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二百七十九話 首輪の病気

 チーマをひったくられた。

 ヨーグルトを煮詰めた。

 ヨーグルトを干した。

 


 ある朝俺は不思議な光景を目にした。


 ラビが何やら焦りながらオロオロして服に鎖をごしごしとこすりつけたり、掲げて光にかざしてみたりしているのだ。


 ついでにそれを見守る狂竜もラビといっしょになってわたわたしている。


 いったい何をしているんだろう。


「あっ、ご主人さま。大変なのです!」


「すー! すー!」


 俺に気づいたラビが俺のところに駆け寄ってくる。


「どうした? なにがあったんだ?」


「ラビの首輪が病気になってしまったのです!」


「すー!」


 おっと、なんだか良くわからないことを言い出したぞ。


「診てほしいのです……」


「首輪を診るってなんだい」


「赤いのがふつふつ沸いているのです」


「うむ、よくわからん見せてごらん。えー、どれどれ……」


 ラビの必死な様子に押されて首輪を見てみれば、たしかにうっすら赤い染みがあった。


 なるほど、錆びてしまったようだ。


「まあ、金や銀でなく鉄製のようだし錆びることもあるわなあ」


「これは錆びなのです? 金や銀なら錆びないのです?」


「すー?」


 おや?


 まさか金や銀の首輪をご所望なのかね?


 贅沢な奴隷がいたもんだ。


 うん、そんな話はないか。


「黒ずんだりはするけど錆びたりはしないな。だから永遠の象徴として好まれたりするんだ。それにあやかって不老不死を願ったりね」


「不老不死ってなんなのです?」


「歳を取らないし死にもしない。吸血鬼とかオオカミ男とかね。まあ、でも現実には存在しない架空の存在だよ」


 さすがに不老不死だなんてそんなにヤバそうなのはこの世界にもないはずだ。


「なんだか良くわからないけどすごそうなのです!」


「すー!」


「そうな」


 なんだか良くわからないのにはしゃいでいたラビだが、視線を手元に落とすとまたしょげる。


「なんだか汚ならしくていやなのです」


「すぅ……」


「ふむ……」


 どうにかしてあげたいが。


 錆といえば研磨剤か?


 だがそんなものはない。


 せめて、お酢でもあれば錆びおとしに使えそうだがそれもない。


 なんか酸っぱいものでもあれば代用できるだろうか?


 しかし、酸っぱいもの酸っぱいもの……。


 あっ、ヨーグルト!


「ラビ、首輪は外しておくれ。なんとかなるかもしれないぞ」


「本当なのです? でもこれ外せないのです」


「ん? 付けられたんなら、外せないことなんてなかろうに……。あっ、これは無理だわ」


 てっきりいつでも外せるようになっているものだと思ったが、キッチリ溶接されていて外せない。


 エグいとめかたしよる。


「ならしかたがない首輪は外さずにこのままやるか」


 布切れに少しヨーグルトを染み込ませる。


「これをどうするのです?」


「すー?」


「これで首輪を磨くんだ。すぐには効果がでないと思うから根気よくやるんだぞ?」


 と、毎日少しずつ何日か掛けてきれいにするつもりで言ったのだが。


 ぐしぐしぐしぐしぐし……。


  よほどラビはこの錆が憎いらしく。


 ぐしぐしぐしぐしぐし……。


 もくもくと時間を忘れて日が暮れるまで磨き続けた。




「よく飽きないな」


「磨けば磨くほどキレイになっているのです」


「すー」


 ふむ……、確かに。


 部分的には錆のオレンジはうっすらとまだ残っているものの、全体的にみればツヤツヤのピカピカだ。

 

