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空を飛ぶしか能がないから空の上で暮らすわ 〜ご主人さまはすごいのです!~  作者: つばさ
十五章 絶海の孤島 客も動物もいないセルフ動物園
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二百六十八話 変声のラビ「ゴ主人サマ! 目ヲ覚マスノデス!」

旧二百六十五話

 ニンジンを植えた。

 ネギを植えた。

 アスパラガスを植えた。



 城なし上層。


 そこは我が家があり、ラビ、シノ、ツバーシャ、狂竜にしか立ち入れない場所になっている。


 そして俺のプライベートでもある。


 少し前までは魚にハエがたかり、大変居心地の悪い状態になっていたが今は改善された。


 そんな上層のマイホームの屋根の上、ぽっかぽっかのお日さまの下にシノがいる。


 くあっと大きく口を開いてあくびを一つ。


 こちらに気づくもそっぽをむいて体を丸め。


 最後にこっちを見るなとお耳をぴっぴっ。


 その姿はまさしくネコである。


 いや、事実ネコではあるのだが……。


 まあ、元気になったようで良かった良かった。


「じぃー……」


 そんなシノを見つめる一匹のウサギ。


 もといラビ。


「こらこら、あんまり見ると居心地が悪いだろうから止めておやり」


「じぃー……」


「ラビ?」


 問い掛けてみるも俺の言葉は届かない。


 何やらラビは心ここにあらずといった様子。


 いったいどうしたんだろう?




 夜。


 ご飯時のラビの第一声。


 そこに答えはあった。


「おシノちゃんはネコになれて羨ましいのです。ラビもネコになりたいのです!」


 ははーん。


 今朝シノを見つめていたのはそう言う事かい。


「むふふ、ラビにもネコの良さがわかるのかのう?」


「でも、ラビはウサギならもっと良いのです」


「なんじゃ、ラビはネコに興味があるでなしに動物になってみたいだけなのじゃな」


 ウサギになりたいねえ。


「ご主人さまはウサギになってみたくはないのです?」


「すー?」


「俺は鳥の方が良い。翼のない生活なんてもう考えられないからな」


 最初はもし動物になれるのならなんの動物になりたいのか。


 そんな微笑ましい会話だったはずなのだが──。


「やはり鳥だろう。空を飛べるアドバンテージは大きい」


「ウサギなのです! 穴をたくさん掘れるのです!」


「ネコは自由で良いのじゃ」


「ドラゴン……」


 ツバーシャまで加わり。


「ウサギは可愛いのです!」


「ネコだって可愛いのじゃ!」


「ドラゴンだって可愛いわ……」


「すー!」


 ──いつの間にかエキサイティングしてしまった。


 今にして思えばこの時の会話を神さま、あるいは悪魔がその言葉を聞き届けたんじゃないだろうか。


 だからこそあんな事になってしまったのではないかと思う。




 その日の翌日。


 眼下に望むは上下の端がくっつきそうな三日月島。


 ちょうど内側だけが砂浜になっていて、なんぞオシャレイなカップルが旅行先にでも選びそうな島だ。


 あと、遠目にバナナとかヤシの木と思われる木が生えているのを確認できた。


 だからこの島は赤道に近いところにあるんだと思う。


 きっとあったかい。


 そんな南国情緒あふれる孤島の上空で俺は叫んでいた。


「んじゃこりゃー!? めっちゃバキュームされてる!」


 いつもの様に空を飛び、いつもの様に地上へと降りようとしただけなのだ。


 それなのに謎の力に引かれて俺は墜落しそうになっていた。


「あわわわわわ!? 落ちるのです? 落ちるのです?」


「すすすすすー!?」


「ああ、ちょっとこれはどうにもなりそうにない。落ちる!」


 そりゃあな。


「ルガアアア!?」


 一緒に空へと出たツバーシャも力負けして引っ張られているぐらいだ。


 俺が頑張ってどうにかなる状況じゃあないだろう。


 紐に結んだ木切れを振り回すかのように俺の体は振り回され、やがてまっ逆さまに落ち始める。


「ご、ご主人さま!」


「す、すー!」


「ラビも狂竜も目をつむっているといい。怖いのなんてすぐ終わる」


 人が地上に落ちるのなんてのはあっという間の話だ。


 しかし、俺は目をつむるわけにはいかない。


 ラビだけは守らないと……。


 ラビを強く抱き締めると丸くなって衝撃に備えた。




「ゴ……。ゴ主人……」


 ラビが俺を呼ぶ声が聞こえる。


 しかし、声が変だ。


 まるでヘリウムガスを吸ったかのような声になっている。


「スー!」


 それは狂竜も例外ではないようだ。


「ゴ主人サマ! 目ヲ覚マスノデス!」


 目を覚ます?


 眠っていたのか俺は。


 確か空から落ちて……。


「ソウカ、ラビト狂竜ハ無事ダッタカ……。ッテ、ナンナンダコノ声ハ!」


(これよりずっと翼、ラビ、狂竜はヘリウムを吸ったような声で喋っています)


 俺は慌てて飛び起きた。


 ラビ、狂竜、そして俺の三人全員が変な声になっているなんて何が起きたんだ。


 不安を感じ安心を求める様にラビと狂竜の姿を探した。


 しかし、姿は見当たらない。


 代わりにいたのはエリマキトカゲを頭に乗せた茶色のウサギぐらいだ。


 なんてシュールな。


 いやいや、今はそんな変なウサギよりもラビと狂竜だ。


「おーい! ラビ、狂竜! どこにいるんだー!?」


「目の前にいるのです!」


「すー!」


 目の前? このウサギは何を言っているんだ?


 と言うか……。


「うおおおおお!? ウサギとエリマキトカゲが喋っただと?」


「ラビなのです」


「すー」


 なんとウサギは自分をラビだという。


 バカな。


 空から落ちた時に頭を打って、俺はおかしくなってしまったんだろうか。

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