするんだ?」


「これを心臓に突き立てる」


「えっ……?」


 俺の言葉にドロヴィーはビクンと肩を震わせる。


「おっ? これは効くのか。よし、とうとう弱点が見付かったな!」


「い、いや、弱点もなにもそんなの打ち込まれたらみんなだいたい死ぬだろう」


「まあ、確かに」


 弱点と言うよりは無理矢理な力業だな。


 しかもよくよく考えれば女の子の心臓に木の杭を突き立てるなんて俺にできるワケがない。


 これもダメだ。


「うーん、打つ手なしか?」


 弱点が見つからないならもう殴りあいで決着を着けるしかない。


 そうなるとドロヴィーを翼をひっぱたくとか無理だし、もうひたすら殴られまくってドロヴィーが諦めるのを待つくらいしかない気がする。


「あんまり痛いのは好きじゃないんだけどなあ」


「えっ? いやその、やるとは言っても暴力的ななにかで決着を着けるのではなく、ひとつゲームをしようと思っていたのだが」


「うん、ゲーム?」


「うむ、肝試しというのだが……」


「えっ? 肝試しなんかで良いのか?」


「おおっ、その口ぶりだと肝試しを知っているのか。どうやって説明したものかと思ったがそれなら話が早い」


「そうかなら俺がドロヴィーを怖がらせればいいのか? でも泣いちゃったら可哀想で気が引けるな」


「いやなんでだ逆だろう! ふつう吸血鬼は怖がらせる側だぞ。しかもまた子供扱い!」


 むっと膨れて抗議するドロヴィー。


 でもそのお顔がもう子供っぽい。


 しかしだとするとドロヴィーが俺を怖がらせるって事か?


 ドロヴィーは怖くないし楽に勝てそうだ。


 なら勝負を受けても良いだろう。


「わかった。肝試しをやる」


「よしそれじゃあ決まりだな」

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