 でもまあたんに布で擦っただけでも、ある程度は錆を落とせるのでヨーグルトの効果なのかは定かではない。


「まっ、そろそろ夕飯のしたくを始める時間だからそれぐらいにな」


「わかったのです」


「すぅ゛ー……」


「えっ、なんで狂竜怒ってんの!?」


 狂竜はいつもラビの言葉尻に追従しつて言葉を発しているのにラビと違った反応をしたので驚いた


「この布の臭いを嗅いで怒ったのです」


「なんでそれぐらいで……。うっ、臭っ!」


 放置した台布巾の臭いにヨーグルトの甘い臭いが重なって酷い臭いがする。


 ともかくこのままでは狂竜が暴走してしまう。


 ええっと、貝殻貝殻……。


「あっ!」


 慌てすぎて手元が狂い落としてしまった。


 カランカラン……。


 貝殻はラビの方へと転がる。


「ラビが拾うのです」


 そう言ってラビが一歩踏み出せば貝殻にうっかり爪先をぶつけて勢いよく蹴り飛ばす形に。


「あっ、ああっ……」


 バビューン……!


「飛んでちゃったのです」


「そうな」


 貝殻は上層から転が落ちて下層にいってしまった。


 狙って蹴ってもあんなには飛ばないだろう。


 なんでこんなときだけ……。


「ォォォォ……!」


 そんなことをしている間に狂竜の咆哮が響き渡る。


 あらまあとうとう狂竜が巨大化してしまった。


「わたしが抑えるわ……」


 そこへ駆け付けたツバーシャ。


 さすがツバーシャ事態の飲み込みが早い。


 しかし、ツバーシャで狂竜に勝てるだろうか。


「できるのかツバーシャ?」


「まかせて……」


 なぜかその時、ツバーシャの横顔が輝いて見えた。


 そうか、ツバーシャだって成長するんだ。


 狂竜に勝てたっておかしな話じゃあない。


「わかった。ツバーシャを信じる!」


「ふふっ……」


 不敵に笑うツバーシャ。


 たが──。



「ルガアアアアァァァァ!」


「ォォォォ……!」


 どかっ、ばきっ、すざざざざー……!



 ──三秒で負けた。


「ツバーシャー!」


「くふっ、かすり傷よ……」


「いや無理をするんじゃあない膝が笑ってるじゃないか、と言うかもう既に人の姿になっちゃってるし」


「でも……」


「大丈夫。俺はツバーシャの頑張りをちゃんと見てたよ」


「うん……」


 ツバーシャの目頭をそっと親指でなぞってやる。




 そのあとはもう俺にはどうすることもできず、ただただ眺めているしかなかなった。


「ムガー!」


「ンガー!」


 どこからか現れた地球外生命体さんとクララがぶっ飛ばされて空に輝いても。


「ンベアァー!」


 お姫さまがぶん投げた熊王子が風圧で打ち上げられても俺は眺めているだけだった、



 そしてあたりは暗くなる。



「すー!」


 最後にはストレス発散した狂竜のスッキリとした声ばかりが響いた。




 後日。


「やっと錆が全部消えたのです!」


「すー!」


「それは良かった」


 どうやらヨーグルトでもお酢の様に錆を落とす効果を得られるようだ。


「でも、鉄だけ錆びるなんて鉄が可愛そうなのです」


「すー!」


「いや、銅も鉛なんかも錆びる。というか大抵の金属は錆びる。けど鉄がもし錆びなかったら火をつけるのだって大変な苦労だぞ?」


 例えば火打石だ。


 火打石なんて石は存在しない。


 あれは鉄を含んだ石と硬い石の組み合わせを火打石と呼んでいるだけだ。


 で、仕組みとしては鉄を硬い石で叩いて鉄を削り削れた鉄が摩擦熱で酸化反応を起こして発火し火花となる。


 そんなわけだから、錆びないということは酸化反応が起こらないということになり、鉄が錆びなければ火がつかなくなってしまう。


「なんか難しくてよくわからないのです」


「すー」


「まあ鉄は錆びるから偉いって話さ」


 もっとも火なら魔法でつければ良いという話だが。


 しかし、首輪の病気はなんとかなったが、人が病気になってしまったらどうにもならない。


 健康には気を付けよう。


「ふぁ……、へっくしっ!」


 おや?

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