二百五十七話 競馬場を建設可能か下調べ
競馬場の管理運営をジュリたちに持ちかけた。
苦労話が始まったので聞き流した。
管理運営を引き受けてもらえた。
さて、日がくれないうちに今日はまだやっておきたい事がある。
幅や長さが十分なコースを作成可能か調べたい。
観客席を設営する為のスペースも確保する必要がある。
まあ、具体的に何をするのかと言えば、長い長い縄と木の杭を用意して線を引くだけである。
「じゃあ、ラビと狂竜はそっちの端を持っていておくれ」
「分かったのです!」
「すー!」
上層じゃあスペースが足りないし、何よりたくさんの人に立ち入られたくはない。
だから競馬場は下層に作る。
まずは、ラビと狂竜に手伝ってもらい縄を地面に置くだけの簡単なお仕事。
何度も動かすことになると思うので、まだ木の杭を打ち込みはしない。
縄はさつま芋のツルとツルをひたすら繋いで作ったものだ。
この縄ってのは便利なモノで、いつの時代でも正確な直線を引くことができ、片側を固定してグルグル回れば円だって描けてしまう。
その性質を最大限生かして最適な建設ポイントを探していく。
しかし、意外にもこれがなかなかうまくいかない。
「んー。どうやっても森がコースに入ってしまうな」
「森のなかを走るのはダメなのです?」
「いやー、うっかり木にどーんってぶつかったら大惨事だぞ?」
ギミックとしてはおもしろそうであるが安全面に不安がある。
森の一部を伐採、あるいは移植することも検討した方が良さそうだ。
「でもって、反対側は反対側で見世物小屋の人たちの住居である壺がコースの中に入ってしまうと来たもんだ」
「なら壺の中を走ればいいのです!」
「おおっ、それは新しいな! さすがラビ。着眼点が違う! だが、それはもう住居としての機能を果たさない!」
冗談はさておき、これについては、お引っ越ししてもらえば良いだろう。
森に生えている木と違って、壺を持ち上げて移動すれば済む。
「まあ、どっちも何とかなりそうではあるが……」
「まだなにか問題があるのです?」
「すー?」
これで物理的な問題は全てクリア出来る。
しかしながら、見世物小屋の人たちの住居や畑が競馬場の内側にあると言うのはよろしくない気がする。
景観的にも間違っていると思うし、何より見世物小屋の人立ちも落ち着けないと思われるのだ。
そう、精神的な問題だ。
見えないように全て塀で囲んでみるか?
いやいや、それも違う気がする。
「広くなったばっかりだっていうのに、もう手狭になってしまった。いっそ下層が更にぱかーって割れて新しい層が出来たりしないかね」
「んん……。良くわからないのです。ぱかーって新しい層はどんなのなのです?」
「ん? いや、真面目な話じゃあないから聞き流してくれて良かったんだが……」
まあ、せっかくだから地面にお絵描きして図解してやる。
カキカキカキ……。
「ほらっ、城なしって三角が二つ逆さまに並んだような形になっているだろう?」
「この三角ゆがんでいるのです!」
「俺に器用さを求めてはいけない」
まあ、さっきみたいにすれば、真っ直ぐな線も引けるか。
ダメ出しをもらったので縄、いや、紐を使って綺麗な三角に書き直す。
「これなら、良いだろう? この下の三角形を真ん中辺りからスパッと切って下に引っ張る。で、柱で支えると、ほーら新しい層の完成だ」
「お手軽なのです!」
「だろう? そしたらここに競馬場を作ってさ……」
さっき描いた図とは別にその横に真上から見た新しい層の図を描き、競馬場を描き加える。
「もう、ここまできたら、観客席は天井から下に向かって生やして、上から見下ろせるように。競馬場に至っては城なしからはみ出して空中コース。さながら空を走っているようにして……」
「はーっ。こんなのができたらとっても素敵なのです!」
「そうだろうそうだろう。層だけに」
なーんちゃって。
「まっ、結構やりたいことを汲んでくれる城なしだけど、さすがにこれは伝わらんよなあ」
その言葉にこれと言って城なしを責める意味や、挑戦状を叩き付ける意味を込めたわけではなかった。
ただ、伝わったら良いのにな。
こんなんできたら良いのにな。
それだけの意味で呟いた言葉だった。
のだが──。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
──城なしが揺れた。
「うおおおお!? なんだなんだ!? 城なし怒ったのか?」
「ご、ご主人さま。謝った方がいいのです!」
「そうな、すまんかった城なし」
しかし、即座に謝罪してみるも揺れは収まらない。
って、城なしに言葉は伝わりませんがな。
なら、城なしが怒る理由も無いわけで。
じゃあなんで揺れてるんだろう?




