二百五十四話 ニンジンは何度でも食べられるのですー!
農場で苗を眺めた。
たくさん買った。
楽しかった。
城無しに戻ると早速買ってきた苗を地べたに並べた。
ちなみにここは城なしの下層の中央、水がわき出ている所だ。
上の層のマイホームで縁側に腰掛けて苗を眺めているのも悪くはないが、買ってきた苗は見世物小屋の皆にお裾分けするつもりなのでここに来た。
もっとも、分配比率的に俺が裾を取って衣を譲るので衣分け等と言う新しい言葉が必要なきもする。
まあ、ともかく仕分けである。
簡単に分けられるものから手をつけていく。
「えーっと、これはこっちでこれは……」
左から右へ、左から右へ苗を持ち上げては置いていく。
「じーっ……」
「すーっ……」
そんな作業を俺の正面で両手を地面について、女の子座りをしながら、苗を凝視して目で追う一人と一匹。
「おいおい。別に見てても楽しいもんではないだろう」
「でも、ご主人さまはニヤニヤして楽しそうなのです!」
「すー!」
まあ、実際楽しい。
どこへこれを植えようかと考えるだけでも楽しい。
ふむ、どこに植えようか。
いや、そろそろ規模が大きくなってきたし、植え付ける前に、土壌を良くする必要もあるだろう。
前々から一度やってみようと考えていた土壌改善計画もある。
これを期に試してみるのも良いかも知れない。
なんて、いつの間にやら思考の渦に飲まれていたようで。
「ご主人さま、ご主人さま?」
くいっ、くいっとラビが袖を引き俺の意識を呼び戻す。
「ああ、すまん。いつものやつだ。で、何の話だったけか?」
「ご主人さま。ニンジンを再生させるのです!」
「すー!」
あっれー?
そんな話だったけか?
いや、いやいやいやそんな話はしてないが……。
まあラビの頭の中はニンジンの事でいっぱいなんだろう。
一緒にニンジンを再生させて楽しむのも悪くない。
「別に良いけどな。でもそれにはニンジンを食べてしまわなきゃならないわけだが」
「じゃあ食べるのです! コリコリコリコリコリコリ……」
「生、それも皮ごとだと……? 正気かラビ」
いやまあ、皮の方が栄養があるらしいが……。
俺の驚愕を他所に、ラビはニンジンを尻尾から平らげていく。
ぶっといニンジンを生で食べてもエグいだけだと思うんだがな。
種族的な特性でもあるんだろうか。
「んー。甘くてみずみずしくて美味しいのです!」
「絶対嘘だわ」
「嘘じゃないのです」
まあ、たしかに旨そうに食べちゃあいる。
「すー! すー!」
ラビがニンジンを食べる姿を見て狂竜もニンジンを欲しがるぐらいだ。
「お前はおよし。ありゃあ、ラビがおかしいんだ。絶対に後悔するぞ?」
「すー! すー! すー!」
「うーん、じゃあ、ほらお食べ。悪いことは言わないから先っちょを少しだけいただくだけになさい」
優しく諭し、黄金を手に持たせてやる。
すると、人の忠告を完全に無視して勢いよく半分までかぶり付いた。
更には、バリバリと噛み砕く。
が次第にそれはゆっくりになり、最後にはアゴを動かすのを止めてしまった。
涙を浮かべたお目々でラビと俺を交互にみやる狂竜。
「ずー……」
「ほら、言わんこっちゃない。お水をあげるからちゃんと飲み込むんだ」
「好き嫌いは良くないのです」
それはどうだろう。
果たしてこれは好き嫌いなのだろうか。
元よりドラゴンはニンジンなんて普段食べないだろうし……。
いや、芋とかバナナとか食べてるから食べてもおかしくはないか。
いやいや、そうじゃない。
生で皮ごと食べる時点でおかしいのだ。
「狂竜ちゃんが食べないならラビが食べるのです」
そういって、狂竜からニンジンを受けとり、また美味しそうに食べるラビ。
「すー!」
狂竜もそれを見てラビはおかしいと言わんばかりに訴える。
しかし……。
「そんなに旨いか?」
「ラビはきっとこれを食べるために生まれてきたのです」
「そりゃあ、大きく出たな」
なら、何としてでも種をとらねば。
なんて、決意を固めていると。
食べ終えたラビがニンジン頭の部分を捨てようとしていたので慌てて止める。
「あっ、ちょいまち、それを捨てちゃあダメだ」
「こ、この部分は食べても美味しくないのです」
「ラビでもヘタは食べられないのか……。いや、そう言う話じゃあない。それを捨てちゃ再生はできないぞ」
再生はヘタの部分を使うのだ。
「貸してごらん」
ラビから、ヘタを受けとると、ナイフでラビの歯形が残る部分を切り落とす。
毎日歯みがきをしてはいるが、ばい菌は無くならない。
ついでに、腐りやすいモノでもあるので切り落とした。
そこまでしたものだから、小指の先半分程度のニンジンだった何かが残るまでになる。
「そんな薄っぺらいので本当に再生するのです?」
「んー……。ちょっと薄い気がするけど大丈夫だろう。でも、次からはもう少し残そうか」
「わかったのです」
取り合えず、薄い木皿を取り出して水をはり、ニンジンのヘタをのせればはい完成。
あとは、待つだけである。
「生えて来ないのです……」
「いやいやいやいや、そんな直ぐには生えてこんわ。目の前でにょきにょき再生するニンジンとか怖くて喰えないだろう」
プラナリアじゃああるまいし……。
あー、でもプラナリア人族のナリアちゃんなる人物に比べたら、ニンジンが再生するぐらいで、どうと言うことはないのかも知れない。
「んふふー。ニンジンが生えてくるのが楽しみなのです!」
ともあれ、ラビは木皿を傾けてみたり、ヘタを指でつついてみたり嬉しそうだ。
「ニンジンは何度でも食べられるのですー!」
「すー!」
「あー、その事なんだがな……」
どうしよう。
再生野菜と聞いて悲しい誤解をしている気がしてならない。
よく誤解されるし、実際俺も誤解した過去があるのでこれは仕方がないことだとは思う。
ニンジンのヘタを育ててもニンジンは──。
「あっ! 騎士さまいた!」
と、ラビが近い未来に絶望する予感を受け、真実を今語るべきかと悩んでいたところへユンがやって来た。
「ん? どうしたユン。野菜の苗見たいか?」
「えっ? いや、ううん。苗はいいや。それより、さ……。あの、ちょっといいかな?」
ちょいちょいと手招きしてくる。
ふむ。
用件を言わずに呼びつけられる好きじゃあないんだがな。
しかし、何やらユンは大事な話があるのだけれどといったオーラを纏っている。
邪険に扱うわけにはいくまい。
「すまんラビ。ユンが話があるらしいから行ってくる。どれだけ掛かるか分からないから、苗にお水だけやっておいておくれ」
「わかったのです!」
「やり過ぎて水浸しにしないようにな。あと、根っこしかないやつは干からびてても水をやらなくていいからそこだけ気を付けてくれ」
念をおし、あとの事はラビに任せユンに向き直る。
「さて、ここじゃあ、話しづらそうだし移動するか?」
「うん、騎士さま、まーに乗って!」




