二十七話 荒らされているのです
あれから二週間が過ぎた。
今日も地上の様子を見るために空を飛ぶ。
「はー。地面が真っ白なのです」
「城なしは北上していたのか。お次は雪国ねえ」
「緑の上にも白いのが乗っているのです」
こんな雪の世界でも木は育つんだな。
逞しいもんだ。
白に緑が気持ちいい。
地上に降りるとするか。
俺は人差し指を立てて腕を前後に降りシノに手信号を送った。
「地上に降りるのじゃなああああ!」
伝わったようだ。
さて、着地して雪国探索と洒落こみますか。
「このまっしろでふわふわしたのはなんなのです? 美味しそうなのです」
「雪なのじゃ。これラビ。口に入れてはならん」
「あっはっは。お腹が冷えちゃうよ」
かき氷として頂くにはシロップが欲しいところだ。
しかし、雪はだいぶ溶けているみたいだ。
見た目は柔らかそうだがさわってみると固い。
気温も高いな。
もしかして夏なのか?
良い時期に来れたようだ。
「今日は何を集めるのです?」
「また石かのう?」
「そうだなあ──」
薪もそろそろ欲しいが……。
うーん。
かなり湿っているけど、枯れ木枯れ枝は何とか集まるかな。
「薪と石を集めたい。二人も手伝っておくれ」
「このびしょびしょの木で良いのです?」
「乾かして使うのじゃろう。たくさん集めるのじゃ」
雪を端からどかしていかないとダメだな。
持ってて良かったスコップちゃん。
ザクザク掘れるわ。
「さて、薪も石も集まったし、城なしに帰ろうか」
「来るのです……」
「ぬ? 敵かのう?」
人が住んでいる気配は全くないからな。
獣か魔物だろう。
雪国だと狼や熊辺りが濃厚だろうか。
【風見鶏】を発動させておくか。
「見える!」
さあ、何が出る?
「ケェェェ!」
「鳥さんなのです! 美味しそうなのです!」
「うむ。でっかくて美味しそうじゃのう。でも魔物じゃからな。気を抜いてはならん」
「シノ、ヨダレ拭こうね。説得力ないからね」
しかし、鳥かよ!
二足で地を這うダチョウみたいなやつが北国にいて良いのかよ!
あまり寒いところにいるイメージは無いんだが。
魔物だから寒さとか関係無いのかな。
この鳥さん俺の知ってるダチョウの3倍はあるし。
「シノ、何か術使える?」
「巫女の術であやつのご先祖様をおろしてみるかの?」
「いや、意味なさそう」
あれ?
実はこの巫女忍者猫又ちゃん戦力外?
戦ってるとこ見たことないし。
いや、そうか。
暗殺が主体だろうし、正面からド派手にどーんとかないか。
「ひえええ。何かすごい早さで突っ込んでくるのです」
「落とし穴でも掘るかのう?」
「はっはっは。そいつは名案だな。スコップ貸すから穴掘っててくれ。あいつは俺が惹き付ける!」
あんだけの早さで突っ込んでくるのなら、落とし穴にハマってくれるだろう。
とは言え、惹き付けるってのがなあ。
これがなかなか難しい。
前に立てば、それだけである程度は気を惹ける。
でもそれだけじゃあたらん。
だから俺は高速で横に腰をふり、つま先立ちで鳥さんの前に立って円を描くように舞った。
「そーら、こっちこーい」
「け、ケェェェ……」
「ご主人さま凄いのです! 鳥さんがドン引きしてるのです」
「さ、流石主さま。戦いに華を求めないとはのう……。あっ、穴ほれたのじゃ」
君たちの為に体張ってるんだからね!?
あと、落とし穴掘るの早すぎるだろう。
忍者だからか?
全く落とし穴の気配が感じられない偽装までなされているし。
やはり忍者、器用さが高い。
まあいい。
後は落とし穴に鳥さんを誘導するだけだ。
「そらこっちだ!」
「ケェェェ!」
そして、鳥さんは落とし穴に落ち、動けないところを俺が魔法で仕留める。
「【放て】」
「流石ご主人さま。あっと言うまにやっつけたのです!」
「うむ。主さまは凄いのう。ささ、早く血抜きしないと固くなってしまうのじゃ」
血抜きと解体は、こちらの世界に来てから何度かやったので出来る。
動物なら仕留めるのを躊躇うが、魔物なら何でか苦にならん。
絶対に襲いかかって来るからかな。
しかし、デカイから大変なんだよなあ。
時間が掛かりそうだ。
それでもがんばって処理を終えた。
俺たちは羽とトリ肉を手に入れた。
「保存用に雪を持っていこうか」
「もう入らないのじゃ」
「むう。城なしには悪いが少し石を置いていこう」
こんな肉をウエストポーチに突っ込んでおいたら、いくらマジックアイテムとはいえ容量とられて邪魔になる。
肉は城なしに置いて置きたい。
壺を二重にして、間に雪入れて冷蔵庫にしよう。
氷なら水の入った壺持って空飛べば作れる。
でも、そんな事するぐらいなら、雪集めた方が早い。
「荷物がいっぱいになったし城なしに帰ろう」
「お肉はひさしぶりなのです!」
「楽しみじゃのう」
食いしん坊さんめ。
今日はお肉をたらふく食わせてやろう。
ハム、焼き鳥、肉団子、鍋……。
鍋かな?
そんな風にレシピをあれこれと思い浮かべながら、帰還のために空へ飛び立った。
そして、城なしに帰ると異変が起きていた。
「ふえええ。荒らされているのです……」
「さつま芋の壺が何個か割れているのじゃ」
「これは一体──」
何者かが城なしに侵入したのか?
でも今はもう居ないようだ。
「せっかく、つるが伸びてきたのに悲しいのです」
「これぐらいなら、植え替えてやれば大丈夫だよ」
「主さまは冷静じゃのう」
そりゃあ、この程度の被害ならあってないようなものだからな。
俺は元ニートで庭にネコのひたい程度の畑を持っていた。
そして、その畑は結構な頻度で、破壊された。
台風で折れたり吹っ飛んだり。
雨降りすぎてぐちゃぐちゃになったり。
鳥や虫にはっぱ食われて茎だけになってたり。
それに比べりゃ、壺が割れて中身が出ちゃったぐらい可愛いもんだ。
だから、さつま芋の被害はどうでもよいのだが──。
「この足跡なんだろうな。ずるずると尻尾引きずった跡もあるんだけど」
「とてもおっきいのです」
「厄介な輩が、ここに立ち寄ったようじゃのう」
尻尾が生えていて、デカイ足跡を残せて、当然城なしに来れるのだから翼もあるだろう。
だが、城なしは移動しているし、もうここに来ることもないか。
俺たちは、取り合えず荒らされた所を直して回ることにした。
 




